ふくらんだ
「いいか?もらえんなら、菓子でも悪口でもとりあえずもらっておけ。で、もらってから、どうするか考えろ」
ぽん、と、坊主が、子どもの『気』に蓋をするときのように、頭に手を置いた。
「いっしょに考えてやる。おれも、テツも、アシもいんだろ。だから、もらっても気にすんな。おまえは、伍の宮のシュンカだ」
ぶわりと、子どもの目元に水がふくらんだ。
アシは驚く。
水といっしょに、シュンカの中の何かが膨らんだ。
「コウセンの菓子、本当にいらねえのか?」
「―――――」 頭に坊主の大きな手を置いたまま、子どもは首を振る。
拍子に、水がこぼれた。
なら、貰いにいくぞという坊主を見上げ、子どもは「はい」とほほえんで、いきなり坊主にしがみついた。
何日ぶりかで、あの、心地の良い『気』があふれる。
それを心地よく感じながらも、どこか淋しく感じる己を、アシは不思議に思いながら、向かい合う二人をながめていたら、今度は絵師が現れる。
「おいスザク。そういうときは、ぎゅうと抱きかえしてやるんだよ」
この男は、時々ここへも顔を出すので珍しいこともないが、眼が合ったアシは、そっと、手招きでよばれ、一緒に台所を後にした。
「・・・おまえさ、すごく淋しそうに、二人のこと見てたよ」
「わたしがですか?」
「・・どうしようか?人間くさく、なりすぎてしまったな・・」
「セイテツ様、わたしは、役神です」
「そうだよ。おれの術で、どうにでもなる、役神だ」
「―わたしは」
「おまえのことは好きだよ。でもな、おまえは、役神だ」
「――忘れては、おりません」
「――おれが、忘れそうだよ・・・」




