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伍の宮でよかった

 チョクシとアキラは顔を見合わせ笑ってしまう。


 この男が、これほど酒にこだわらなくなるとは・・・。


「コウセンさま。西の都の商人あきんどが、珍しい菓子をくれましたよ。どうやらこのごろは、コウセンさまが甘党になられたと、噂が流れているようで」

 アキラが、くすくすと笑いながら教える。


「おれが?甘党?」


 それはそうだろう。

 今までずっと、酒しかねだらなかった天宮の台所預かりが、「なにか、こう、うまい、とか、めずらしい、とかの、菓子はねえかな?」などと、出された猪口に手もつけずに聞くようになったのだから。

「・・・ まあ、それでも、いいか」

 のん気な声が、嬉しそうに、照れたようにそれを認め、またしても、ごろりと横になる。



 陽ざしも傾き始めた青い空を見て、コウセンが聞かれもしないことの説明をし始めた。


「―シュンカはよお、ちょっとしかねえ菓子でも、必ず役神えきがみどもに分けちまうんで、味をしめたあいつらが揃っておれんとこに来て、もっと持って帰ってこいって、じかに言うんだぜ?」信じられねえよなあ、と空へと笑う。



 少し前まで役神どもは、男に近寄りもしなかったのに。



「―シュンカは、やさしい子ですからなあ」

 年寄りが、いとおしむように微笑み、アキラに、今日買った野菜と一緒に果物も届けるよういいつけた。

「はい。ですが、こうして届ける野菜も果物も、うまいものですと、役神用に多くをとっておくのだと、アシも不満そうに申しておりました。シュンカがもっと食べるべきだと」

 人間のように困った顔でそう告げた、役神である男を思い出し、アキラも穏やかに笑う。


 あの役神が、会うたびに人間くさくなっていくのが、今では楽しみでもあるのだ。少し前までは、なんの表情もなかった顔が、今ではあらゆる感情をあらわす。



「ちいせえからなあ。・・・でも、すぐ大きくなるさ。シュンカの時間は、止まっちゃいねえんだ。これから、背ものびて、声も変わって、あっという間にいい男になってよ。―― そんでもって、おれの歳を、いつか抜く」

「・・・コウセンさま・・」

「うれしいねえ。チョクシは初めて会ったときは、おれよりおっさんだったし、アキラは今と変わらねえぐらい、でかかったしな。おれな、初めてだよ。大臣になって、人間と一緒に仕事するようになってから、初めてだ。子どもから、抜かされるのってよ」


 少しの間を置き、だからよ、と続ける。


「―― ま、伍の宮で、良かったんだな」


 このさき楽しみだ、と男は腕を空へのばす。



 ちちち、と鳥が横をすぎ、無精ひげを掻く男が年寄りの視線に気付き、決まり悪げにのそりと身を起こしたとき、ふいに片腕を上げた。



「―おい、聞こえたか?」



 一斉に動きをとめ、周りのものも耳をそばだてるが、何の音も拾えない。


 がばりと起き上がった男が荷車を飛び降り、チョクシが引きとめるのも聞かずに道の脇に生えた木のあたりから、奥の茂みへ姿を消した。

  

 



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