落ちつかねえ
聞き終えたセイテツが、それはそれは、大きな息を吐いた。
「―どうもな、そういう奴らに、シュンカはいろいろと言われたようだ。コウセンや、おまえがらみのことでひどく言われ、自分を責めている・・。ああ~!!もう!シャムショに使いになんて出さなきゃよかった・・」
「出さなくとも、いつか言われたろ。だいいち、おれだって使いに出してる」
「そうかもしれないが・・・どうも、アシの話によれば、色街で坊主相手のチゴをしろとも言われたようだ・・・」
ぐしゃぐしゃと、藁のような色の髪をかきまわす。
「ああ。あの容姿じゃ仕方ねえ」
「・・・おまえ、・・くやしくないのか?」
「あん?おれが?」
絵師はしばらく坊主を眺め、ああそうか、と頭をかくのをやめた。
「―なんだ。まだ、おまえには謝らなくてよかったな」
「なんでえ、そりゃ」
なんでもない、邪魔して悪かったなと膝をはたいてセイテツは立ち上がる。
「とにかく、そういうことがあったようだから、あんなになったというわけ」
「ふん。まあ、理由はわかったが、あれじゃあ、こっちが落ちつかねえ」
「・・・うん。まあねえ・・」
おれも同じだよ、と絵師は己の髪を引っ張った。
シュンカの、柔らかく肩まであった髪は、本人によって、ひどく短く切られてしまった。
見かねたサモンが宮へ連れ帰り、きれいに整えてくれたが、切った理由は聞き出せなかった。
態度も変わった。
こちらがシュンカを見つけて抱えようとすると、するりとよけて、おとなしく挨拶されてしまう。まだ、抱きしめるのを許されるのは、セリぐらいだ。
行儀のよくなったリンと、中庭で転げまわっていた姿も、みかけなくなった。
草木が、前ほど、勢いよく成長しなくなった。
笑い声が響かない。
何かを悟った大人のように、静かに、口元だけで笑う。
「―― シュンカじゃ、ねえみてえだ」
「・・・・・それ、おまえ、言ってやった?」
「あん?」
「おれは、すぐに言ったよ。そうしたらあの子、なんて言ったと思う?」
『一日でも早く、天宮に、伍の宮に、居ても良い人間になりたいのです』
「・・おれは、シュンカがいてくれて、嬉しいよって言ったんだけどね。ありがとうございます、なんて礼を言われてしまったよ。・・なあ、おまえが言ってやれば、あの子も少し、気を緩められるんじゃないのか?」
「性に合わねえ。だいいち、あいつが自分で考えての結果がこうなんだろう?それなら、しかたねえだろうが」
「・・でもなあ・・。コウセンも淋しがってるよ。急に大人びてしまって、菓子も渡せないって・・」
「・・・・・」
なにか、いつものごとく、情から離れたことを言うかと思った坊主は、そのまま珍しく黙り込み、のそりと身を起こした。




