すまん
― みっつ と 半 ―
「――というわけで、ほんとうに、すまん」
絵師は膝に手をそろえ、頭を下げる。
見下ろす男はしばし、その頭のてっぺんを見て黙考。
「・・・・・どれのことだ?」
坊主に聞き返された絵師は、一瞬返答につまる。
「・・え~と・・そんなに、あったっけ?」
「色街でのツケをおれにまわそうとしたことか、それとも、」と続きそうになるのをセイテツの片手が止める。
「・・・まあ、そういうモロモロのこと以外です・・。今回は、シュンカのこと」
そこでようやく、坊主の顔が変わる。
「原因は、おめえか?」
「いや。ちょっと待て」
珍しくスザクの部屋を訪れて、冷えた床にかしこまっていた絵師は、またしても片手をあげた。
なにしろ、先ほどまでベッドの上、胡坐をかいて壁にだらしなくもたれ書物を繰っていた坊主が、やおら身体をおこしたもので、慌てたのだ。
「おれ、というよりも、おれが、シュンカをシャムショへやったことに、原因が、ある、と、いうか・・」
「やっぱ、おめえじゃねえかよ」
呆れたように書物を放った坊に、セイテツはうなだれる。
「うん。どうも、アシからきいたところによると、シャムショの若い者たちに、ひどいことを言われたようでね」
シュンカが戻ったときから、おかしいと感じていた役神は、シュンカが口をひらくのを待っていた。
ようやく、目をあわせたシュンカが聞いてきたのは、色街のことだった。
「アシは、下界のことも、知ってる?」
「ええ、少しは」
「色街ってさ、セイテツさまがよく行かれるところだよねえ?」
「・・・ですねえ・・」
「そこで、おれって、働けるの?」
「・・・・は?」
「そこって、お坊様の従者を選ぶ?」
「・・シュンカ・・。だれに、なにを、言われた?」
「な、・・なにも・・あのさ、おれ、場違いだって、思われないように、がんばるよ」
「もう、じゅうぶん、がんばってる」
「だって、おれのせいで、コウセンさまも、馬鹿にされてるんだ・・・。どうしよう、アシ。スザクさまも、セイテツさまも、おれのせいで・・・」
それで、だいたいの察しはついた。
「―― ほら、シャムショに、数年前から、将軍たちが人を送り込むようになっただろう?」
「化け猫の気まぐれでな」
スザクがいうように、本当にただの気まぐれである。




