でてゆけ
おい、聞いたか?
茂みに集まる男たちが小声で騒ぎ、どうりで、とか、まったく、と呆れた声音を集め、シュンカが汚いものかのような目をよこし、最初に呼び止めた男が、振り返りわらった。
「―おまえ、ずるがしこいな」
「え?」
「おれらはみな十五でここに来てすでに二年経つが、みな、望む仕事になど就けぬばかりか、日々あの腑抜けにこき使われるだけだ」
「『腑抜け』?」
相手はふん、と馬鹿にした笑いをもらす。
「コウセンに決まっているだろう。おまえ、聞いたところだと十三になるというが、幼く見えるのをいいことに、次は四の宮でも狙っているのか?気に入られているようだし、そのほうがいいぞ。さっさと伍の宮を出て、四の宮へゆけ。『死の宮』で腑抜けと仲良く犬の世話でもすればよかろう?シャムショも、スザク様がまとめればよい」
おう、そうだ、それがよい、と男たちはうなずきあう。
「こ、コウセンさまは、腑抜けなどではない!優しくて、すごい方だ!」
白い石に、形見を入れてくれたのも、コウセンだ。
すごい?と男は眉をよせてみせた。
「チョクシ様がいなければ、何もできないではないか。シャムショに来ても仕事は他に任せ、ぶらついて酒を飲む。大人はそれに何も言わぬ。腑抜けがうつっているのだろう」
他の者がどっと笑った。
「違う!コウセンさまは、」
「だまれ!そんなに庇うのなら、さっさと宮を移れ。もしくは、セイテツ様と下界へ行ったときに、むこうの色街に引き取ってもらえ。坊主の相手をしたいのなら、ほかにいくらでも坊主はいる」
「・・相手?」
くっ、と後ろの一人が、意味もわからねえのか、それとも芝居か?と笑う。
「スザク様にはその手はつかえぬだろうから、宮に残れんな。とにかく、早く出てゆけ。めざわりだ」
「・・・いかない」
「なに?」
シュンカはぎゅうとこぶしをにぎる。
「でていかない。おれは、伍の宮のシュンカです」
見上げた相手は、今にも殴ろうかという顔でシュンカを見返す。
後ろの人間が数歩詰め寄ったところで、手をあげてそれを制した。この男が一団のカシラなのだ。
「――おれは、カイだ。覚えておけよ。おまえのような子どもは、ここでは珍しいのでちやほやされているがな、実際は、場違いなだけだ。―― 特に、伍の宮のスザク様は、おまえのようなガキが従者になれるような方ではない」
その、暗いものをたたえた眼が、こちらの首筋をあわ立たせた。




