まあいいか
子どもの声に仕事の手を止め、挨拶のように、おう、とか、よお、とかの声を出す男たちに頭を下げ、シュンカは招いてくれた男へ、いそいで抱えたものを渡しにゆく。
「今日は表からだから、菓子はやれんな」
すっかり馴染みになっている男が、自分の仕事をはしへ寄せ、それを受け取って言うのへシュンカは慌てて首を振った。
「そういやリンが、来ないな。綱でとめたのか?」
「いえ。阿吽が、預かってくれて、行儀を覚えました」
そりゃよかった、とわらう男は、やわい包み紙でくるまれる紙束をテーブルの端に広げる。
もってきた紙束が何なのか知らないシュンカは、そこから男が一枚取り出すのを目で追った。
「ほお。あいかわらず、うまい。見てみろ、みんな。セイテツ様の新作だ」
男は手にした紙を、他の男たちへむける。
動きを止めた男たちが、喜びの声をあげた。
紙には、下界の色街の女が、艶っぽい目つきで着物をはだける様子があった。
「・・・あれ?シュンカ。もしかして、見たことなかったのか?」
真っ赤になって、慌てて顔をそらせた子に、男が聞く。
何度もうなずく様子がおかしく、男たちがどっと笑った。
「そうか。セイテツ様は下界の色街で、女たちを描くのだ。それを、欲しいという金持ちやスケベな野郎どもに、売るのさ。これなど、まだおとなしいほうだぞ。希望とあれば男とまぐわ――」
楽しそうに講釈していた男が突然言葉をとぎらせ、「―じゃ、しっかり、下界に持っていくからな」と、素早くその絵をしまった。
「しっかり下界で売ってこい」
「あ、コウセンさま」
にこにことした顔で奥から現れた男は、「おまえら、おれの分もしっかり働けよ」と働く男たちを見回し、いつものようにそこを通り過ぎる。
シャムショの男たちはそれに笑って肩をすくめ、それぞれの仕事へもどる。
満足気にうなずいた男は、シュンカへ身をかがめた。
「―― リンを、阿吽が預かったんだって?」
「はい。びっくりするほど行儀よくなって戻りました」
「ふ~ん。まあ、そりゃなによりなんだが・・しかし、あいつらが、そんな役買ってでるとはなあ・・」
怪訝な面持ちを、奥に座るチョクシのほうへむけるが、まったく相手にされない。
信用する男たちは、どうにも自分に隠し事があるようなのだが、戻った子犬の様子を嬉しそうに話す子に、まあいいかと、コウセンは詮索する気にもならない。




