届け物
― みっつ ―
「おい」
低い声には、怒りがこもっていた。
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リンを阿吽に預けた二日後、シャムショに届け物をするようセイテツに頼まれたシュンカは、普段の裏口ではなく、正面から入った。
シャムショの中は広い。
ずっとむこうまである広間は、大きな石のテーブルで埋まり、その上には様々な紙の束がつまれ、それをめくる音と、新たな紙に書き込むための、墨の匂いがあふれる。
いくつかに分かれたテーブルの島は、それごとに仕事が分かれているし、奥にある大きな衝立の向こうは、神官たちが働く場所だ。
小さな人の型ではない役神たちは、普段は忙しそうな人間を見ているだけだが、神官から仕事を振られたら、シャムショの人間と下界へゆくのだ。
それらの役神をどかしながら、下界の街から買った品や金子の管理、食料の在庫の確認、東西南北の将軍たちの領地合戦の記録。山間に限りなくある様々な里の生産状況から、商店の値段の動向。今日生まれた命の記載と神官の派遣、亡くなった者の削除と、坊主たちへの弔いの依頼、と、仕事に際限のない男たちは、とにかくよく働く。
ここに来る人間は、下界で商人をしていた者や、坊主の従者だった者、街中に勤めていた者と様々だ。みな、自分が勤めていたところの上の人間に、天宮勤めを推されてやってきている。
『条件は、最低でも読み書きができ、頭と心が良い男』という達しが下界には届いていて、考えたのは、シャムショの責任者でもあるコウセンだ。
それがあまりに大雑把なため、もし、おかしな人間が推されて来たらどうすると、他の大臣からの声もあったが、その者が天宮での禁を犯したり、ひどい粗相をした場合は、推した責任者が、帝へ謝りに行けばよいということになり、そのせいか、未だにそういう者はでていない。
ただおもしろいのは、謝りに行った者などはいないはずのに、『謝った者はかえってこられない』という噂がたっている。
シュンカが初めてここを正面から訪れたときは、しばらく声もかけられなかった。
とにかく皆、真剣で、集中していて、仕事の確認を取り合う声は、怒声のようだ。
自分のような子どもが、入ってよい場所ではない、と、いつも気がおくれる。
今日も、絵師に頼まれた紙の束を抱え、それにのまれそうになるのを、どうにかこらえると、ようやく叫んだ。
「 伍の宮、セイテツさまより、お届けものでございます!」
「おお、シュンカか」
一番手前で書き物をしていた男が招いてくれた。




