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名ばかり皇帝の跡継ぎに転生させられたけど、オレはこのまま終わるつもりはない  作者: ウエス 端
スキー旅行編

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92/162

92.契約書

 フランツの館で舞踏会に出席していたはずのオレだが、いつの間にか薄暗い部屋にいて、なぜか椅子に縛り付けられている。


 どうなっているんだ?


 確か、給仕係から飲み物を貰って……。


 まだ意識が混濁していてワケがわからないのだが、部屋の前方からガチャッとドアを開ける音がして、何人か中に入ってきた。


 そして点けられた部屋の灯りで見えたのは……。


 まずはフランツとその手下っぽい柄が悪そうな男たち、続いてヤツのボディガードの片方。


 その後ろには、ヤツの彼女の1人であるカミラ、そしてソフィアとアンジェリカもいる!


「どうやら、もう気がついているようだな」


「ええ、コイツの出番に合わせて目が覚めるように薬の容量を調整しときやしたので」

 

 フランツの問いかけに答えている奴の顔は……給仕係のヤロウじゃねえか!


 それにしても出番とか、いったい何の話なんだ?



「……フランツさん、話が違うではありませんか! 私と彼がワルツを踊って、貴方と踊った時よりも拍手と歓声が大きければ、全てを水に流して安全に館から出られる事を保証すると、そう仰いましたよね!?」


 ソフィアがフランツに向かって強い口調で抗議している。


 だからオレと踊る時にあんなに挑発したのか。


 そうだよな……彼女とはくだらないことで頻繁に言い合いしているし、こんなことでなきゃオレと積極的に踊ったりしないだろう。


 あれ、オレはなんでこんなにガッカリしてるんだろう?



 それはともかくとして。


 抗議を続けるソフィアに対し、フランツは軽くあしらい話にまともに応じようとしない。


 それどころか手下どもにわざとらしく質問を投げかけた。


「お前ら、俺様とあの男のダンス、どちらがより大きな歓声と拍手をもらえていたと思う?」


「そりゃあもう、旦那の方に決まってますぜ」


「あの男の時なんて、会場の中がシーンと静まり返ってましたからねえ」


 もちろん人によって評価が違うことはよくあるが……コイツら嘘八百じゃねえか!


 オレは必死で反論しようとするが、口に猿ぐつわを噛まされていて言葉にならない。


 そんなオレに代わってというべきか、ソフィアはなおもフランツに食い下がる。


「そんなのは一方的です! もう一度会場にいた方たちに聞いてください、どちらの評価が高かったのかを!」


「客の半分以上はもう帰ってしまった。それになぜ俺様がそこまでしなければいけないのだ?」


「……彼を、一体どうするつもりなのですか?」


「決まっているだろう。俺様をコケにした奴には、それがどんな結果を招くのかを、その身体でよーく味わってもらう。今から館の地下で行われるイベントでな」


「イベント……ですか?」


「俺様の主催する舞踏会が終わったあとに開催している、ほぼ毎回恒例のものだ。大人の客たちは先に帰らせて、そのガキどもだけ地下に招いて見せている」


「……何のためにそんなことを」


「金持ちは自分のガキに甘い奴が多い……少々吹っかけてもカネ払いがいい。だからガキどもに受けがいいイベントで儲けているだけさ。その名も『裏舞踏会』ってやつだ」


「踊りの……ではなさそうですね」


「いや、一応は『踊り』だ。ただし、やられた方がマットの上で血しぶきを上げながら倒れる様を踊りに見立てているってやつだがな」


 つまりは地下格闘技みたいなイベントでボロ儲けしてるってことか。


「……彼をそこで闘わせるつもりですか」


「違うな。縛られたままでなぶりものにされる見世物として出す予定だ」


 コイツ、そこでオレをリンチにしようってのか。


 だがオレは黙ってやられっぱなしにはならねーぞ!



 しかしオレが自分の意思を伝えられないまま、この話は更にロクでもない方向へと転がっていく。


「……彼にそんな酷いことはやめてください。何か、私の方でできることがあれば仰っていただけますか」

 

「俺様は女の頼み事には弱いんだ……そうだな、特別に俺様のボディガードと闘うイベントに変更してやろう」


「それでは大して変わっていないです」


「話は最後まで聞け……闘って勝てればの話だが。今度こそ全てを水に流そうじゃないか」


「……そんなことを言って、またとぼけるつもりではないのですか?」


「いや、今度はキッチリと契約書を用意して俺様が自らサインしてやる。ただし、こちらも条件を出す」


「……なんでしょうか」


「アイツが負けたら、ソフィア……お前とアンジェリカはその場で俺様の女になるのだ。それを契約書に記載してサインをしてもらう」


 この野郎、ソフィアとアンジェリカにそんなことを要求するなんてふざけるな!


 やめろ2人とも!

 オレのことは見捨てろ、契約なんてするんじゃない!



 そんなオレの気持ちを知ってか知らずか、ソフィアは少し考える様子を見せてから、ヤツの無茶な要求への反論を始めた。


「……無理矢理そんなことをしても、私の心は貴方に靡いたりしませんよ」


「そうは言っても女は結局、強い男に惹かれていくのさ。実際に眼の前で彼氏がボロボロにされると、どの女もそいつに愛想を尽かして俺様に靡いた。そこにいるカミラもそうだった」


「……そうね、フランツの彼女としての生活も慣れると楽しいわよ。なんだかんだ言って女には優しいし」


「……そうですか。でも私はいいとして、アンジェリカは関係ありません。契約から除外してください」


「それを決めるのはお前じゃない、俺様だ」


「あのっ! わたしも契約してもいい、です。でも、それなら交換条件が足りないと思います!」


「……アンジェ、勢いでそんなことを決めてはいけません」


「お前は黙っていろ……アンジェリカ、何が足りないって?」


「わ、わたしとソフィア2人と契約するのでしたら、彼が勝った場合に得られるものが2つ必要です」


「何だと?」


 フランツが鋭い目つきで睨んだのでアンジェリカは怯んでしまった。


 絶対に許さんぞフランツ、あとで必ずブチのめしてやる!



 そして、ソフィアは負けじとフランツに切り返す。


「……確かに、アンジェの言うとおりです。2人に対して1つの条件で契約するということは、つまり私とアンジェをその程度の女だと思っているということです」


「……」


「それはフランツさん……殿下はその程度の女をわざわざ手に入れて喜ぶ方だということになりますね」


「うふふ、1本取られちゃったわね、フランツ」


「うるさいぞカミラ……オーケー、それじゃあ今日の収益の中から、お前たち3人にそれ相応の金額を賠償金替わりに支払おうじゃないか」


 おーっ、それなら悪くない条件じゃないか。


 しかし2人は顔を見合わせて頷くと、ソフィアが2人の思いをまとめて言い渡した。


「……そんなお金はいらないです。それよりも収益全てを、入場したお客さんに返金するというのはどうでしょう。だって、彼が勝つことはイベントとして完全に想定外ですよね?」


「クククッ……やっぱり面白い女だよソフィア、お前は。いいだろう、その条件でサインしてやるよ」


 それから、前もって用意されていたかのように、契約書とそれにサインするためのペンがすぐに部屋へ持ち込まれ、中にある机の上に置かれた。


 恐らくソフィアが言った条件を追加で記入したあとにフランツ、ソフィア、アンジェリカの順にサインしていった。


「それじゃあ契約は結んだし、俺様たちは特等席でイベントを眺めるとするか。ソフィアとアンジェリカも来い」


「……タツロウ君、またあとでお会いしましょう」


「タツロウくん、わたし、信じてるからね」


 ううっ、すごい期待されている。


 そもそも2人を守れていない時点で今日の使命は失敗ではあるのだが、こうなった以上は勝負に勝って挽回するしかない。


 しばらく……というにはかなり長い時間だったが、縛られたままずっと待たされていたオレのところに、ヤツの手下どもがやってきた。


「おい、お前の出番が回ってきたぞ。椅子の縄と猿ぐつわは外すが、リングまではおとなしくしてろよ、いいな」


 周りを武器を持ったやつら数人に囲まれながら縄をほどいてもらう。


 でも手首はまだ縛られたままで手下どもについて歩いていく。


 オレは黙って集中力を高めることに専念するのだった。

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