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09.入寮と初登校

 セバスチャンと別れてから、オレは寮の管理人グーテンベルクの後に付いて学校内の敷地を歩いていた。


 髪型はサイドと首筋は短く整えられているが刈り上げではなくツーブロックじゃない。前髪は少しボリュームがあるが全体的にコンパクトにまとめられたオールバックで、黒のスーツをビシッと着こなしている。


 なんか執事っぽい感じだ。セレブの子弟が多い学校だからだろうか。ジャージ姿で竹刀を肩に担いだ威圧的なオッサンを勝手に想像してたから拍子抜けだ。


 でも眼光は鋭く隙がない感じでちょっと怖い。オレに対してだけ鋭い可能性もあるけど。


「タツロウ殿、早速ですが明日より登校していただきます。本日はお疲れでしょうから、この寮の中でごゆっくり休養なさいませ」


 そうこうしているうちに寮に着いてしまった。校舎もデカいが、こちらもちょっとした宮殿並みだ。ここがオレの新たな居城というわけか。墓場になるかもしれんが。


「さ、こちらがタツロウ殿のお部屋です」


 通された部屋は、1階の出入り口付近の小さな部屋だった。大きさとしては8畳1LDKぐらいかな。奥に窓が一つあるが、小さな換気用みたいなやつだ。


 持参した荷物は必要最小限に絞っているが、それでもオレとグーテンベルクで分担して運んできたくらいの分量はある。クローゼットもあるが、荷物を出したらあまり余裕はないだろうな……。


「ここは長年倉庫代わりにしておりましたが、急遽ですがキレイに掃除しましたので、他の空き部屋よりピカピカです。安心してお過ごしください」


 まあ確かに床はピカピカだし壁も真っ白、というか急いで壁紙が貼り直されたみたいだ。一応身分は貧乏貴族の設定だからこれでもまだ気を使ってくれてるのかもしれん。


「食事は共同の食堂で取ることになっておりますが、本日は荷物の片付けでお忙しいでしょうから、夕食と明日の朝食は部屋まで持ってこさせます」


 それは助かる。もうクタクタだしさっさと片付けて早く寝たい。


「明日は私が校内までご案内しますので、朝8時までに持ち物の用意と着替えを済ましてこの部屋でお待ち下さい。制服はクローゼットに2セット用意しております。それでは私はこれで失礼いたします。何か用事がございましたら、すぐ隣の管理人室をお訪ねいただければ対応します」


 そういうことか……。つまりオレを見張りやすいように、ちょっとしたリフォームをしてまでこの部屋にしたってことだ。1階だと逃げ出しやすいと思ったが、簡単にはいかないだろうな。


 それはともかく、まずは荷物の片付けだ。着替えや部屋着などをケースから出して、黙々と整理していく。


 クローゼットを覗くと、さっき言ってた制服が2セット入ってた。白いシャツにネクタイ、少し濃い目のグレーの上下スーツ。デザインはシンプルだが生地はなかなか良い。前世の高校時代を思い出すなぁ。


 ある程度片付けが終わった頃に、夕食が部屋に運ばれてきた。メイドさんかな? それらしい服装の女性が届けてくれた。


 豪華ではなく、パンとスープにサラダ、あとメインの肉料理が一つとシンプルだが量は十分だし、味ははっきり言ってウチの食事よりウマい。


 食欲を満たすと眠気が襲ってきた。部屋に据え付けの粗末なベッドに寝転ぶとすぐに眠りについてしまった。



 気がつくと外から朝日が差し込んできていた。壁にかかってる時計を見ると6時頃だ。


 少し急いで身支度を始めた。まずはトイレ〜、ってここは共同のものしかないから部屋から出て駆け込む。


 他の住人に会ったら挨拶しないとな、と考えていたが誰ともすれ違わない。昨日の夕食前にも1回行ったがその時もだ。1階は管理人以外誰も住んでないのか?


 今さら気づいたが、建物の大きさの割には、出入り口から奥の壁までの距離が異様に短い。オレの部屋から先は廊下の両側合わせて3つくらいしか部屋がない。


 変だとは思いつつも、時間がないので考えるのは後回しだ。洗面所は簡単なものが部屋にあるので、戻って顔と髪の毛を洗い、ひと通りサッと体を拭く。水は大きな桶に一杯入れてくれているので今日はいいが、明日からは自分で共同の井戸に汲みに行かねばならない。


 そして制服を着終わったタイミングで朝食が運ばれてきた。今日届けてくれたのは、昨日とは違うエプロン姿のオバ……いやお姉さんだ。


 ちなみに制服は上はちょっと大きくて袖が余り気味、下は逆に丈が足りずに座ると脛が出てしまう有様だ。オレのおおよその体格の情報から急いで予備の制服を割り当てたって感じだ。ますます貧乏貴族っぽい姿になってしまった。


 だが落ち込んでるヒマはないので、とりあえず支度を整えベッドに座って待ってると、ドアをノックする音が聞こえた。


「どうぞ」


 ちょっとぶっきらぼう気味に返事してしまった。たぶんグーテンベルクなのに失敗した。 


 予想通りグーテンベルクが入って来た。今日も着こなしバッチリでビシッとした雰囲気だ。


「おはようございます、タツロウ殿。予定より早いですが校内に向かいたいと思いますが、準備はいかがですか?」


「問題ありません。参りましょう」


 オレたちはすぐに寮を出て校舎に向かった。道すがら、1階のトイレで誰とも会わなかったことを尋ねてみた。


「はい、あそこは元々管理人用の場所なのです。昨日は私だけでしたので、トイレはたまたまタイミングが合わなかっただけです」


 管理人は何人かいて交代制で管理人室に詰めているらしい。グーテンベルクはその長なのだが、恐らく30代前半から中頃なので、見た目より偉い人だったんだな。


「では他の住人は」


「2階より上にご在室です。寮に入ってすぐ横にある階段で通じております」


 なるほどそういうことか。そういえば階段の正面に窓口みたいなのがあるが、管理人室から繋がっていて主に登下校や就寝時間前にそこで学生の様子を見ているとのことだ。


 ちなみに1階のあとの部屋は倉庫や応接室だ。オレの部屋は昨日聞いた通り倉庫だったが、管理人用の洗面所でもあったんだと。


「タツロウ殿の部屋をあそこにしたのは、実は他の空き部屋は汚れと破損が酷く、すぐに準備が出来ない状態でして……。あと、前々から管理人室に洗面所と浴室を設置してほしいと要望を出していたのですが、あの部屋を提供することになり急遽要望通り設置されました。タツロウ殿のおかげです」


 そうだったのか、そりゃどういたしまして……って、いやいや、ホントはオレを監視するためでその話はウソなんだろ? 騙されないぞ!


 ちょうど話が終わったところで校舎の入口についた。さあ、いよいよ初登校だ。結構ワクワクしてきたぜ!

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