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名ばかり皇帝の跡継ぎに転生させられたけど、オレはこのまま終わるつもりはない  作者: ウエス 端
スキー旅行編

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89.中級者コース

 スキー旅行は早くも4日目を迎えた。


 今日の朝も快適な目覚め……とはいかなかった。


 昨日はオルストレリア大公の嫡男フランツとのイザコザで右腕を痛めつけられ、まだちょっと痛む。


 その上、就寝前に部屋の中で枕投げが始まってしまい、つい力が入ったのだ。


 どんな戦いでも、やるからには負けるわけにはいかない。


 それに見回ってくる先生たちとの駆け引きがまた面白いのだ。


 ドアを開けて注意しようとしてくる気配を察して全員で寝たふりをして、また始めて……楽しかったが疲れた。


 まあでもスキーの実習が始まる頃には気力が回復してきた。


 今日からいよいよ中級コース。


 華麗に滑り降りて女子たちの注目を浴びてやるのだ。


 お前にはアンジェリカがいるんじゃなかったのかって?


 それはそれ、これはこれ。


 それにだな、そもそもオレたちはまだ付き合っているわけでも、ましてや彼氏彼女の関係でもない。


 浮気しようっていうわけでもなし、注目を浴びるくらいは許されてもいいと思うのだよ。



「タツロウく〜ん、おはよう〜!」


 ゲレンデに向かうオレの背後からアンジェリカの元気な声が聞こえてきた。


 振り向くとかわいい笑顔で近づいてくる。


 オレはその笑顔に癒やされてしまうのだ。


「今日から中級者コースだね。わたし、タツロウくんについていけるように頑張る!」


「任せてくれ! アンジェリカのペースに合わせて上手く調節しながら滑るからさ」


「本当? 嬉しい!」


 こんな感じで2人で楽しく会話しているところにソフィアが近づいてくるのが見えた。


「おはようございます……タツロウ君に……アンジェ」


 なんだか眠そうというかしんどそうにしている。


 プライベートな空間ではどうだか知らないが、少なくとも校内や人目があるところでは、いつも隙のない立ち振る舞いを見せている彼女にしては珍しい光景だ。


 やっぱり昨日のことが影響しているのかな。


 だとしたら改めて申し訳ないと思う。


 気づいているのかわからないが、アンジェリカはいつも通りのテンションで挨拶を返す。


「おはよう、ソフィア!」


「あれ、お前ら宿泊所で挨拶してないのかよ」


「……私とアンジェは部屋が別ですので。食堂ではそれぞれのルームメイトたちと一緒ですし、今日はすれ違いもなかったのです」


 女子たちはそういう行動なんだな。


 オレたち男子は部屋とか関係なく気の合う者同士で勝手に集まって食事を取ってるから、そのあたりのことはよくわからん。


「……それはともかく、午前中からしまりのない顔をしているのはどうかと思いますよ、タツロウ君」


 ソフィアにピシャリと言われてしまったけど、そんな顔してたのかな。


 確かにアンジェリカと楽しく会話してたけどさ。


 単にソフィアの機嫌が悪いだけかも……ここは触らぬ神に祟りなしだな。



 オレたちはリフトに乗って中級者コースの中でも一番簡単なコースに着いた。


 まずはここで腕試しってわけだ。


「それでは皆さん、私についてきてくださいね。もし危ないと思ったら止まって、なるべく端の方に寄って後ろから滑ってくる人をやり過ごしてから再開してください」


 インストラクターがゆっくり目に滑り出すと、オレたちも続いて順番に滑り出す。


 ちなみに最後尾はもう一人のインストラクターが滑るので、問題があった場合は助けてもらえるのだ。


 オレの前にソフィアが行き、それからオレ、アンジェリカと続いていく。


 ソフィアはかなり速いスピードで滑っていき、カーブも滑らかに曲がっていった。


 オレも負けてられねえ。


 スピードに乗って滑降し、カーブで曲がる態勢に入ろうとする。


「待ってタツロウく〜ん、置いていかないで〜」


 おっと、アンジェリカのことを忘れるところだった。


 カーブの手前で必要以上にブレーキをかけて彼女が追いつくのを待つ。


「ごめんごめん、もう少しゆっくりいくよ」


「ありがとう、足手まといでごめんね」


 いやいや、そんなことないよ。


 オレは自分の意志でアンジェリカの先導をすると決めたのだ。


 そうして最初はゆっくりと、途中から徐々にペースを上げていき、オレとアンジェリカは無事にコースを走破した。


「2人とも、少しゆっくりだったけどなかなかいい感じで滑ってきましたね。それじゃ、午後からは次のコースに進んでみましょうか」


 オレたちは目を合わせた後に揃って了承の返事をした。


 やっぱり気が合うなあ、オレたちって。



 ソフィアも次に進むようだが……まだしんどそうに見える。


「ソフィア、大丈夫か? 無理はしない方がいいぞ」


「……問題ありません。そんなことより、午後のコースは3人で一緒に滑りませんか?」


「ああ、オレはもちろんいいけど。アンジェリカもいいよな?」


「……いいですよ? わたしもソフィアと一緒に滑る方が楽しいです」


 これって両手に花ってやつだよな。

 午後は更に楽しいことになりそうだ。


 午前中はもう一度同じコースを滑り降りてから初心者コースで基本を練習し直したりして終了した。


 さて、宿泊所に戻って昼メシを食うか。


 ソフィアとアンジェリカとはここで一旦別れる。


 そこで丁度、上級者コースから戻ってきたマルコとサンドラに出くわした。


「タツロウも今から昼メシだろう? 俺と一緒に行こうよ」


「そうだな、マルコ」


「あれ? ソフィアはどこに行っちゃったのよ?」


「ソフィアなら連れと一緒に行っちゃったけど、サンドラ」


「連れって、もしかしてアンジェリカなの?」


「そうだけど……お前も彼女と友だちなのか?」


「もちろん知り合いではあるけど……アンジェリカは校内でもわりと有名人よ。アンタはそういうのに疎いからわかんないだろうけど」


「へえ、そうだったんだ。マルコも知ってたのか?」


「一応ね。彼女は演劇部の次期看板女優って言われてたからね」


「なんで過去形なんだよ?」


「ソフィアが演劇部に入ったからだよ。今は看板女優候補が2人になったってわけさ」


「そうなのか、知らなかったよオレ」


 ここまでのやりとりで呆れた様子のサンドラはオレを問い詰めてきた。


「せっかく同じコースにいるんだし、ちゃんと一緒に滑ってるんでしょうね?」


「ああ、滑ってるよ。アンジェリカと」


「ちょっと! なんでアンジェリカとアンタが!?」


「知ってるとは思うが、ソフィアが変な連中に絡まれてオレが助けに入ったって事件があっただろ。そこに彼女もいたんだよ。それで仲良くなった」


「そういうことか……。あー、もういい。あたしはもう行くねマルコ」


 サンドラが何を怒っているのか知らないが、スタスタと早足で行ってしまった。


「マルコ、いったいどういうことなんだよ」


「うーん……まあ、とにかく食堂に行こうか」


 結局何がどうなってるかわからないまま昼休みを過ごしたオレは、スッキリしないままゲレンデへ向かった。


 いや、気にしてたらスキーを楽しめない。


 それにアンジェリカの笑顔を見たオレは、つまらないことは気にならなくなった。


 そして中級者の標準コースでいよいよ滑るのだ。


 ここは自由に滑っても構わない、というかここで他人に迷惑をかけずに滑れるかを午前中に確認されたってわけだ。


 みんなそれぞれのグループで一緒に滑っていく。


 オレとソフィア、アンジェリカも一緒に滑るべく並んでスタート地点に立つ。


 まずはソフィアが滑り出して、少し間をおいてオレが、最後にアンジェリカがスタート。


 これは単純に現時点での上手い順だ。


 3人並んで、互いに右左のターンを入れ違いにしながら滑っていく。


 なんかもう、みんなでスキーを滑ってる! って一番実感できる瞬間だ。


 そしてコース中盤に差し掛かり、カーブを曲がる……というところでソフィアがふらつき始めた。


 危ないな……と思っていたらカーブの出口で完全に倒れ込んでしまった。


「ソフィア、大丈夫かよ! おい!」


 彼女の傍で止まって呼びかけたが、朦朧とした返事しか帰ってこない。


 救護を呼んでこないと……その前に後ろから来る人たちとぶつからないように、できるだけ端に退避させないと。


「ソフィア、ちょっと身体を動かすために触るけど我慢してくれよな」


 そう呼びかけながらソフィアの脇から抱きかかえる。


 その間、アンジェリカに後ろを見てもらっているが幸い後続はいないようだ。


 いわゆるお姫様抱っこができればいいんだけど、今のオレにはコースの斜面でスキー板を履いたまま上手く抱き抱えられそうにない。


 中途半端な持ち上げ方だけど、飛行魔法を少しだけ使って斜面を横に滑っていく。


「なんとか端っこに退避させた。アンジェリカ、オレが救護を呼びに行く間、ソフィアの面倒を見てもらえないか?」


「それなら、わたしが呼びに行くから、タツロウくんが面倒を見てあげて!」


 アンジェリカはそう言うとコースを滑り降りていった。


 いや、少しでも早く呼ぶためにはオレが行ったほうが……でも彼女はこれまでよりもずっと速いスピードで滑走していく。


 なんだよ、オレより上手いんじゃないか?

 いや、緊急時だし火事場のなんとかかもしれない。


 とりあえずオレは自分とソフィアのスキー板を取り外して救護を待つことにした。



 アンジェリカが早急に救護を呼んできてくれたお陰で、ソフィアを無事に救護室に運ぶことができた。


「アンジェリカ、本当にありがとう、助かったよ。それにしても凄い滑走だったな」


「ソフィアを助けなきゃ! って無我夢中だったの。今から思うと怖くなっちゃった」


 やっぱりそういうことだったか。

 それはいいとして、ソフィアの容態はどうなんだろう。


「あなたたち、彼女の友だちかしら?」


 救護室から出てきたお医者さんから話しかけられた。


「はい、そうです」


「そう。彼女だけど……恐らく普段と環境が変わったりしてストレスを溜め込んでたんだと思う。しばらくここで休んでたら回復するでしょう」


「そうですか、それなら良かった。ありがとうございます。意識は戻ってるんですか?」


「もちろん。だから安心してゲレンデに戻りなさい」


 そのまま救護室に居続けるわけにもいかず、オレとアンジェリカはゲレンデに戻ったが。


 なんとなくやる気が出ず、初心者コースを登っては滑り降りるを繰り返して今日の講習を終えた。


 上級者コースに行くのが少し遅れることになるけど、ここまで来たら3人一緒に行きたいからね。


 そして宿泊所に戻ろうとしたところで、ソフィアがオレたちを出迎えてくれた。


「ソフィア、もう歩いたりして平気なのか?」


「はい、問題ありません。2人にはご迷惑をおかけしてしまいました」


「わたしはそんなことちっとも思ってないよ。ソフィアが無事で良かった」


「お医者さんはストレスによるものって言ってたけど……やっぱり昨日のことが影響してるのか? だったら謝るのはオレの方だ」


「いえ、そんなことはないです。いつもと違う環境ですから……それだけです」


 ソフィアのいつもの微笑みを見ることができた。


 原因はともかくとして回復したのは間違いないようだ。


「明日こそ3人で上級者コース昇格を目指そうな」


「はい、もちろんです」


「わたしも!」


 こうして4日目は波乱がありつつも最後は穏やかな気持ちで終えることができた……はずだった。


 宿泊所に戻ってから、あんな話を聞かされるまでは。

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