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名ばかり皇帝の跡継ぎに転生させられたけど、オレはこのまま終わるつもりはない  作者: ウエス 端
スキー旅行編

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88.スケコマシ野郎

 オレはオルストレリア大公の嫡男フランツの館に誘い込まれ、ヤツと対峙している。


 どういう用件かは知らんが、まあどうせロクでもない話だろうな。


 状況によるが、ここから上手く逃げ出すか、或いはフランツを直接ブチのめして決着をつけるかして終わりにしたい。


 ただ気になるのはフランツの両横にいる屈強な男2人の存在だ。


 他の子分たちのようなチンピラ風情とは明らかに違う雰囲気で、いかにもボディガードという出で立ちだ。


 フランツの親が付けた奴らだろうか。

 だとしたらフランツに近づくのは簡単ではない。


「……1000万だ」


 はぁ!?


 フランツがいきなりワケがわからない数字を口にした。


 もしかしてオレに言ってんのか?


「この金額で、今回のことは勘弁してやる。明日にでも耳を揃えて持って来い」


 やっぱりカネかよ!

 誰がそんなもん払うかってんだ。


「何をフザケたこと抜かしてやがる! オレがお前にカネを払う理由なんざどこにもねえよ」


「テメー、いい加減に……」


 後ろの子分どもが騒ぐのを、フランツはまた掌で押し止めた。

 そして静かになったところで、ヤツは金額の根拠について話し始める。


「まず、昨日お前が痛めつけた子分たち7人の治療代が100万ずつ。そして今日は、そこの男がお前とぶつかった際に肩を怪我したから300万だ」


「何言ってやがる! 昨日はお前の子分たちがオレのクラスメイトにしつこくチョッカイ出してたから助けに入っただけだ。それに殴りかかってきたのはアイツらの方だ、オレはそれを避けただけだぞ」


「……」


「今日だって、確かにぶつかったが、そいつは怪我なんかしちゃいねえぞ。だから払う義理なんてねえんだよ!」


 オレの反論を聞いていたフランツだが、肩がぶつかった男の方を向いて肩の状況を問うた。


「おい、ああ言ってるが実際はどうなんだ?」


「えっ? あっ、痛い痛い! 肩の関節が脱臼してます……骨折もしてるかもしれやせん!」


「それは大怪我だな。300万でも安いぐらいではないか」


 こいつら、示し合わせてわざとらしい話をしやがって、もう許せねえ!


「嘘つけ! そんな状態でここまで全力で走って逃げて来れるわけねーだろうが!」


「そんなことは関係ない。お前に払う気があるかどうか、それだけだ」


「誰が払うかよ、いい加減にしろ!」


「……払えねえって言うなら、お前の親んトコに取り立てに行くまでだ。どこの誰かはもうわかってるから逃げられねえぞ」


 いや、オレん家貧乏だからなあ……そうじゃない、こんなことでオヤジに手間かけさせられるかってんだ!


「しつこいぞテメェ、家に来ようが払わねーつってんだろが! ……って、よく考えたら学生相手にカツアゲやって稼いでるなんて、大公家のクセにカネに困ってるのかよ?」


「テメェ! オヤジはカンケーねえんだよ!」


 フランツはいきなり立ち上がって激昂した。


 なんか触れられたくないトコだったらしい。

 しかしコイツも父親をオヤジ呼びなんだな、変に親近感湧いちまうじゃねえか。


 しかしフランツはすぐに冷静さを取り戻して子分どもに指示を出した。


「……お前ら、コイツがカネを払いたくなるまで身体でわからせてやれ」


「承知しやした! へへへ……」 


 遂に来たなこのときが。


 子分どもは武器を構えながらオレに近づいてきた。


「おらっ、くたばれや小僧!」


 くたばったらカネを払えないけどいいのかい?


 とくだらないことを考えられるくらい余裕で襲いかかってくる奴らの攻撃を避ける。


 相手の同士討ちも誘いつつ、避けた相手に間髪入れずにさっき土産物屋で買ったばかりの木刀でダメージを与えていく。


 フッ、オレに動くスペースと木刀を与えたままにしておいたのがお前らの運の尽きだ。


 そして数人を倒すと、子分どもは怯みだした。


 この隙にフランツのクビを取ってやるぜ。


 あと2、3歩でフランツは木刀の射程内、もらった!


 ってところでオレはヤツの横に立っていたボディガードに右腕を掴まれた。


 それからすかさず投げられ、天地が一瞬わからなくなってしまった。


「ぐあぁっ!」


 そのまま肩と肘を逆方向に決められて背中の上から押さえつけられてしまった。


 クソッ、もう少しだったのに。


 フランツはオレの前にしゃがみ込んで最後通牒を突き付けてきた。


「残念、もう少しだったのになぁ。さあ、そろそろ払う気になったか?」


「……誰が!」


「そうか、仕方がないな。コイツの腕を折れ」


 ボディガードはオレの右腕を更に逆方向へ極めてきた。


「うがあぁぁ!」


 ヤバい、本当に折られそうだ!



 だがここで部屋の入口の外から男女が揉み合ってるような声がしてきた。


「手を離してください! 私はこの館の当主に話があるのです」


「いいから黙ってこっち来いや!」


 男は子分の一人だが、女の声はソフィアじゃないか。

 なんでこんなところにいるんだよ。


 フランツはボディガードに一旦待ての指示を出してから、入口の方に確認するべく声を張り上げた。


「おいっ、何があった? 状況を報告しろ!」


 入口にソフィアを引っ張ってきた男がかしこまりながら返答した。


「それが旦那! この女が館に忍び込んでいたのを捕まえたんでさあ」


 フランツは立ち上がってソフィアの方にツカツカと近寄りながら子分を叱責した。


「おい……女は丁寧に扱えといつもお前たちに言っているよなぁ? 特にマブい女は」


「へ、へいっ!」


 子分はビクついてソフィアの手をサッと離した。


 それにしてもマブいって死語じゃん……この辺りの流行は帝国中心部よりもかなり遅れてるようだ。


 そしてフランツはソフィアの逃げ道を塞ぐかのように壁に追い詰めると、左手をドンッ! と壁に打ち付けた。


 これが噂に聞く壁ドンか……って感心してる場合じゃねえ。


「おい、やめろ! ソイツは関係ない、ここから出してやれ!」


 オレは精一杯の声で叫んだが、フランツは気にする素振りも見せずソフィアに詰問を始めた。


「おい女、お前はアイツを助けに来たのか?」


「……はい、そうです」


「ほう。そこまでするとは、アイツはお前の彼氏なのか?」


「……」


「さっきから言ってるだろ。ソイツは関係ない、ただのクラスメイトなんだ!」


 オレは叫び続けているが、フランツは意に介さずソフィアに話を続ける。


「まあいい。お前の出方次第で、アイツを解放してやってもいいぞ」


「……何をしろというのですか?」


「俺様の女になれ。下級貴族のようだから正妻は無理だが、2号くらいにはしてやってもいいぞ」


「テメェ、フザケんのも大概にしやがれ! イテテテ!」


 ボディガードにまた腕を締めつけられた。

 クソッ、なんとか腕を抜くことができれば。


 そしてソフィアはオレの意思に構わずにフランツと話を進めようとしている。


「……彼に乱暴はしないでください」


「俺様は乱暴などしない。なにせ我が家の家訓は、『ケンカはヤンキーどもにやらせておけ。汝は女とイチャついて幸福を掴め』だからな」


 絶対そのフレーズは間違ってる部分が大いにあると思うけどな。


 けどハプニンブルグ家は政略結婚で所領を増やしてきた家だから、ニュアンスとしては合ってるんだろう。


「……では、彼の身柄を解放してください。そうしたら、私も返事をします」


「いいだろう。おい」


 フランツはボディガードに目配せしてオレを解放させた。


 それじゃあここから出ていくか……ってそんなわけねーだろが。


「オラア! ソフィアから離れろや!」


 今度こそボコボコにしてやるよ!


 しかしフランツは上着の内ポケットからサッと小さなカードを取り出した。


 あれはオレの学生証だ。


「……もうこんな汚えカードはいらねえよ。そら返すぜ!」


 オレのカードを放り投げやがって。


 受け取ったらすぐにボコってやる……ぐわっ!


「テメェ、さっきはよくもやりやがったな!」


 しまった、少しだけどカードに気を取られてボディガードと子分どもが接近してきたのに気づかなかった。


 オレは床に引き倒されて子分どもに寄ってたかって足蹴にされ、両腕両足でなんとかガードするので精一杯だ。


「やめさせてください、話が違います」


「違わねえよ。俺様は約束通りに解放してやった。だがそのあと大人しく出て行かずに向かってきたのはアイツの方だ」


「……」


「だが俺様は女には優しいんだ。お前がさっきの話を受け入れたら、望み通りに今度こそアイツを解放してやる。といっても外に放り出すだけだがな」


「……本当ですか?」


「ああ、俺様は気に入った女には嘘は言わない。だが、断ればアイツはどうなるか……」


 やめろソフィア、オレのために自分を犠牲にするんじゃない!


 お前だけでも逃げてくれ。



「……それではお答えします」


 ここでフランツは手で合図してオレへの攻撃をストップさせた。

 でも子分どもは周りを囲んだまま、いつでも再開できるように構えている。


 そしてソフィアはフランツの顔にまっすぐ顔を向けてキッパリと言い放った。


「……絶対に、お断りします」


「そうか、残念だ……やれ」


「ヒャッハー! 死ねクソガキィ!」


 子分の一人がオレを踏み殺さんとばかりに、腹を足で思いっきり踏みつけてきた。


 だけどオレはこの瞬間を待ってたんだよなぁ!


 左腕でガードしつつ右腕で足を抱え込み、身体ごと捻って相手の膝を極めてやった。


 相手はぎゃあああ、と悲鳴を上げながら倒れ込んで周囲の子分どもを巻き込む。


 そして包囲が解けたところで立ち上がり、フランツに一直線に向かう。


「フランツ! ソフィアはお前のこと嫌がってるじゃねえか、彼女を返せよ!」


「危ない旦那ぁ!」


 子分の一人が魔法を放つ構えをしている。

 いやそれはヤバいぞ。


「やめろ! こんな室内で魔法を使うんじゃない!」


 フランツの命令が一足遅く子分はオレに向かって高圧の水魔法を放ってきた。


 クソヤローが、これで防いでやる。

 オレは風圧魔法をぶつけて直撃を免れた。


 だけどそのせいで部屋中に霧が立ち込め、みんなマトモに前が見えない。


「クソッ、あのクソガキはどこだ?」


 オレを探す声が響く中、オレはなんとかソフィアの影を見つけて手首を掴んだ。


 なぜわかったかというと、スカート姿の影はあの場では彼女だけだったから。


 そのままどさくさ紛れに部屋を、そして館の外まで一気に脱出することに成功したのだ。


 木刀は置いてきたけど……もちろん彼女の方が、クラスメイトの安全の方が大事だし諦める。


 振り向いて少し様子を見たが、ヤツらは追ってくる様子はない。


 館の外でイザコザを起こすのは、フランツにとっては体裁が悪いのだろう。


 それにしても、とんでもねえスケコマシ野郎だったな、フランツは。


 オレたちは急いで商店街の中に逃げ込んだ。


「ふうー、ここまで来ればもう大丈夫だろう」


「……そうですね、2人とも助かって良かったです」


「それはいいけど、なんであの館の中に忍び込んで来たんだよ?」


「誰かを追いかけながら商店街の向こうへ走っていくタツロウ君の姿を見かけまして……何か助けになることがないかと」


「いやそうじゃなくて……オレが起こしたケンカなんだから、放っておけばよかったのに」


「……貴方の事が心配だったので」


「えっ、なんだって?」


 ソフィアは俯きながらボソボソと喋ったので、何を言ったかわからず聞き返した。


 でも彼女にはキッと睨みつけられてしまった……だって聞こえなかったものはしょうがないだろ。


「……タツロウ君に、以前の借りを返すチャンスだと思いまして。それだけです」


「お前に貸しなんてあったっけ」


「……貴方が公国までやってきて、私が過ちを改めるきっかけを示してくれたことです」


 ああ、そんなこともあったな。


 でもあれは、あくまで友だちのヨハネスを救うためだったんだけど。

 ソフィアのことは結果としてそうなっただけなんだけどな。


「ではこれで貸し借り無しということで」


「オレは貸しとか思ってなかったけど……ソフィアがそれでいいなら」


 あっ、そうだ。

 ソフィアのあの対応はちょっとどうかと思うんだよね。


「それよりさあ、今思えばフランツに面と向かって断るって酷くない? オレ一応人質だったんだぜ」


「……それは、タツロウ君ならあれぐらいのピンチはなんとか切り抜けると信じていましたので」


 なんか上手いこと言いくるめられた気がするが。

 まあ、もちろん切り抜ける自信はあったからいいんだけどさ。


 ここで逆にソフィアの方から問い返されて、ちょっとシドロモドロになってしまった。


「ところで、私のことを返せとか叫んでましたね」


「あれはクラスメイトとしてだな……いや、彼氏でもないのにゴメン」


「いえ、気にしていませんので……ふふっ」


 オレなんか面白いこと言ったかな。



「タツロウく〜ん、ソフィア〜! 2人とも無事に戻ってきて良かったです!」


 アンジェリカがオレたちを迎えてくれた。

 彼女にも心配をかけて悪かったと思う。


 そして宿泊所に戻ってから、ソフィアは今回の件を先生たちに報告した。


 トラブルを起こしたオレが怒られたのは当然として、先生にすぐ知らせずに追いかけたソフィアも怒られたそうだ。


 結局は彼女にも迷惑をかけてしまった。


 ただ、フランツのことはボカして報告したそうだ。


 彼女もこれ以上の面倒事になるのは避けたかったらしい。


 でも、あとから考えればこの判断は失敗だったなと思う。



「フランツ坊ちゃま、お怪我はありませんか?」


「大丈夫だ……というか、いい加減に坊ちゃま呼びはやめろ」


「申し訳ございません」


「それにしても、あのソフィアという女……この俺様に面と向かって断るとは、ますます気に入ったぞ。絶対に俺様のものにしてやる……」

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