81.青春のイベント……?
「まあ、いいけど……、なんで相談相手があたしたちなわけ?」
オレのことをショートヘア女子から相談されたサンドラは面倒くさそうに理由を尋ねる。
さすがにアレだと思ったのか、同じく相談されているソフィアが助け舟を出した。
「……私でよければ、相談に乗るのは構いませんよ?」
「ありがとうソフィア。サンドラもお願い! タツロウ君と絡むことが多いって聞いてるから」
「わかったわよ。で、タツロウの何を相談したいの?」
「彼のことをよく知りたいっていうか……どんな人なのかなって」
オレの人柄をどうして知りたいのか。
耳に全神経を集中して話し声を必死に聞き取る。
いや、盗み聞きするつもりはないけど……気になるし聞こえてくるものは仕方がない。
「……どうしてタツロウ君のことがそんなに気になるのですか?」
「学園祭の、ほら、不良グループが錬金術研究会の部室を襲撃した件でさ。わたし、実は丁度その場にいたの」
「それは災難だったわね。ケガとかはなかったの?」
「うん、大丈夫だった。で、不良グループのボスみたいなのがバールを振り回して暴れ始めたときに、彼が真っ先に立ち向かったのが見えたの」
「えっ……まさかそれって」
「そう! タツロウ君のことカッコイイ〜! って思っちゃった」
な、なんと。
これはまさか!
前世から合わせて1度も経験できていない『あの』青春イベントをついに!
オレも体験できることになるのではないだろうか!
興奮してつい声を上げそうになったけど、何とかこらえた。
これは是非オレの良いところをドンドン彼女に伝えていただきたい。
サンドラさんにソフィアさん、お願いします!
「……タツロウ君の人となりですか。確かに頼りになるところはあるかなと思います」
「う〜ん、まあそうだけどさ。普段は結構テキトーにやってるし、あたしにはアイツのどこがいいんだかサッパリなんだけど」
ヒドい、サンドラにそんな風に思われていたなんて。
ここではマルコと並んで一番長い友だち付き合いなのにショックだ。
「……サンドラ、さすがに今のはちょっと可哀想です」
「あ……ゴメン。そうね、言葉遣いは悪いけど喋っていて楽しいヤツだし、仲間思いなところもあるかしら」
「ふ〜ん、悪くないじゃん。他にも彼について何か知ってることはない?」
おっ、ショートヘアの女子が食いついてきた。
この流れのままイベント発生に繋げてほしい、このとおりだ!
しかしここでオレの視線に気づいたのか、ソフィアがこちらにチラッと視線を向けてきた。
気づかれたか?
視線はすぐに戻ったので、たぶん大丈夫だとは思うが心配になってきた。
「……あっ、でも彼にはちょっと悪いクセがありまして」
「えっ、なになに。メッチャ気になる、教えて!」
ソフィアのヤツ、なんでいきなり妙なことを言い出すんだよ。
変に彼女の気を引いちまったじゃねーか。
「……稀にですが、彼は私の姿をジッと見つめていることがあったのです」
「そうそう、新入生歓迎会の時もソフィアの着ぐるみ姿をジーッと見てたもんね」
「え〜っ、なにそれ。ゲンメツ〜! 女子のことをそんなふうに見る人だったなんて」
ちょっ、待てよ!
なんでそんな前のことをここで持ち出すんだよ!
もしかしてアレか、以前にソフィアの胸元をついうっかり見続けてしまったことをまだ根に持っているのか!?
こう叫びたかったが、余計に事態を悪化させかねないので歯を食いしばって我慢する。
しかし結局は最悪の結末へと事態は流れたのだった。
「やっぱり、2人に先に相談しておいて良かった、ありがとう! これでこの件は終わりにするよ」
「うんうん、その方がいいと思うよー」
「……お役に立てて何よりです」
なんてこった……オレの青春イベントがぁ。
そしてあろうことか、ソフィアは微笑みを浮かべていたのだ。
うう、酷い!
オレが幸せになるのを邪魔して喜んでやがる。
前に気に入らないことがあったからって、ここまでの仕打ちをしなくてもいいじゃないか!
悪魔! 悪魔の所業だ!
サンドラとソフィア、ヤツらこそ悪口女子と腹黒女子の、はぐれ悪魔女子コンビだったのだ!
何からはぐれているのかって?
すまない、ノリで付けただけなんだ。
それはともかく、オレは心の中で彼女たちを激しく罵った。
さすがにここで女子相手に暴れるわけにはいかないから、怒りを発散するせめてもの手段なのだ。
なんとか気持ちを鎮めたが、2人とも早く教室から出ていってくれよな。
「ん〜、用事は済んだし女子寮に帰ろうよソフィア」
「……私は寄るところがあるので先に行ってください、サンドラ」
「そうなの。じゃああとでまたね、お風呂場か食堂で」
「はい、またあとで」
ようやくオレも帰れそうだ。
今日は夕食を何回もお代わりしてヤケ食いしてやるぞ。
サンドラが先に部屋を出た。
ソフィアも出る……と思ったが、なぜかこちらに近づいてくる。
コイツまさか。
「……もう出てきていいですよ」
「やっぱり気づいてたのか」
「ええ、そこの隙間から視線を感じまして。見たらタツロウ君の目元だと気づきました」
「騒ぎにしないでくれたのは感謝するけど……何か企んでるのか?」
「……騒ぎにしなかったのは、私たちの方があとから教室に入ったので、貴方に変な気持ちは無いと思ったからです。それとも、何かやましい事でも考えていたのですか?」
オレの言い方にカチンときたのか、彼女は少し膨れっ面をしながら言葉を返してきた。
「考えてなんかねーよ。オレは忘れ物を取りに来ただけでお前らがここに来るなんて知らなかった。コイツが机の下に落ちてたのを拾ってたんだよ」
オレが消しゴムを見せながら説明していると、彼女は困惑した表情と少し悲しそうな声でオレを非難した。
「……それなら最初からそう説明していただければいいじゃないですか」
「悪かった、さっきのは謝る。だけどさ、さっきの女子にあんなこと言わなくてもいいだろ」
「……あれは本当のことですので、相談されている相手に黙っているわけにはいきませんよ?」
「本当のことって……そんなにいつまでも根に持たなくてもさあ」
「そうはいきません。タツロウ君からジッと見られるのは私だけで十分……他の女子に及ばないようにしないと」
「なんだよ、人を変態みたいに! ……いや、もうやめよう。オレは帰る」
これ以上言い返すと収拾つかなくなりそうだ。
オレはカバンを肩に担いで教室のドアへ向かう。
おっと、ついでにあれを言っておくか。
「マグダレナからお前に伝言。たまには部活に顔を出せってよ」
オレは彼女の方を振り向かずにぶっきらぼうに伝えた。
後ろから、わかりましたと彼女の声が聞こえたが構わず教室を出た。
うまくいかないな、人間関係って。
ケンカするつもりはなかったんだけどな。
こうしてソフィアとはギクシャクした関係がしばらく続いたのだった。




