80.出発日まであと1週間
早いもので、学園祭から続いた騒動が終わってから2ヶ月近くが経過した。
年末年始のわずかな冬休みも既に終わっていて、季節はすっかり冬本番だ。
当然の如く休み中も寮に留まったオレだが、今回は夏休みのような寂しい状況にはならなかった。
日数が少ないこともあって帰省しないヤツもそこそこいたし、女子も少ないながら留まった者がいたのだ。
サンドラ、クリス、マヌエラ、そしてソフィアとオレが普段から会話する女子たちもその中に入っていた。
ソフィア以外は帰省することもできたらしいが、付き合いで残ったらしい。
なんにせよ、おかげで大晦日に男子寮の食堂で行われた年越しパーティはメチャクチャ楽しかった。
野郎どもに取り囲まれて出席するパーティほど悲しいものはないからな。
と、思い出話はここら辺にしておくか。
オレたち2年生にとって今の最大の関心事は別にあるのだ。
それはなんと『スキー旅行』である!
まあ、要するに修学旅行代わりの行事だと思ってもらえればいい。
出発までまだ1週間以上あるのだが、オレはもう待ちきれなくて仕方がない。
というのも、オレが前世で修学旅行に参加できたのは小学生時代だけだったからだ。
中学時代は直前にインフルエンザにかかって無念の辞退となり、高校時代は……その前に異世界転生する羽目になってしまった。
まあ、転生に至る原因がオレの自業自得だったから文句は言えねーけど。
それはともかくとして、落ち着かない気持ちを紛らわせるためにも今日は部室へ顔を出そうかな。
実を言えば最近は週1回顔を出すかどうかという出席状況だ。
別に錬金術研究会のことが嫌になったわけではない。
例の騒動から学校に復帰したあと、何となくモチベーションが湧かなかっただけだ。
久しぶりにやってきた部室のドアを開けると、すぐさまマヌエラの甲高い声が聞こえてきた。
「あ! センパイ、お久しぶりッス! 全然顔を出してくれないから辞めたのかと心配してたんスよ!」
「わりい。なんとなく気が向かなくて」
「そんな適当なのは困るんです! タツロウ先輩は今や錬金術研究会の看板なんスよ!」
学園祭での騒ぎで活躍したオレのことは良くも悪くも学校内に知れ渡り、それをきっかけとして入部を希望する1年生が何人か現れたのだ。
それは歓迎なんだけど……。
「あっ、タツロウさん! チーッス!」
「チーッス!」
「ようお前ら。オレがいない間もマヌエラたちと活動頑張ってたんだろうな?」
「もちろんです! おれたちはタツロウさんみたいな強い男を目指して毎日部活動に精を出しています」
そう、中には入部希望というよりはオレの舎弟になりたいからという奴らもいたのだ。
相手するのが面倒くさかったので、部活動を頑張ればオレみたいになれるって適当なことを言ってしまったのは反省している。
だけどそれを真に受けて活動を頑張ってるみたいだし、それはまあ結果オーライということで。
「よーしお前たち、いつもどおりに実験開始ッス!」
「ウッス、マヌエラさん!」
そして意外にもマヌエラが彼らを上手く統率しているのだ。
どうやら彼女はオレの1番の舎弟だと勘違いされているらしい。
まあなんでもいいから平和にやってくれているのであれば構わないよ。
「タツロウ、ちょっといいかしら」
マヌエラたちが実験に気を取られているのを見計らったかのように、部長のマグダレナはオレを呼びつけた。
「なんすか」
「ちょっとお願いがありますの。ソフィアに、たまにはウチの方にも顔を出してって伝えておいてくれるかしら」
「えっ、彼女もあまり顔だしてないんですか?」
「最近は貴方より出席率が悪いですわ。あっちの活動も忙しいんでしょうけど、彼女はまだ一応はこちらの部員なのですから」
「……わかりました」
しょうがないな……でもソフィアが顔を出さないのには理由がある。
彼女は演劇部から何度か誘いを受け、しばらく前にそれに応じたのだ。
だから現在はウチと掛け持ちになっている。
まあ、彼女は普段の生活から常に演技しているようなものだから演劇は向いているとは思うけど。
あっちの活動の方が楽しくなってしまったんだろうか。
そうだとしても頼まれた以上は伝えないといけないが、正直言えば気が重い。
というのもオレはソフィアのことを何となく避けてしまっている。
彼女のことはイマイチ信用ならない『腹黒女子』というのがオレの正直な評価なのだ。
だってさ、事情があったとはいえ学校やクラスメイトはもちろん、オレたち部活仲間も欺いてあんなことをしたんだから。
また裏切られるんじゃないかという気持ちは心の中に少し残っている。
だけど今日は彼女に会うことは無さそうだし、伝えるのは明日の朝に先送りしよう。
もう寮に帰ろうかな……一応カバンの中を見て忘れ物チェックする。
あれ、使い始めたばかりの消しゴムが無い。
今はスキー旅行で使える資金を少しでも多く確保すべく、支出をケチらねばならない。
仕方がない、面倒だがクラスの教室へ探しに行こう。
◇
とりあえず教室に着いたが、人の気配は感じられない。
ドアを開けてもやっぱり無人の教室は静かすぎるくらい音がない。
自分の足音だけを響かせながらいつもの席まで歩いていく。
消しゴムは……席の周りには見当たらない。
いや、机の下のちょっと奥に落ちてた。
屈んで机の下に潜り、ようやく確保したところで教室のドアが開く音がした。
誰かが教室に入って来た。
足音からすると2人、いや3人か。
机の前垂れの隙間から覗くと……女子3人がドア付近の席に座ろうとしている。
誰だよ今頃になって。
顔を見ると2人は知っている人物で、サンドラとソフィアだった。
もう一人は小顔でショートヘアの可愛い女子だが、顔に覚えが無いし別のクラスの人だろうか。
「それで、あたしたちに折り入って相談したいことって何なの?」
「その……あのさ、2人にタツロウ君のことで相談があるんだけど」
サンドラの問いかけにショートヘアの女子が少し恥ずかしがりながら答えた。
オレのことで相談だと?
すぐに立ち上がって教室から出ようと思っていたのに、これじゃあ彼女たちの前に姿を現しにくいじゃないか。
教室から出れなくなったオレは、彼女たちが話を終えるまで隠れて待つことにしたのであった。




