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名ばかり皇帝の跡継ぎに転生させられたけど、オレはこのまま終わるつもりはない  作者: ウエス 端
フリシュタイン公国編

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79.帰還

 いろいろあったが、ようやくヴィルヘルムの居城に到着した。


 オレとヨハネスが応接室で待っていると慌ただしい様子でヴィルヘルムが入室してきた。


「待たせてすまない。今、いろいろと処理すべき案件が立て込んでいるのだ」


「いえ、こちらこそ時間を取ってもらってすみません。それと、いろいろとサポートしてもらって本当にありがとうございました」


「うむ。ところでタツロウの隣にいるのがヨハネス君か。俺はヴィルヘルム。この家の嫡男であり、君にとっては学校の先輩に当たる」


「……ヨハネス・ゾンダーです。よろしくお願いしま〜す。あ、馬術大会で活躍していたのは知っています」


「まずはヨハネス君に詫びねばならない」


「な、何をですか?」


「フックス商会の作業員に暗殺者が紛れ込んでいたと聞いた。右腕を怪我をさせてしまい大変申し訳ない」


 ヴィルヘルムは座ったままヨハネスに向かって頭を下げた。


 選帝侯の嫡男が平民相手に謝罪するのはこの世界ではなかなかすごい光景だ。


「いや、悪いのは暗殺者の方ですし〜、ここで完璧な治療もしてもらったからそこまでしなくていいですよ〜」


「君の寛大な心に感謝する。で、現状何か問題はあるのか、タツロウ?」


 もちろんある。

 とにかく言ってみよう、どうなるかはわからないけど。


「実は相談があります。フリシュタイン公国がノルマーク王国から今にも侵攻されそうなんです」


「それならば既に手は打ってある」


「えっ!?」


「フックス商会の商館マネージャーに我が父の信書を持たせてあちらの当主に提示し、すでに合意済みだ」


 館を退去する際に挨拶したとか言ってたな。

 まさかあの時点でもう動き出してたなんて。


「どういう内容なんですか」


「我が領地と公国との即時同盟締結、及び兵力支援の申し出だ」


「兵力支援て、まさか商館から出るときの護衛も」


「領地の境界線付近に準備していた500人の兵士を即時に送り込んだ。商館にはその一部を派遣したのだ」


「それを、この短期間で準備済みだったということですか」


「タツロウの目的が成否どちらの結果でも公国から何かしらの反応は出ると予想できたのでな」


「それだけの事をできる権限をもう持ってるんですね」


「いや、並行して我が父を説得して動かしたのだ。父はいかつい風貌に似合わず優柔不断なので、なかなか苦労したがな」


「……どうしてそこまでしてくれたのですか」


「実のところ、公国やタツロウのためではない。我が領地にとって公国には『緩衝地帯』として利用価値があるのだ」


「カンショウ?」


「ノルマーク王国が公国を手中にすれば、我が領地も王国と直接対峙することになる。それは避けたい」


「……」


「そんな顔をするな。だからこそ公国が攻め込まれないように、独立を保てるように手を貸す」


 もちろんヴィルヘルムが第一に考えるのは自分の領地のことであり、何も無しに助けるというのはただのお人好しだ。


 わかってはいるが、自分の知り合いが絡んでくると心境としては複雑だ。


 それにしてもヴィルヘルムの能力の高さには驚くしかない。


 状況を数手先まで読んで多くの人間を動かしながら準備を整え、条件が揃えば迅速に行動に移す。


 オレは結局タイマンとか数人相手の勝負を繰り広げているに過ぎない。


 当主とか将に必要な能力では大きな差があることを痛感した。


「ところでタツロウ、このあとはどうする予定だ」


「オレはもちろんアウストマルク領経由で学校に戻ります。でもヨハネスはまだ決まっていません」


「迷っているということか」


「はい。ヨハネス、お前はどうしたいのか、決心はついたか?」


「……まだ、ちょっと」


「そうか。それなら俺から提案なのだが……このブランケンブルク領内に留まり、こちらの学校に転校してはどうか」


「ヴィルヘルムさん、どういうつもりですか? もしかしてヨハネスの能力目当てにそんなこと言っているんですか?」


「……そういう思惑が全く無いとは言わない。だが、これはヨハネス君のことを思っての提案なのだ」


「すみません、その意図がよくわかりません」


「今回の暗殺者の件が問題だと思っている」


 オレがまだ理解できないという顔をしていたのか、ヴィルヘルムはゆっくりと丁寧に説明し始めた。


「少し説明不足だった。まず、暗殺者を送り込んだのは十中八九、ケイン大司教だと俺は思う」


「他の諸侯や国に渡すくらいならってことですよね」


「うむ。そうなると、神学校に戻ってもヨハネス君の身が安全とは言えなくなる。大司教からすればメンツを2度潰されているのだ」


「……そうですね」


「こちらであれば彼の身の安全は俺が保証する」


「……ヨハネス、どうする?」


 ヨハネスは少し考えてからヴィルヘルムに質問を投げかけた。


「こちらの学校は、僕のように平民だけど他の人にはない能力を持った人間でも、普通に扱ってくれますか?」


「問題ない。我が領地のモットーは実力主義だ。実力があれば平民でも取り立てるし、努力しない者は爵位持ちでも序列は下げられる」


「え〜、そんな完全に実力主義にできてるんですか?」


「タツロウにはかなわんな。お前の言うとおり、まだまだ身分制も貴族の特権も根強く残っている」


「まあ、やっぱりですよね」


「しかし、当主の代を重ねるごとに少しずつ改革は進めている。だからこそ我が領地の軍隊は精強と評価されているのだ」


「……タツロウ、僕は決めたよ。この領地内の学校に行かせてもらいたい。故郷に近くて帰省もしやすいし」


 心の中ではガッカリしているオレだが、これまで何事も流されがちだったヨハネスの決心を尊重することにした。


「そうか。じゃあ、頑張れよ」


「うん、……ありがとう」


「あ、でも結局はケイン大司教が文句を言ってくるんじゃ」


「それは心配ない。我が父と大司教は本家筋と分家で従兄弟の間柄であるからな」


「えっ、そうっだったけか……ですか」


「大司教は聖職者たちの選挙で選ばれる。しかし選帝候でもあるケイン大司教の座は事実上、大貴族たちの子弟による勢力争いのターゲットだ」


「まあ、強力な権限が手に入りますもんね」


「うむ。そういうわけで我が領地にいる限りは、大司教といえどヨハネス君に手出しはできぬ」


 でもこれってブランケンブルク選帝侯の勢力が帝国内で1、2を争うレベルになってるってことだよな。


 ヨハネスにとってはいいかもしれんが、オレやオヤジにとっては悪夢と言ってもいい。


 いや、オレのことをヴィルヘルムが知らないってことは、必ずしも一枚岩ではないってことかも。



 オレは翌日、ブランケンブルク領を出発してアウスマルク領を経由し、ケイン大司教領へ移動した。


 結局、オレはマグダレナに課されたノルマを何一つ果たせなかった。


 しかしマグダレナもフェルディナントもオレを責めることはなかった。


 なお、ソフィアとヨハネスについては学校側から現状の消息が正式に発表された。


『ヨハネスはブランケンブルク領内をさまよっているところを偶然保護され、そのまま転校することになった』


『ソフィアはホームシックにかかり故郷で療養している』


 現実と合っているのは一部だけだが仕方がない。


 そして半月近く休んでいたオレを待ち受けていたのは、またも大量の補習だった。



 あれから半月くらい経った。


 もう季節は冬になろうとしている。


 この間にあった出来事としては……。


 まずは、ヨハネスから手紙をもらった。


 転校先の学校に早くも馴染んで友だちも数人できたらしい。


 何より腫れ物扱いされない環境が心地よいと満足している様子だ。



 次にリュストゥングフットボール部の廃部が決まった。


 『有ってはならない物』を所持していた部員は10人以上確認され、その中には副主将のオトマールも含まれていた。


 有力貴族が多い部のOBたちもさすがに庇いきれなかったようだ。


 来年度に入ってから、素行を厳しく調査して問題のない者のみを集めて再度立ち上げる予定らしいが、どうなることやら。



 ブルーノやゲーツたちは何年か投獄されることが決まったらしい。


 親が貴族のメンバーも何人かいたみたいだが、露見した悪事だけでもかなり酷いのでどうにもできなかったようだ。



 錬金術研究会はようやくもとの平穏な活動状況に戻ってきた。


 しかし部員が規定より1人足りない状態なので誰を勧誘しようかと悩んでいる。



 最後に、フリシュタイン公国についてだが、結局ノルマーク王国からの侵攻は受けていない。


 ヴィルヘルムが素早く手を打ったことで向こうの国王は慎重になったのではとマグダレナから解説を受けた。


 ノルマークの王族はあの叔父のオッサンみたいなおかしな奴ばかりではないらしい……というかオッサンが例外なのかもしれんが。



 ソフィアはちゃんと当主を務めているんだろうか。



 今日もいつもどおりの朝でまずは礼拝から始まった。


 だけどホームルームでのアーベル先生の連絡事項で教室はざわめいた。


「え〜、皆さん。今日は嬉しいお知らせがあります。しばらく故郷で療養していたクラスメイトが今日復学しました」


 そしてドアを開けて入ってきたのは……。


 あのソフィアだった。


 どよめきと復学を祝う声が入り混じる中、彼女は改めてクラスメイトに挨拶したあと、オレが座っている席に近づいてきた。


 そしてオレのすぐ後ろ、ヨハネスが座っていた席に腰を下ろしたのだ。


 オレはソフィアの方に顔を半分くらい向け、周りに聞こえないように小声でヒソヒソ話す。


「何だよ、もう2度と会えないんじゃなかったのかよ」


「……タツロウ君は、私と再会できて嬉しくないのですか?」


「いや、そういう問題じゃなくてだな」


「フフッ、わかっています……何がどうなったかを説明しますね」


「ああ、頼む」


「まず、当主ソフィアは、ヴィルヘルム殿から派遣された摂政にダメ出しされてしまいました」


「は!?」


 予想外の展開に思わず声が出てしまったが、ソフィアは構わず話を続ける。


「もっと世間のことを勉強する必要があると言われ、当面の間は政務から離れることになりました」


「……それで学校に戻ってきたのか。で、身分はどうなってるんだよ。実は当主だってバラしたのか?」


「今ここにいる私は、当主ソフィアとは腹違いの隠し子で妹です」


「えっ!?」


「……学校側にはそう説明しています」


「メチャクチャだな」


「そしてヨハネス君の件について、タツロウ君的な表現ですと『落とし前』をつける必要がありまして」


「オレに合わせなくていいから、続けてよ」


「……当主の唯一の肉親として『人質』になることを要求されたのです」


「つまりお前と学校側の利害が一致したということか」


「……そのとおりです」


「えー、それじゃあオレと同じ……ゲフンゲフン、なんでもない」


「今なにか秘密を喋ろうとしましたね!? 隠し立てせずに教えてください」


「コラッ、そこの2人! 再会が嬉しいのはわかるが、授業中は静かにしたまえ!」


「す、すみません!」


「いやだってコイツの方から……イテッ!」


 先生に注意されて慌てたオレは椅子から転げ落ち、教室内は笑いの渦に巻き込まれた。


 別にウケを狙ってやったわけではないのだが。


 この時彼女が見せた屈託のない笑顔を見て、オレは初めて会ったときからこれが見たかったんだなと、ようやくわかったのだった。



 そうそう、報告がもう一つ。


 マグダレナに怒られそうになった時に、例のネタを言ったら……本気のグーパンを喰らわされたので、もう言わないことにした。

フリシュタイン公国編は今回で完結です。

ここまで読んでいただいた読者さま、ありがとうございます。

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