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名ばかり皇帝の跡継ぎに転生させられたけど、オレはこのまま終わるつもりはない  作者: ウエス 端
フリシュタイン公国編

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77.思い残し

 オレは驚きのあまり何も言えずに固まっている。


 ソフィアは悪戯が上手くいった時みたいな軽い微笑みを浮かべて言葉を続けた。


「フフッ……タツロウ君を予想以上に驚かせることができました」


「な……なにがどうなって……」


「落ち着いてください……ひとつずつ説明していきますね」


 見たところ、マントの中で2人羽織をしているわけではなく、中身が入れ替わるスキも無かったハズ。


 そこから導き出せる解は一つしかない。


「『当主のソフィア=ソフィア』で合ってるんだよな?」


「……なんだか変な等式ですが、結論から言えばそのとおりです」


「だけど、身長も体格もまるで違うじゃないか。一体どんな手段で変装してたんだよ?」


「それは……『変身』をしていたのです」


 『変身』だぁ〜!?


 アニメの魔法少女でもあるまいし、どんな原理でそんなことができるっていうんだよ?


 いや待てよ、まさかとは思うが。


「ソフィア、お前はこの世界とは違う異世界から来た魔法少女なのか!?」


「……すみません、タツロウ君の言っていることが何なのか、よくわからないです」


 えっ、違うのか?


 それじゃあますますオレには見当がつかないんだけど。


「……タツロウ君は、魔力の『覚醒』というものをご存知ですか?」


 ここに来る前に立ち寄ったブランケンブルク領でヴィルヘルムから教えてもらったやつだな。


「ああ、一応の概要程度は」


「先程言った『変身』というのは、その覚醒で目覚める特殊な属性の1つなのです」


「ま、マジか」


 そんなのアリか……都合良すぎだろ。


 でも現実に目の前で起きている以上は認めざるを得ない。


「本当です……そして我がゴッチャルプ公爵家当主は代々この能力を密かに使い続けてきました」


「代々……でもなんで隠れて使うんだよ」


「……お恥ずかしい話ですが、公爵家は長い間内部の権力争いを続けてきました。その中には暗殺された方たちも少なくありません」


「要は、暗殺されるのをできる限り防ぐためってことか」


「はい。今はどちらかというと他の諸侯や王国への対策としてですが」


「じゃあ変身ができるって知ってるのは」


「公爵家本家の家族と一部の家臣、私専属のメイドなど限られた者たちです」


「ヴィンセントもか」


「彼の家系は代々公爵家を守護する親衛騎士団長なのです。ですので秘密を守ってくれています」


「ソフィアの母親はどうだったんだよ? あの叔父とかに秘密を漏らしてないのか?」


「……母は、最初は王国側のスパイを兼ねて父と結婚したらしいです。でもいつの間にか父と公国を深く愛するようになったそうです」


「……」


「父も警戒して目の前で変身を解かず寝室を別にしていたのですが……母から打ち明けられて、でもそれを許した父との間に私が生まれたのです」


「じゃあ伯父のオッサンは秘密を知らないってことか」


「はい、そのとおりです」


「でも当主の兄弟は……ソフィアは一人娘だから関係ないか」


「公爵家では代々子供は一人が原則です。もし兄弟がいても、幼いうちに養子に出されるか、分家を許されずに生涯を館の中で過ごしたのです」


 思ったよりも大層な話だなこれは。


 それにしても、そんなに都合よく代々の当主全員が覚醒できたりするものなのか。


「公爵家本家の人間は生まれつき変身能力に目覚めるのか? でないと代々ずっとなんて無理があるように思うんだけど」


「いいえ。ただ、ほとんどの者は水と土2つの属性を生まれ持っています」


「確か複数属性持ちのほうが覚醒しやすいんだったな」


「……そのとおりですが、我が家系には代々伝わる覚醒の秘術があるのです」


「それを使えば確実に覚醒できるのか」


「ほぼ100パーセント。思春期に入る頃に覚醒を果たし、以後は家族で過ごす部屋以外は常に変身したまま過ごします」


「そんな秘術どうやって手に入れたんだよ」


「最初に覚醒した当主は偶然によるものでした。彼は魔法研究者でもあったので、覚醒のメカニズムについて研究を重ねたのです」


「その結果が秘術ってわけだ」


「そういうことです」


「その内容がどういうものかは……」


「教えることはできません」


 まあそりゃそうだよな。


 聞けたら属性1つのオレでもワンチャンあるかもと思ったんだけどなー。


「で、今の姿が本来のソフィアなんだよな」


「……変身は1段階までとは限りませんよ? いつからそう思っていたのですか?」


 彼女はオレをからかうようにまた悪戯っぽく微笑んだ。


 これが本来の彼女の性格なんだろう。


「続けて何回も変身できるのかよ!?」


「いえ、何回とは具体的に言いませんが制限はあります。ついでに言うと、元の自分より小柄な人物へは変身できません」


 そういうことか。


 本当のソフィアはもっと小柄な女子の可能性もあるってことだ。


 そうだ、からかわれっぱなしはシャクだからちょっと意地悪な質問をしてみよう。


「当主のソフィアはあそこまでスタイルを良くする必要あったのか?」


「……また胸の話をしてますね。あれは、ああするつもりは無いのですが、私が上手くコントロールできなくて」


「どういうこと?」


「私は、カッコ良くて威厳のある当主になりたいだけなのです。でもそう強く思うほど、なぜか胸がより大きくなってしまって……」


「……クククッ」


「笑わないでください……私に限らず、変身の制御は難しいのです」


「どうしてそれがわかるのさ?」


「私の父は160センチあるかないかで小柄でしたが、外では180センチでムキムキでした。でも、本当はスマートな体型にしたかったらしくて」


 父親のことを話す彼女は嬉しそうに、でも少し寂しそうにしていた。


 それはともかくとして。


「つまり、願望が強いとそこが強調されちまうってことだな? ぶわっはっは!」


「もう、本当に笑わないでください……それじゃあ私が胸にコンプレックス持ってるみたいではないですか」


 これ以上はヤブヘビになりそうなので話題を変えよう。


「よく考えたら、当主としてオレと会った時は『哀れで愚かな』とか言って罵倒しまくりだったじゃん。あれはちょっと酷くない!?」


「……あれは、どうしてこんな馬鹿なことをしたのか、でも縛られて可哀想、と言いたかったのですが……私、当主になるとなりきってしまってつい尊大な発言をしてしまうんです」


「それならまあ仕方がないね。それにしてもさ、どうしてこんな秘密をオレに教えてくれたんだよ?」


「なぜでしょうか……タツロウ君になら、話してもいいかなって思ってしまったんです。それと、これが私からのお礼なんです」


「……えっ!?」


「……我が公爵家の秘密を話したのです。これは貴方にとっても貴重で得難い話だと思うのですが」


 どうやらオレと彼女のお礼に関する認識に差があるようだ。


 まあそもそもお礼など期待していないので何も言わず納得したフリをしておこう。


 しかし今度は彼女の方から面倒な質問をぶつけられた。


「今度はタツロウ君の秘密を話してもらいましょうか」


 なにぃ!?


 まさかコイツ、オレが皇帝の跡取りだと勘付いているのか?


 でもバレたところで特に影響はないんだけどね……所詮オヤジは名ばかり皇帝だし。


「トボけないでください。貴方の背後にいるヴィルヘルム殿とはどういうご関係ですか? 平凡な下級貴族のフリをして実は直属のエージェントとか?」


 なんだ、そっちかよ。


 しかも追及というよりは知的好奇心を満たしたいだけのようだ。


 その証拠に彼女は前のめりになって目を輝かせているのだ。


「ヴィルヘルムさんとは、単に神学校の先輩後輩の間柄ってだけだよ」


「……それだけ、ですか?」


「そういやソフィアは知らないよな。ヴィルヘルムさんは夏休み前に卒業してるんだよ。で、その前に毎年恒例の馬術大会で決勝戦を戦った相手なのさ」


「……でも、ここに来るのにヴィルヘルム殿のサポートを受けているのでしょう?」


「それはオレがというよりもマグダレナのサポートのお陰だよ。彼女の家の領地はヴィルヘルムの家の領地と隣合わせで昔からの知り合いらしいから」


「……なるほど、言われてみればそうですよね」


 彼女は想像していたであろう物語を聞けずにガッカリしているようだ。


 でもだからといって嘘の話をするわけにもいかないしねえ。


 ここで彼女の雰囲気が突如として変わった。


 また当主の真剣な雰囲気に戻ってしまったのだ。


「……タツロウ君とはいろいろとお話できて楽しかったです。これで思い残すことはありません」


「思い残しとか、まるでもう会えなくなるみたいじゃないか」


「はい、これでお別れです。もう2度とお会いすることはないでしょう」


「だからなんでだよ!」


「なぜなら、この国はもうすぐノルマーク王国との戦場になるからです」


 そうだった、叔父のオッサンが大部隊を引き連れて戻ってくるって息巻いてたんだ。


「ソフィアもオレたちと一緒にここを脱出しようぜ!」


「……それはできません。私はフリシュタイン公国を治める当主です。それに今回のことは全て私が撒いたタネなのです」


「だけどよぉ」


「……学校の皆さんにご挨拶できなかったのは残念ですが、タツロウ君の方からよろしくお伝えください」


 彼女はオレの目の前で再び当主の姿へと変身すると最後の言葉を言い放った。


「さようなら。お元気で」


 そして彼女はドアの向こうに姿を消したのだった。

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