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名ばかり皇帝の跡継ぎに転生させられたけど、オレはこのまま終わるつもりはない  作者: ウエス 端
フリシュタイン公国編

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74.有刺鉄線デスマッチ

「イテッ!」


 昨日と同じく乱暴に金網フェンスの中へ入れられてしまった。


 それにしても、中から見るとすごい状態だ。


 有刺鉄線が金網の目を通してグルっと螺旋巻きでサークル内に張り巡らされている。


 高さはフェンスの上部までほとんど隙間なく設置されており、無いのは天井とそのすぐ下ぐらいだ。


 電流とか爆破とかは無さそうで、それだけは幸いだ。


 あっ、ガチャンと扉が閉められる音がした。


 振り向くとヴィンセントも中に入ってきていた。


 昨日よりもヤツの殺気が強いように感じる……少し挑発しすぎたか。


「おお〜、思っていたよりも面白い感じに仕上がっておるではないか」


 当主の叔父のオッサンの声が聞こえてきた。


 当主と一緒に特等席に入ってきたところらしい。


 ソフィアもどこかの場所で見てるんだろうか。


 それにしても、こんなものを考えるとはいい趣味してやがるぜオッサン。


 あ、でもオレも見るだけの立場なら面白いと思っちまうかな……人間とは勝手なものだ。


 まあ哲学みたいなことをオレが考えても仕方があるまい。


 勝つことだけを考えるんだ。


 しかし集中しようとするとオッサンが邪魔するかのように気が散ることを言い出した。


「そうそう、ソフィアよ、お前に言っておくことがあるのだ」


「……なんでしょうか」


「わしは王国に戻るために明日にでもここを出ようと考えている」


「そうですか、承知しました」


「その際に例の客人を一緒に連れて行こうと思う」


「……待ってください。ヨハネス殿を王国に引き渡す条件の調整も、出国の手続きもまだ済んでおりません」


「そう言っていつまで待たせるのだ。どうせいずれは王国の戦力として活用するのだから、ついでの時に連れて行けば良いではないか」


「そうは言っても、国と国との取引であり、物事には順番があります」


「鬱陶しいのう。手続きなどお前の方で適当に辻褄を合わせておけ」


「そんな……我がフリシュタイン公国は王国の属国ではありません」


「ええい、細かいことをゴチャゴチャと。我らは親戚なのだから、すでに一心同体も同然ではないか!」


 アイツらまた揉めてんのかよ。

 まあ当主からすれば叔父だからって自分の領地で好き勝手は許せんのはわかるけど。


 しかしヨハネスを明日にでも連れて行くつもりというのは聞き捨てならねえ。


 とにかく絶対に戦いに勝ってオレの要求を当主に飲ませてやる。


 それからもヤツらは揉めていたが、オッサンが業を煮やして話を切り上げてしまった。


 そしてオッサンは当主に構わずオレたちへ闘いの開始合図を出したのだ。


「もういい、とにかくわしの楽しみが優先だ! お前ら2人、もう闘いを開始しろ! 武器は使うなよ、その方が面白そうだ」


 始まったけど今回は得物無しかよ。


 お互い有刺鉄線で傷つけあわせようってつもりか……ヴィンセントは味方だろうに。


 それより問題はリーチでは圧倒的に不利ということだ。


 どうするか……しかし戦法を考える暇もなくヴィンセントが襲いかかってきた!


「フンッ!」


 いきなりの後ろ回し蹴りが来る!


 ブワァッ!


 後ろに下がったオレの目の前を、ヤツの後ろ回し蹴りが風切り音を残して通り過ぎた。


 ヤツは続けざまに連続で足技を出してくる。


「うわっ!」


「どうした、避けてばかりか!」


 そう挑発されても下がって避けるしかない。


 一撃喰らうだけでヤバそうなスピードと威力だ。


 ウッ!


 後ろに下げた脚にチクッと痛みが……下がってばかりで有刺鉄線まで追い込まれていた。


「もう後が無いぞ、観念しろ!」


「まだ終われっかよ!」


 ブウーンッ!


 1回転しながら首を刈り取るような回し蹴り!


 オレは屈みながら横に飛んで何とか回避した。


「逃がすか!」


 今度は魔法で炎を出すつもりか!?


 ゴオオッ!


 アチッ、アチィッ!


 避けながら服についた火の粉を払う。


 そこへヤツの前回し蹴りが!


 辛うじて避けたオレの後ろからガシャッと小さな金属音がした。


 同時に背中に何箇所かチクッとした痛みを感じる。


 ゲエッ、有刺鉄線に当たってしまってる!


「そらあっ!」


 ガッシャーン!


「グアアアーッ!」


 ヤツの横蹴りをかわせずに、幾つかの棘が刺さった。


 腕でガードして足を力一杯踏ん張ったが、堪えきれなかったのだ。


 あちこち針で突き刺されたような痛みで叫び声を抑えきれなかった。


「おほほおーっ! これだ、こういうのを待ち望んでおったのだーっ!」


 オッサンが興奮して叫んでやがる。


 それに気が削がれたのかヴィンセントの攻撃に一瞬間ができた。


「トドメを刺してやる……!」


「これ以上やらせるか! 風圧魔法だ!」


 再び横蹴りしようとしてきたところに魔法攻撃をガッとカウンターで合わせる。


 ヤツを押し返すと痛みを我慢して逃げ出して距離を取る。


 背中には液体が流れるような感覚を覚えたが、汗なのか血液なのかはわからない。


「ヴィンセント! そいつの服を血で真っ赤に染めてやるのだぁ、ムフフフ!」


 オッサンの煽りは無視しているヴィンセントだが、こちらへの攻撃は必ずしてくる。


 付け入るスキはないし、さっき蹴りをガードした左腕はまだ痛いし、どうしようか。


 ヤツが手の平に魔力集中し始めた。


 これ以上後手後手にまわると勝ち目はない、こちらから仕掛けるべく間合いを詰める。


「そんなに黒焦げになりたいかッ!」


「そんな簡単にいくかよ!」


 ブワアッと出された炎の塊に右腕を魔力を出しながら突っ込む。


 ドガァッ!


「な!?……バカな」


 ヴィンセントのボディにとうとうオレの攻撃がヒットしたのだ!


 オレの右腕には風を高速で纏わせている。


 炎を吹き飛ばし、小さなスクリューのような風圧を前に飛ばしたのだ。


 でかい相手とも接近戦でやりあえる技を考えていたのだが、ぶっつけでうまくいった。


 欠点は魔力消費が大きいのと腕にダメージがあることだが、今はそんなこと気にしてられない。


「オラオラッ、オラァッ!」


「クッ……」


 予想外の攻撃でよろめくヤツへ向けて拳を振りまくり有刺鉄線に追い込んだ。


 最大のチャンスと思いっきり拳を突き出すが!


「舐めるなぁ、クソガキィ!」


 ヤツは自ら有刺鉄線に向かって飛び上がり、左足で踏みつけてこちらにジャンプしてきた。


 そして身体を捻りつつ上から回し蹴りをオレの頭へ振り下ろす!


 ドガァッ!!


 咄嗟にガードした左腕ごと有刺鉄線へと蹴り飛ばされる!


「ヤベエー!」


 ガッシャーンと音が響き、またもオレは悲鳴を上げることになった。


 気を失いそうになりながらも、顔はなんとか右腕でガードしたが、これで両腕がぼろぼろだ。


 しかしヤツの左足からも血がポタポタ出ていて、ノーダメではなさそうだ。


「うひょーっ! いいぞ、お互いもっと穴だらけになるのだ〜!」


 オッサンがまた鬱陶しいこと叫んでやがるがもう無視だ。


 残った力を振り絞って立ち上がるが、ここらでなんとかしないと本当にやべえな。


 と、ここでヤツはおもむろに近づいて来る。


 何を仕掛けるつもりか……急にブウンと右足を前蹴りで足を振り上げる。


 これはまさか。


 ヤツは身体を前に倒しながら踵落としを振り下ろしてきた!


 ブオオッ!


 なんとか避けたが凄まじいスピードと風切り音だ。


 ヤツは少しよろめいたが、無言ですぐにこちらに近づいてきて踵落としを繰り返す。


 これは攻防一体の恐ろしい攻撃だぜ。


 離れたところから魔法を撃っても前蹴りで弾き飛ばされる。


 かといってフトコロに入ろうとしても踵落としの餌食となるのだ。


 しかも足が長いから攻撃の間合いが広いとくる。


 なんかもう、格ゲーで特定の強力な必殺技だけ振り回してるような感じだな。


 でもそれは割と有効な戦法だったりすることが多いからたちが悪い。


 何回も避けたが反撃を入れるスキはなく、かといって下手に飛行魔法で逃げようとすればヤツの魔法のいい的だ。


 そして徐々に追い詰められてきた。


 ズンズンと近づいてくるヴィンセントはこれで仕留めようとする殺気で満々だ。


 何かいい手は……危険だがマクシミリアンに稽古させられた技をやってみるか。


 足技の返し技なのと、前世で動画で見たプロレス技に似ているので割と真面目に稽古したのだ。


 そうと決まれば仕掛けてみるか。


 オレは前に突っ込んでいく……が途中でピタッと止まる。


 その目の前をヤツの前蹴りが通り過ぎる!


 それだけでも恐ろしいが、上空から踵が高速で落ちてくる!


 とにかくこれを受け止めないといけない。


 オレは残る魔力で両腕に風を高速で纏わせ、頭上でガッチリと交差して構える。


 ドオォォーン!


 上から鉄の塊でも落ちてきたかのような衝撃を受ける。


「ぬうううーんッ!」


「押し潰されてたまるかよ!」


 地面に押しつぶされそうなプレッシャーを耐え、少しずつ踵落としの勢いが落ちてきた。


「いい加減に諦めろ、クソガキィ!」


「お前こそ!」


 お互い必死で怒鳴り合い押し合いが続く。


 必死で耐えていると、いよいよヤツの足の動きがほぼ止まってきた。


 ここで仕掛ける!


 オレは素早くヤツの足を左脇に抱えた。


 そして両腕で抱え込み固定すると、一気に自分の身体を倒しながらヤツの足元に潜り込む。


 最後に身体を左に素早く捻りながら足首を極めて膝から下を巻き込んでいく!


「グアッ、ひ、ヒザがぁ!」


 捻られた膝の痛みに耐えられずヤツは前のめりに投げられる。


 そして目の前の有刺鉄線に思いっきり上半身と頭部を打ち付けたのだ!


「ウガアァーッ!」


「これで降参しろ」


「……まさかこうなるとは……ま、参った」


 オレは投げたあとに素早く立ち上がり、風を纏わせた右腕をヤツの顔面に突きつけた。


 さすがにどうにもできない状況でヤツは観念した。


 これまでで一番苦しい闘いだったと思う……でもギリギリのところで逆転勝利をつかむことができた。

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