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名ばかり皇帝の跡継ぎに転生させられたけど、オレはこのまま終わるつもりはない  作者: ウエス 端
フリシュタイン公国編

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72.金網デスマッチ

 オレは手を縛られたまま歩かされて館の地下へ続く階段を降りていく。


 その先にあるドアが開けられて見えたのは奥行きのある壁に挟まれた通路と、中央に設置されている闘技場みたいなサークルの空間だ。


 驚いたのはサークルの外周と天井を金網フェンスのような構造物が覆っていることだ。


「な、なんだコレは……」


 何が何やらわからない状態のオレを、衛兵たちが早く行けとばかりに急かす。


 そして金網の一部が開いた入口からサークルの中に入れられた。


 槍を構えた衛兵たちが入口を塞ぐと、一人の衛兵がオレの手を縛っていた縄を解いていく。


「オラッ、もっと奥に入れや!」


「グアッ!? 痛ってーなコノヤロウ!」


 手が自由になると同時に奥へ蹴り飛ばされ、反射的に文句をつけたが無視されてしまった。


 そして続けて2メートル男が中に入ると入口は閉じられて鍵がかけられたのだ。


「おほーっ、ここならよく見えるな」


「叔父上、久しぶりの観戦はとても楽しそうですね」


 公爵家当主の女とその叔父のオッサンの声が聞こえた。


 通路の壁だと思っていたのは階段状の観客席であり、特等席っぽい場所に奴らが座っているのだ。


「テメーら、オレをこんなところに閉じ込めて何やらせるつもりなんだよコラァ!」


 2人の方を向いて怒鳴るとオッサンが驚いた表情を見せたが当主は動じていない。


 そしていつの間にか接近していた2メートル男が怒気を込めた声で言い放つ。


「貴様、我が主への無礼は許さんぞ……」


 オレをずっと上から見下ろす姿は威圧感満載で思わず言葉を失った。


 緊迫感が高まったところに当主の声が割って入ってくる。


「もう良い、下がるのだヴィンセント」


 男はヴィンセントという名前らしい……ヤツはまだ睨みつけながらも後ろに下がっていった。


 当主は続けてオレに話しかけてきた。


「哀れで愚かな囚われ人よ、私自らがお前にこれから起きることを説明しよう」


「勿体ぶってねーでさっさと言えよ!」


「その威勢、いつまで続くかな……お前はこれからそこにいるヴィンセントと闘うのだ」


「……」


「そして散々に痛めつけられたお前は、今回の不審な行動の背後関係まで全て白状することになる」


「それってアイツが勝つ前提じゃねーか。オレが勝ったらどうするんだよ?」


「そのようなことは万が一にも起きないが……その時はお前を解放して望みも一つ叶えてやろう」


「望みって何でもか!」


「限度はあるぞ。例えば私の命を狙うなど、節度のない願いは聞き入れない」


「……いいぜ、それでも」


「ソフィアよ、そのような約束をして大丈夫なのだろうな?」


「叔父上、心配無用です。私が知る限り約束を果たした事例は皆無です」


「うむ、そうであったな。こうやって希望を与えておいて、それが絶望に変わる瞬間の表情を眺めるのは何とも愉快であるからのう、フヒヒ!」


 コイツら、なんつー悪趣味してやがんだ。


 絶対に思い通りにはならねーぞ!


「おい、得物を一つ持たせてやる。どれか選べ」


 ヴィンセントがぶっきらぼうに顎で指した先に武器が幾つも置いてある。


 どれにしようかな……やはりいつものアレに決めた。


「木刀を寄越せ」


「そんなものでいいのか? 舐められたものだな」


 もっと強力な武器を選んでも使い慣れていないと力を発揮できない。


 だからこの場面では木刀がベストチョイスだと信じる。


 ところでヤツは何を選ぶんだろうか。


「おれはいつものやつだ」


「なになに……ってただのボールじゃねえか! お前の方がナメてるぞ!」


「……始まればわかる」


 もしかして見た目ではわからない仕掛けが施されているんだろうか、ちょっと不気味だな。


 それぞれの得物が金網に小さく開けられた窓から投げ入れられる。


 窓はすぐ閉じられて何かするスキは無かったので素直に木刀を手に取る。


 ヤツはバスンと弾んだボールを足でポーンと真上に上げた。


「準備はいいか……それでは、始め!」


 当主の合図とともに、ヴィンセントは落ちてきたボールをボレーで蹴り込んできた!


 うわあっ!


 まさに火の玉みたいなシュートが迫ってくる!


「危ねえッ!」


 オレは辛うじて避けることができた。


 でもこれでヤツは得物を手放したわけだ。


 さあ反撃……どこ行きやがった。


 ヤツは金網で跳ね返ったボールが弾んでいく先にすでに回り込んでいた。


 そして間髪入れずにまた火の玉シュートを撃ってきた!


 なんとか避けたが、またしてもヴィンセントは回り込んですぐさまシュート、この繰り返しだ。


「コノヤロー、いつまでも反撃しないと思うなよ!」


 オレは木刀をバットの如く横振りしてボールを打ち返す! ハズだった。


「イギィッ! 腕が痺れてマトモに打返せねえ!」


「こんなボテボテのゴロでは、おれを倒すことなど出来んなあッ!」


 バシィーン!


 顔と胴体への直撃は免れたが左上腕にモロに喰らってしまった。


 痛いなんてもんじゃない、こんなの何度も当てられたら身体がボロボロになるぜ。


 その後も息つく暇も無く防御と回避を強いられて、魔力を集中したり、ましてや木刀が届く間合いに近づくなんてとてもできない。


 そうだ、あれならどうにかなるかも。


 またもオレの正面にシュートを撃ってきた。


 オレは咄嗟にバレーボールのアンダーハンドレシーブの構えをとった。


 バチーンと大きな音がしたが何とか空中へそこそこの高さで打ち返した。


 両腕が今にも腫れ上がりそうだが我慢して間合いを詰めてやる……と思ったが。


 ヤツは一瞬こちらに背を向けたかと思うと、上半身を仰向けに倒しながら長い脚を頭より上に振り上げる。


「甘いわーッ!」


 そう叫びながら巨体を空中で回転させつつ右足をボールに叩きつけて一気に振り抜いた!


「グフアーッ!?」


 回避が間に合わず、とうとう顔面の横っ面にヤツの強烈なオーバーヘッドシュートを喰らってしまった!


 たまらず倒れ込んだオレを見下ろしながらヤツは最後通告とばかりに自白を促してきた。


「もう観念したらどうだ。お前一人で全てを背負い込む必要はあるまい」


 いや、今回はオレが自分の意志と責任でやってんだから何も喋ることなんてねーよ。


 そう頭の中で呟きながらヨロヨロと立ち上がり口の中に溜まったものを吐き捨てた。


 赤黒い色……口の中が切れてしまったようだ。


「そうか……ではこのまま人生を終わりにするがいい」


 それから火の玉シュートが何度も俺を襲った。


 なんとか避けようとするが身体のどこかしらに当てられてその度に激痛が走る。


 そして金網フェンス間際に追い込まれてしまった。


 ヴィンセントはリフティングをしながら徐々にこちらに近づいてくる。


「そろそろ……終わりにして、楽にしてやろう」


 いったいどうすりゃいいんだ。

 木刀はまだ持っているが振るう力も残ってない。


 この金網フェンスさえ無ければ逃げられるのになあ。


 ここでふと思いついた。


 もうここまで追い込まれたら試すだけだ。


 オレはフェンスに木刀を立てかけ、金網に指をかけながら木刀の先に足をかける。


 そしてフェンスをよじ登る!

 同時に飛行魔法の魔力を背中に集中した。


「貴様、往生際が悪いぞ!」


 ヴィンセントはリフティングからシュートに体勢を移行して強烈なのを蹴り込んできた。


 オレは身体を地面と平行にしながら飛行魔法を発動し、金網の上を走ってボールを避ける!


「小癪な! だがこれでトドメを刺す!」


 ヴィンセントは返ってきたボールをすかさずオレに向けて撃とうとしている。


「ここだあーッ!」


 オレは金網からジャンプしてありったけの魔力を背中に込める。


 そしてヤツが撃ってきたボールに向かって一直線にダイブする。


 このままダイビングヘッドで倍返しだ!


 しかし額に当てるつもりが、このままだと顔面に当たる……いやこのチャンスを逃すことはできない。


「ボールはオレの味方! 喰らいやがれ!」


 自分でもよくわからないことを叫んで怖さを誤魔化しながら顔面ダイビングヘッド!


「痛ってぇー!」


「なにぃ!?」


 ヤツの顔面にカウンターヒットして2人とも倒れ込んだ。


 衝撃が強すぎたのかボールはパンクしてヘナヘナになってしまった。


 これで倒せたか……いやヤツは立ち上がってきた。


「もう、遊びは終わりだ。お前は今終わっていた方が良かったと後悔することになるだろう」


 オレもとにかく立ち上がった。

 しかし、魔力もほとんど残ってないしどうしたもんかな。

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