07.旅立ち
あの会議から一週間が過ぎた。オレは毎日魔法の練習に明け暮れている。
いつビッグセブン、いや選帝侯たちが攻めてきてもおかしくない。オレはヤツらに牙を剥いたのだから。
その時のために少しでも戦闘力を上げておかねばならない。もちろん結果は見えてるが、せめてヤツらの誰か一人でも道連れにしてやる。
オヤジは、お前たち子供は遠縁の辺境諸侯の領地に避難しろと言ってくれてるが、オレが巻いたタネだし逃げ出すわけにはいかない。
あ、いい忘れてたが、お前たちというのは、オレと1つ違いの姉と妹3人のことだ。2人は既に避難している。
そして今日も練習に励んでいたのだが、オヤジから呼び出しを受けた。どうせ避難しろという話だろうが、応じるつもりはない。
でも呼び出しを無視するわけにもいかないので、オヤジの執務室までやってきた。ドアをコンコンとノックしてから
「失礼します。ルドルフです」
と挨拶した。どうぞという声が聞こえてから部屋に入る。あまり話を聞く気がないオレを見ながらオヤジは意外なことを持ちかけてきた。
「留学する気はないか」
唐突な話にキョトンとしているオレを尻目にオヤジは話を進める。
「選帝侯の一人、ケイン大司教より、お前に神学校への留学の誘いが来たのだ。受けるかどうかは、お前に任せる」
選帝侯には大きく分けて2種類ある。
ひとつはバンデリア侯爵やハインリッヒたちのような、ずっと領地を世襲している、日本でいえば大名みたいな諸侯が5家。
もうひとつは、教皇を頂点とする、この国で圧倒的多数派の宗教「アイイン教」の司教が領地を持った、聖職者の諸侯が2家。こちらは司教は世襲出来ないのでちょっと特殊だ。ちなみにケイン大司教はあの会議には参加していない。
それにしてもこの誘いはなんなんだ? もしかして、選帝侯相手に立ち向かったオレのポテンシャルを見抜いて鍛えてやろうみたいな、少年マンガのような展開か?
しかしオヤジの見立ては全然違った。「人質」にするつもりだろうと。
要するに、オヤジ、いや皇帝が自分たちを裏切る素振りを見せれば、いつでも跡継ぎを処刑するよ? ということだ。
オヤジ曰く、ヤツらは何らかの理由で今すぐウチを攻撃する準備が出来ていないのではと。
それが何なのか、別の皇帝候補が見つからないのか、ヤツらの意見がまとまらないのか、それともまだウチに利用価値があると踏んでいるのかはわからないが、ウチが妙な動きをしないよう保険をかけようとしているのではということだ。
受けるか否かをオレに任せると言ってたが、断ればそれを裏切りと解釈して攻めてくるに決まってる。
「そのお話、お受けします」
オレが返答したあと、オヤジが話しかけてきた。
「そうか、わかった。ワシもそれがいいと思う。どうせ応じても断っても命がけならば、相手の懐に飛び込んでみるのも悪くない。まあ、いざとなればすぐに逃げだせばよいのだ。お前なら、何とかしてここまで逃げて来るだろ?」
さすが我が父上、よくわかってらっしゃる。
それから慌ただしく旅立ちの準備を終えた3日後の朝、オレはケイン大司教の領地へ向かうため馬車に乗った。
もう戻ってこれないかもしれないが、見送りに来てくれたオヤジに向かってこう言った。
「行って参ります」