65.有ってはならない物
「内容としては昨日の襲撃の件、ブルーノ一味と仮面の男について取り調べの進捗状況だよ」
「アイツらって今どうなってるんだ?」
「ブルーノ一味は全員警察へ引き渡し済み。エメリッヒ……仮面の男の名前だけどね、彼はまだ校内の懲罰室に拘束されている」
「懲罰室なんてあったんだな。なんでソイツだけそこなのさ」
「リュストゥングフットボール部所属で、男爵とはいえ親が爵位持ちだからね。それにブルーノたちはあくまで部外者だから」
「あの部ってどんだけ学校内に影響力持ってんだよ」
「この神学校の規模が今よりも小さかった時代に、知名度アップで多大な貢献があったらしいよ。それでここに子弟を預ける有力貴族が増加して、OBにも有力者が多いのさ」
オレの前世、つまり現代日本でもよくあるスポーツ名門校みたいな話だな。
「なるほど、良くわかった。それじゃ続き頼む」
「まずはそのエメリッヒについて。彼の所持品にとんでもない物があったんだよ」
「所持品で? なんか大袈裟過ぎないか」
「この場ではそれが何かは言えないけど、『教育の場に有ってはならない物』が見つかったんだよ」
「それって、相当ヤバいモノなんじゃないの」
「ハッキリ言えば法に触れる物だよ。で、ここからブルーノたちが関係してくるんだ」
「ええっ、何か嫌な予感がする」
「残念ながらその予感は当たってると思う」
「うう……よし、聞く覚悟はできた」
「タツロウの元クラスメイト……ゲーツとカスパーだったかな。彼らはまだここに在学していた時から、エメリッヒと売人の仲介役をやっていたのさ」
「なあっ!?」
ヤツらとは仲が悪かったとはいえ、元クラスメイトがそこまでの悪事をやっていたとは、やっぱりショックだぜ……。
「で、彼らは退学後もそのことでエメリッヒと繋がりを持ち続けていたんだ」
「それじゃあ、ウチの部室を襲撃した件も」
「そう、エメリッヒが繋がりを持ってるゲーツたちに依頼したのが最初だよ」
「ブルーノはいつ出てくるんだ?」
「お待たせ、ここから出てくるよ。ゲーツたちは依頼を受けたはいいが、自分たちだけではとても無理と考えて」
「わかった、それでブルーノたちに助っ人を頼んだと」
「その通り。彼らは以前から顔見知りではあったみたいだから」
「あー、でもよく考えると、そんなの引き受けてもブルーノに何もメリット無さそうだけど。友情とかで助けるようなヤツには見えん」
「それがメリット大有りなのさ。ブルーノは部室襲撃とタツロウへの仕返しを手伝う代わりに2つ条件を出したんだ」
「うーん、何だろう」
「一つはゲーツたちが自分の傘下に入ること。そしてもう一つが、今後は例のモノで稼いだ仲介手数料から自分に上納金を差し出すこと」
「うわっ……確かにメリットある」
なんとまあ、そこいらの半グレ顔負けのやり取りやってんじゃん。
「ここまでが、警察でブルーノ一味を調べた内容だよ」
「いや待てよ、何でお前がそこまで知ってるのさ」
「ぼくらも事情聴取されたからね。で、こちらは完全な被害者というのが確定したのでいろいろと教えてくれたんだよ」
「事情聴取って、お前はあの時現場にいなかっただろ」
「ごめん、説明が足りなかった。襲撃時の状況はノアとクリス、マヌエラ、それに途中から見ていた兄さんが証言してくれたんだよ。特に兄さんの証言が効いたようだ」
うーん……。
マクシミリアンが証言してくれたのはもちろんとても有り難いことなんだけれど。
やっぱり爵位持ちの証言のほうが信用力が高いってことなんだよな。
身分社会のこの世界では仕方がないことだけど、なんとなく釈然としない。
「ところでさ、何でエメリッヒは仮面姿でウチの部室の近くにいたのさ」
「えーとね。前提として今年は正門の警備を強化したから、ブルーノ一味は正面から入れない状況だったんだよ」
「つまり、エメリッヒがどこかの抜け道から校内に手引したってか」
「そういうこと。ちなみにブルーノたちはエメリッヒのことを『上得意様』としか説明されなかったらしいから、単に正体を隠すために仮面を着けたんじゃないかな」
「だから『仮面のダンナ』呼びだったわけか」
「部室近くにいたのは、恐らくブルーノたちが依頼をキチンと果たすかを監視してたんだろうね」
「納得した。これで話は終わりだよな」
「いや、まだあるんだ。というかこれからが問題なんだよ」
ちょっと疲れてきたんだけど……もう少し頑張るか、ここまできたら。
「わかった。じゃあ話してくれ」
「話を例のモノに戻すよ。今は寮内でエメリッヒの部屋だけが捜索されてるんだけど……たぶん彼らの部室とかも捜索対象になると思う」
「リュストゥングフットボール部のってことか?」
「ゲーツたちがエメリッヒ以外にも客がいることを匂わせてるらしい」
「それじゃあ、最悪のケースは部全体に捜査対象が広がるかもしれないと。メチャクチャ大事になっちまうじゃん」
「そうなったら学校側がそのことに掛かりっきりになるかもしれない。それは困るんだよね」
「え、何が」
「ソフィアとヨハネスの捜索の件だよ。下手したら途中で打ち切られかねない」
「そんな馬鹿なことがあるかよ!」
「ぼくの杞憂に終わればそれでいいんだけどね。いずれにしても、2人とも早く見つかってほしいよ」
「それなら、さっきマグダレナにオレが持ってる情報を伝えたぞ」
「さっきもそんなこと言ってたね。一体どんな情報なのさ」
「それは……すまん、眠くて仕方がない。あとはマグダレナから聞いてくれ」
「わかったよ。おやすみ」
オレは頭の中を整理しながら頑張ったのだが、もう眠気が限界だ。
いつの間にか意識を失い、次に目が覚めた頃にはもう夕方になっていた。
何とか起き上がれる状態だったので、施錠される前に保健室を、そして校舎を出た。
そしてその日は食事も取らずに寮の自分の部屋に入ると、そのまま朝までグッスリと眠り込んでしまったのだ。




