64.意識回復するまでの状況
「ここは……確かソフィアたちに追いついて……えっ、今何時だよ! って、痛っ!」
「急に起き上がっては駄目です! 身体のあちらこちら怪我だらけですのよ」
その声はマグダレナか。
ベッドの横で椅子に座り、本を読みながらオレの付き添いをしてくれていたようだ。
「まだ寝ていなさい。でも無事に見つかって良かったです」
オレはベッドに潜り込んで寝転びながらマグダレナの方を見た。
今の状況やソフィアたちのこと、聞きたいことが山ほどあるのだ。
彼女もオレの視線の意味に気づいたのか、小さな溜め息をついたあとにちょっと面倒そうに口を開いた。
「どこから説明し始めましょうか……現在の場所と時刻からでいいかしら?」
「それでお願いします」
「まず、ここは学校内の保健室です。時刻は午前の11時」
「そうですか……ん? オレが学校の外に飛び出したのは、確か昼過ぎ……」
「ええ。今日は学園祭2日目の翌日です。貴方は16時間以上意識が戻らずに眠ったままでした」
「なっ! それでみんなは? ソフィアたちは捕まったの……イテテ」
「落ち着きなさい、傷口が開きますわよ。ひとつひとつ説明しますから、大人しく聞いてちょうだい」
「すみません」
「まずソフィアとヨハネスについてですが……結論から言えばまだ身柄を確保できていません」
「……やはりですか」
「市街地の西側城門で、昨日の夕方少し前にそれらしい女性を含む2人連れが馬に乗って通り過ぎたとの目撃情報はありました」
馬だと……どこかに隠していたのか盗んだのかはわからないが、追跡がより厄介になるな。
「実は、貴方が飛び出したあとに学校側から主要な城門や関所に伝書鳩で手配をかけたのです」
「えー、そんな伝達手段を持ってるんですね、学校なのに」
「普段は来客を予め伝えておくためのものらしいですけど。昼間であれば今回のような使い方をすることも稀にあるようです」
「で、確保できてないっていうことは……」
「西側は順番が後回しになって、伝達が間に合いませんでした」
それはまあ仕方ないかな。北方に逃げる相手に裏をかかれた逃走ルートを行かれたんだから。
「ここでタツロウに質問です。先程の起き抜けに『ソフィアたちに追いついた』と言ってましたが本当ですか?」
そう、追いつきはしたのだ。
でもそこから連れ戻すのはとても難しいことだった。
オレは市街地の裏通りで彼女たちに追いついた場面について詳しく説明した。
連れの男の存在、背後関係がありそうなことまで全てのことを。
マグダレナは口元に手を当てて少し考える仕草をしてから慎重に話しだした。
「何といいますか……巷にありふれた小説のような展開ですわね。それが現実に身近で起きているなんて、ちょっと信じられないというか」
「信じてくださいよ、本当なんです」
「いえ、タツロウのことを疑っているわけではありません。ただ、ソフィアのやり方があまりにも強引なので」
「一緒にいた男の存在といい、誰かが指示しているか支援しているのは明らかですよ。やはり公国が糸を引いているのかも」
「公国の関与はさすがに陰謀論だと思いますけど……もちろん学校側に報告して策を練ることになります。気になるのはソフィアと男の関係ですわね」
「仲間だと思いますけど違うんですか?」
「タツロウが聞いた最後の会話だと、ソフィアの従者のようにも思えるので。まあ、あくまで参考情報ですけれど」
言われてみればそうだな……でもこれは捕まえるために必要な情報じゃないしどうでもいいか。
「ところで、どうしてその裏通りにソフィアたちがいると思ったのかしら? 寧ろそちらの方がデキすぎた話だと思いますけど」
ギクッ!
まさか、オレも逃走ルートを研究してたからなんて言えないしどうしようか?
「いやその、オレなら追手の裏をかいて、北とは違う方角で、目立たないように裏の狭い所を逃げるよな〜って考えて探しに入ったらタマタマ見つけたのですよ、はい」
マグダレナはしばらくジーッとオレの顔を見つめたあとにボソッと呟いた。
「ちょっと怪しさは残りますがこれ以上はやめておきましょう。そうそう、あとでマルコ君にお礼を言っておきなさい」
「何でいきなりマルコが出てくるんですか?」
「貴方とヨハネス双方と仲が良いと聞いてましたので、彼に2人の行きそうな場所とか教えてもらいましたの」
そういうことか。
でもマルコにあの裏通りのことなんて教えたっけ?
「彼曰く、貴方は以前に探検だとか言って裏通りに入っていたことがあるとか」
そういえば、裏通りを実地確認して入口に戻ったところをマルコに見つかったことがあったな。
その時にそんな言い訳をしたような記憶が薄っすらとある。
「貴方の姿が街中に見当たらないので、まさかと思って先生たちが探したら、表通りから少し入ったところで倒れていたのを発見したそうです」
あれ、裏通りの一番狭いところで倒れたハズなのにどうなっているんだ。
それはともかく、マルコと先生たちに礼をキチンと言わないといけないな。
「あと、部員のみなさんですが……今回のことで大きな精神的ショックを受けています」
それはまあ、不思議じゃないよな。
不良グループの襲撃に仮面の男の存在、トドメに仲間の失踪と半日の間にこれだけ事件が起きたら誰でもショックを受けずにはいられない。
「ですので、クリスとノア、マヌエラには寮で終日休養を指示しています。ウチは昨日片付けを終えてますから」
「そういえば今日は午前中が片付けで午後は休講でしたね。やっぱり昨日は営業再開できなかったんですか?」
「襲撃だけなら再開できたかもしれませんが、さすがに仲間が戻ってこないとなると心配でそれどころではありませんし、仕方がないことですわ」
「ところで、あとの2人は休んでないんじゃ……」
「わたくしもフェルディナントも、もちろんショックは受けていますがやるべきことが残っていますから。タツロウも余計な心配をせずに今日は静養しなさい」
なんだか申し訳ない気もするが、ここは部長命令ということで休ませてもらおう。
正直言って昨日は限界以上の動きをしたのでボロボロだ。
「おおっ! ようやくタツロウの意識が戻ったんですね。付き添いを代わりますからしばらく休んでください」
フェルディナントが室内に入って来た。
昨日も会っていたのに、なんだか久しぶりに会ったような感覚になってしまうのは、それだけ昨日にいろいろと有り過ぎたからだろうか。
「丁度いいタイミングで来てくれました。タツロウからソフィアたちについて重要な情報が得られましたので、学校側に報告に行きたいと思っていたのです」
「そうなんですか。実はぼくも伝えたいことがあるんですけど」
「わたくしは後で聞きますわ。フェルディナントも後でいいかしら」
「それで問題ないです。それじゃあとは任せてください」
マグダレナはフェルディナントと入れ替わってどこかへ行ってしまった。
それはいいがフェルディナントの伝えたいことって何だろうか。
気になってゆっくり休めないではないか。
「タツロウ、起きてる?」
「ああ、お前の話というのが気になってしまって」
「それはごめん。それじゃ、できるだけ手短に済ませるように頑張るよ」
「頼む」
「ちょっと驚く内容も含むけど、心の準備はいいかな?」
「ええっ!? お前、一体何を話そうとしてるんだよ」
聞きたいような聞きたくないような……でもどうせ気になるのだから覚悟を決めて聞くことにしよう。




