62.置き手紙
ソフィアとヨハネスがまだ戻っていない?
「確か2人ともブルーノたちに部室が襲撃される前に出たはずだよな……いったいどこで何やってるんだよ」
「彼女たちは仕事をサボるようなタイプじゃないし、何かあったのかと心配だよ」
慌てるオレとクリスに、マグダレナが冷静な態度で呼びかける。
「落ち着いて2人とも。クリス、心当たりのある場所とか探しましたか?」
「はい。でも見当たらないんです」
「どうしたんだろうな。まさか、オレたちの部室に来る前のブルーノたちに出くわしてどこかに連れていかれたとか」
「そんな……!」
「タツロウ、クリスを怖がらせないで。その可能性は無いと思う」
「なんでそう言い切れるんだよ……ですか?」
「連れ去ったのなら、タツロウたちに反撃された際に人質を取っているとか仄めかす筈でしょう」
「それに、他に仲間はいないみたいだよ。警備員さんたちに引き渡すまでは警戒してたけど、誰もブルーノたちを助けには来なかった」
マグダレナとフェルディナントの説明はそのとおりだと思う。
でもそれじゃあ、本当にどこに行ってるんだよ?
不安を感じながらもオレたちは校舎内に入り、一旦部室に戻ることになった。
「タツロウはこのまま保健室に行って休みなさい。フェルディナント、そこまで頼めるかしら」
「じゃあ行こうかタツロウ」
「いいよもう、一人で歩けるって。それよりオレも部室に行くよ」
「ダメです! もうこれ以上の無理は許しませんから!」
「いや違いますよ。部室に置いてきたカバンを取りに行くだけです。その後保健室に寄って、それから寮に帰って休みます」
「……そういうことならいいでしょう」
アンドレアスとはここで別れて、部員4人で階段を登っていく。
その間に見える範囲で廊下を見回すが、ソフィアたちの姿は見当たらない。
「何か手がかりが欲しいですわね……わたくしが部室にいない間にトラブルはありませんでしたか?」
「今日は朝からずっと忙しくて、わたしを含めて部員同士のトラブルは起きていません。お客さんとも何も……あの人たちが来るまでは」
「昼過ぎにヨハネスが休憩に出て、それからぼくが実行委員の緊急集合に行って……ソフィアはその後に出たってことで合ってる?」
「ああ、そのとおりだ」
「ソフィアはどこに行ったかわかるかな?」
「あっ、その……お手洗いだと思います。校舎内にあるすべての箇所を確認しましたが、彼女はいませんでした」
「ヨハネスの行きそうなところは……オレもちょっと思い浮かばないなあ」
「彼の所属クラスの教室とその周辺にはいなかったよ」
あーでもないこーでもないと話し合ってる間に部室に着いたのだが……改めて見ると酷い有様だ。
「みんなお帰り……あっ、タツロウも戻ったんだね!」
「タツロウ先輩、ご無事で良かったッス! 自分、心配でもう堪らなかったんスよ!」
留守番のノアとマヌエラが片付けをしながら出迎えてくれた。
「それは悪かったな。でもちゃ〜んと仮面の男を捕らえたんだぜ〜!?」
「大男なんですよね、スゴ過ぎるッス! もう一生先輩に付いていくッス!」
「タツロウ、遊んでないでさっさと保健室に行きなさい。ノア、マヌエラ、片付けを任せっぱなしにしてごめんなさい」
「気にしないで下さい、マグダレナ。それより2人は見つかったんですか?」
「まだです。とにかく範囲を広げて探さないと」
「ぼくは校内全ての室内をしらみ潰しに探します。あとは校舎の外にある出店周辺に、競技場方面、寮……みんなで手分けして探しましょう」
マグダレナとフェルディナントがテキパキと捜索の方針を説明して指示を出す。
まあこの様子ならすぐに見つかるだろう。
オレはひとまず保健室へ行って治療してもらうよ。
どうせ寮に帰るからそっち方面はオレも探そうかな。
さてカバンを持って行かないと……忘れ物は無いか中身をチェックしておこう。
また4階まで登るのはさすがにツラいからな。
ん? 何だこれは。
こんなものを入れてきた覚えはないぞ。
中身が入っている封筒で表になにか書いてある。
これは……みんなに知らせないと!
「……それじゃあ、みんな頼んだよ」
「ちょっと待ったあー!」
「な、何ですのタツロウ! 駄々をこねたって貴方は捜索に連れていきませんよ!」
「いや、そうじゃなくて! これ、この封筒に書いてある文字を見てほしいんだ!」
「何を言い出すかと思えば……『錬金術研究会のみなさまへ』ですって? タツロウ、こんな時にふざけないでちょうだい!」
「い、いや書いたのはオレじゃなくて」
「あっ、この流れるように綺麗な字はソフィアの筆跡だと思うんだけど」
「そう! それをオレは言いたかったんだ」
「……中に手紙が入っているのかしら。すぐに開けてみましょう」
マグダレナは封筒を受け取ると中の手紙を取り出して一通り目を通した。
「何が書いてあるんですか」
「クリス、それはね……いえ、今から要点を全員に伝えます」
マグダレナはふっと息をついて、再び息を吸い込むと全員に聞こえるようにお腹から声を出して話し始めた。
「ソフィアは、まずは突然のお別れになることを謝罪しています」
この場にいる全員がざわめいた。
いきなりでわけわかんねーもんな。
「……続けます。彼女は、ヨハネスと一緒に、彼女の故郷へ戻るそうです」
「えっ、何でヨハネスと一緒なんですか? まさか……駆け落ちとか?」
うーん、そう思えるシチュエーションだけど違和感があるなあ。
「マヌエラ、お前と2人はよく一緒に居残りして実験してたよな。その時の雰囲気とかどうだった?」
「うーん……実験内容とかは仲良く話してましたけど、恋人とかそういう感じには見えなかったッス」
「でも、普段は素っ気ないフリをしていただけかもしれないよ」
「ソフィアはともかく、ヨハネスにそんな演技ができると思うか?」
「みなさん静粛に……まだ続きがあります」
「すみません……お願いします」
「彼女は、短い期間でしたが学校生活は楽しかったと。特に部活動は仲間ができて嬉しかったそうです」
そしてマグダレナはもう一度息を吸い込むと、今までより少し強い口調で最後の内容を伝えた。
「もう、ここに2度と戻ることは無いだろうと、最後の文章には退部願いが書かれていました」
「そんな! 何で、どうして」
「……残念ながら、これ以上の説明も理由も書かれていませんでした」
みんなの気持ちが一気に沈み込むのが手に取るように感じられた。
突然こんな手紙を置いていって納得しろと言う方が無理だよな。
「この手紙、どこに置いてありましたの」
「オレのカバンの中です……何故かはわかりませんが」
質問に答えながら、オレは行き場のない感情が溜まっていくのを感じた。
そうだ、こんなわけがわからない別れをどうして。
ソフィアもだが、ヨハネスまで何故する必要があるんだ。
オレはもう居ても立ってもいられなくなって身体が動いてしまった。
「こんなの納得いかねーよ! とにかく外に出て探してくる!」
「待ちなさい! 勝手に学校の外に出てはダメです!」
オレはマグダレナの静止に構わずに走り出した。
後ろからフェルディナントの声も聞こえたが聞こえないフリだ。
「どうします、こうなったらみんなで2人を探しに出ますか?」
「いえ、闇雲に探しても上手くはいきません。わたくしはすぐにこの件を教職員に連絡して対応を協議します」
「わかりました」
「フェルディナントとクリスは、念のために校内とその周辺を注意深く探してちょうだい」
「了解です、行くよクリス」
「ノアとマヌエラはここに残って片付けの続きをお願い。もし2人が戻ってきても大丈夫なように」
「了解ッス!」
「タツロウの馬鹿のことは、取り敢えず放っておきなさい。わたくしの方で手を打ちます」
みんなが冷静に対応したことは後で知ったオレだが、何も考えていないわけではない。
俺の読みが正しければ何とか追いつけるかもしれない、そう考えながら走り続けたのだ。




