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06.ゴメンな

 あの散々な会議の翌日、オレはオヤジから、この国と皇帝位について本当のことを聞いた。


 そもそも帝国は、古代の大帝国の後継として、数多の小領主を有力な大領主がまとめる形で成立した。というか、強力な王国が成立してから、教皇がそれに乗っかる形で帝位を戴冠したんだと。


 それから300年くらいは、権力争いで皇帝家自体が入れ替わることはあっても、他の王国のように帝位の世襲が続いていた。


 しかしある時、皇帝の後継者が途絶え、皇帝家の傍系や有力な将軍・諸侯達が権力争いを繰り広げて皇帝位の空位が続き、帝国は大混乱した。


 有力諸侯にとっては、それに乗じて勢力を拡大し、それぞれが後ろ盾となった皇帝候補を乱立させるなど、帝国内での権力を強めたのだ。


 そんな状態が100年近く続いたあと、帝国の強力な軍事力が頼りなので早く帝国の混乱を収めさせたい教皇と、皇帝の権威を独占したい有力諸侯たちとの妥協として、特権を与えられた7家の大諸侯により皇帝を選挙で選ぶという制度が作られた。これで皇帝候補を一本化することに成功し、混乱を収めたのだ。


 と、ここまで話してもらったところでオレから質問。


「その選ばれた皇帝こそ我がドラゴベルク家のひいおじいさまですか?」


「いや、違う。お前からすればひいおじいさまになるのか、それが登場するのは、さらに100年後の話だ」


 そうなのか。じゃあ、その時選ばれた皇帝家はどうなったんだ?


「最初の選挙で選ばれた皇帝家は、そもそも大諸侯、つまり今の選帝侯たちにとって都合の良い、操りやすい貧乏諸侯だったのだ。ヤツらは自分たちの誰が即位しても争いは収まることはないとわかっていた。ならば、自分たちの言うことを聞く小さな諸侯を皇帝位に就けて操り人形とし、帝国支配の果実だけを頂くことにしたのだ」


 オヤジの説明は続く。いつもなら長い説明はダルくなってくるオレだが、この時はとにかく必死に聞き入っていた。


 説明によると、選帝侯たちは、領地の不可侵や大逆罪などの特権と、皇帝から徴税権、関税権、市場開設権、鉱業権などの利権の獲得で、帝国内でありながら独立国家の如く、自分達の領地内では王のように振る舞っているそうだ。


 更に年に一度開かれる帝国公会議でも、自分達の権力や財力を強化するために都合のいい法律を定めたとか。もうホントやりたい放題だな。


 そうやって皇帝の権力の多くを奪い取られた後、3代目の皇帝が就任したところで事件が起きた。


 その3代目は頭脳明晰で軍事的なセンスもあり、なおかつ帝国臣民たちから慕われる、とても優秀な皇帝だったそうだ。


 それでも選帝侯達は、自分たちに逆らうことはできまいと高を括り放置していたのだが、ある年の公会議で、選帝侯たちの横暴に不満を持つ有力諸侯達と手を組み、皇帝の権力を強化するための制度改革を実行しようとしたのだ。


 選帝侯といえども、公会議では一票しかない。改革のための法案は採決されたのだ。


 もしかして、それがひいじいちゃんか? ヤツらに歯向かうなんてスゲー、さすがオレのご先祖。


「いや、全然違うぞ。落ち着いて最後まで話を聞け」


 オヤジに窘められてしまった。よく考えたら3代目だからひいじいちゃんじゃない。それでそのあとどうなったんだ?


「選帝侯たちは、ここで新たな皇帝候補を立ててきた。それがお前のひいおじいさま、ルドルフ一世だ」


 えっ、ということは……。


「選帝侯たちは、先ほどの3代目皇帝に対して、選帝侯への謀反の意志ありと主張し、大逆罪の汚名を着せたのだ。そして自分たちの配下の諸侯達を率いて皇帝の領地に攻め入った。そこで先頭に立って切り込んでいったのが、ルドルフ一世だ」


 げぇーっ! ひいじいちゃんは救国の英雄どころか、悪の手先だったのかよ!


「ルドルフ一世に皇帝位への野心があったのも事実のようだが、そうするしかなかったのも事実。皇帝候補への推挙を断るなど、それこそ選帝侯たちに潰される口実にしかならぬ」


 ああそうか、昨日のハインリッヒのセリフの真の意味はこういうことだったのか……。


 オレにとっては衝撃の事実を聞かされ続けた挙句にひいじいちゃんがそんなだったとは、ますます気が滅入ってきた。


 そしてオレんちも引き続き、選帝侯たちに寄ってたかって食い物にされてるってわけだ。


 ここで、オレはあることに気が付いた。そうだ、オレがマサオにやってたことも同じようなことじゃないか。


 オレにとってはただの悪ふざけでも、やられる方はたまらない。自分がやられる方の立場になって、ようやくわかった。


 まあそれはともかくとして、ここで根本的な疑問をぶつけてみる。


「よくわかりました。しかし父上、このことを私が知っていれば、昨日の失態は無かったのでは?」


「ルドルフ、これまでお前に説明しなかったのは、すまないと思っている。だが、これには理由があるのだ」


 今さらだが、その理由とやらを聞いてみる。


「跡取りが優秀すぎれば、先程のように奴らに潰されてしまう。お前は違うのでそれは心配していないが」


 思わず頷いてしまったが、なんて失礼な! まあでもそんなこともうどうでもいいので黙って続きを聞く。


「そこそこ優秀なのが良くない。自分で言うのも何だが、ワシのようにな。奴ら選帝侯には『反乱のリスク無く使えるヤツ』としか認定されない」


 まあ確かに。でもそれとオレとどう関係あるんだ?


「そこでお前には、わざと大事なことを伝えず、無能な跡取りを装わせたいと考えたのだ。幸いというか、お前は勉学嫌いだしな」


 そうか、だからオレが普段不真面目でも咎められなかったのか……。皇帝になる男は細かいことは気にされないとか勝手に思い込んでた自分がハズい。


「無能で使えないとなれば、奴らが都合のいい候補に勝手に鞍替えして穏便に帝位を手放せると思ったのだ。帝都の繁栄を手放すのは惜しいが、貧乏でも領地を存続出来ればなんとかなる。まあ、ワシの勝手な希望でしかなかったがな」


 そんな親心も知らずに俺はなんてことを、とますます落ち込むオレにオヤジが声をかけてくれた。


「お前のせいではない、全てはワシが勝手に考えたこと。気にするでない」


 オヤジ、オレはアンタのこと馬鹿にしてたけど、とんでもない。立派な皇帝であり、父上だ。


 話を聞き終わると、疲れ切った心を休めるため、ベッドに寝転んで目を閉じた。そして眠りにつくまでの間、もはや相手に届かないことはわかっていても、何度もつぶやいた。


「ゴメンな、マサオ」

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