59.お礼参り
「タツロウ、テメーのせいでよぉ、おれたちは退学になっちまったんだ」
「その上実家に戻ったら恥晒しだって親から勘当されたよ……こんな目に遭わされた落とし前つけさせてもらうぜぇ〜!?」
「あぁ!? 何言ってやがる! お前らが勝手に事件起こして退学になったんだろうが! その罪をオレに擦り付けようとまでしたくせに何が落とし前だ!」
「うっせーんだよ! とにかくおれたちはテメーをボコボコにしなきゃ気が済まねーんだ!」
ムチャクチャ言ってやがるぜ、ゲーツにカスパー。
反省どころか逆恨みとは、もうどうしようもねえな。
「オラァッ! 俺のこと無視してんじゃねーぞ!」
バール男がいつの間にか踏み込んできていた。
そしてオレの左腕目掛けてバールを振り下ろす!
クッ、不意をつかれて木刀で受ける余裕はない。
とにかく避けるしかない!
バールがビリッと服を破いて腕を通り過ぎる。
辛うじて腕にかすっただけで避けられた。
「何しやがる!」
木刀で反撃したが後ろへの足捌きで躱されてしまった。
くそ、コイツ苛つくなあ。
「クククッ……ブルーノさんはなぁ、この学校に入学してから3ヶ月で退学になるまでの間に、半殺しにして病院送りにした奴が10人は下らねーっていう凶暴なお方なのさ!」
どこにでもいるよな、他人の武勇伝を何故か自分のことのように自慢する奴。
ゲーツ、お前のことだよ。
それでブルーノってのはバール男のことだよな。
というか、またこの学校出身者かよ。
実はここってヤンキー養成校なんじゃないのか?
「おい、ブルーノ! お前は何で面識もないオレを狙うんだよ、恨みでもあんのかよ?」
「ん〜!? タツロウ、テメーにゃあ何の恨みもねーんだけどよぉ……まあコッチにも事情ってやつがあってなぁ、ここは一つブチ殺されてくれや!」
ブルーノは言い終わる前にブン! とバールを振り下ろしてきたが、仕掛けてくるのがバレバレだっての。
後ろに引いて避けつつカウンターの準備だ。
バールは片手で振り下ろせるし、先のL字部分が尖っていて殺傷力が高い武器だが、木刀に比べればリーチは短い。
冷静に対処すれば問題ない、反撃してやるぜ。
ドンッ!
「うわっ、後ろから風で押された!? 一体何だよ?」
そこにバールが振り下ろされてくる。
避けきれない!
「ぐわあっ、左肩に!」
「次はかすり傷じゃなくて身体に穴ァ開けてやるぜ〜!?」
「調子にのるな!」
なんとか木刀を振ってブルーノを下がらせる。
肩は掠っただけだがそれでも痛い。
それよりも後ろから押したのはやっぱりお前らか。
「ゲーツ、カスパー! 汚ねえぞテメーら!」
「ククッ、何とでも言え」
ヤツらに向かって木刀を振ったが、間合いの外にいて避けられてしまう。
「キヒヒヒ、余所見してる余裕あんのかテメーはよぉ!?」
またもやブルーノが振り下ろしてくる。
だが何度もやられてたまるか。
木刀をバールの柄に当ててガシィーン! と音が響く。
反動でお互いの間が開いたがオレのほうが先に動けそう……うおっ、また背中を押された。
ここでブルーノは躊躇なくオレの顔面目掛けて横に払うようにバールを振ってきやがった!
マジで殺す気か!
ギリギリで上半身を屈めて避けたが危なかった。
「だりゃあ!」
こっちもブルーノの脚を狙って木刀を振ったがバックステップで躱された。
くそっ、状況はかなり厳しい。
ブルーノの攻撃を避けると後ろからゲーツたちの風魔法で背中を押されて連続攻撃を受けることになる。
しかもイヤらしいことに魔法は最小限の大きさに調整してある。
周りを巻き込むくらいの大きさなら囲みの陣形が乱れて隙ができるのに。
左右を囲っているヤツらは敢えて攻撃してこないようだ。
ターゲットをタコ殴りにするよりも、陣形を乱さず逃げる隙を与えないつもりらしい。
ノアは……客たちとクリス、マヌエラを庇いながらヤツらのうち2人と対峙している。
残念だが援護は期待できそうにない。
こうなったらあの技を使ってこちらが先手を取ろう。
「うりゃあ!」
オレはブルーノに向かって木刀を思いっきり振り下ろす。
「ヘっ、当たんねーつってんだろ!」
足捌きだけで軽く避けられてしまった。
そしてヤツはバールを振り上げて攻撃を仕掛けようとしている。
今だ、さっき振り下ろした木刀の刃先を上に返して踏み込みながら振り上げる!
ブワァッ!
なんと避けられて空振りしてしまった。
「おっと、その手は喰わね〜よ」
ブルーノに完全に読まれていた。
しまった、前にヒューゴに同じ技を決めた時にゲーツたちも近くにいたことを忘れてた。
「オラァッ!」
ブルーノがカウンターでバールを振り下ろしてくる。
ドスッ! と左脇腹の少し背中側に一撃を入れられてしまった。
「あがああああ!」
激痛で思わず叫び声が出てしまった。
服に血が滲んで余計に痛く感じる。
「イヤッハー! これから残酷なショーが始まるよ〜!?」
ブルーノがバールを構えながら近づいてくる。
さすがにこれは大ピンチだ。
後ろからカスパーまでが煽りを入れてきやがる。
「ケッケッケ、いいザマだなタツロウ! このまま嬲り殺しにしてやるぜ……んん!? いきなり何しやがる!」
様子が変だな、後ろで何が起きてるんだ?
「お前ら、ヒューゴといつもツルんでた奴らだろう? 一度じっくり話し合いたいと思っていたんだよ」
あ、アンドレアス!
いつの間にゲーツとカスパーの後ろに忍び寄ったのか。
2人の首を両脇に抱えてヘッドロックをキメているのだ。
「ゲホッ……何なんだテメーはよ!」
「ヒューゴとは好敵手であり友でもある男だ」
ゲーツたちはヒューゴが精神的に不安定な時にワルい道へ誘い込んだ張本人だ。
その前からヒューゴとは友だったアンドレアスとしては思うところがあるのだろう。
「あぁ〜ん!? ジャマすんならテメーもブチ殺すぞ!」
「2人を放しやがれコラァ!」
ブルーノと仲間たちの注意がアンドレアスの方に集まって囲みが崩れかけている。
これはチャンス!
オレは力を振り絞ってブルーノの腹のあたりに組み付いた。
そしてすぐさま右に90度回りながら背中に魔力を集中する。
「そこどきやがれぇ!」
ブルーノの身体を押しつつ飛行魔法を発動させて囲みにできた隙間を目掛けて突進する。
よし、囲みは破った……このままドアから廊下に押し出してやる!
「テメエ放せ、この野郎!」
ブルーノが右肘を背中にガッと落としてきた。
グッ、痛みで思わずヤツの身体を放してしまった。
しかしもう遅い、既に廊下に押し出してやったのだ!
しかもヤツは勢いで廊下の壁に背中を打ちつけて痛がってやんの。
ざまあ見晒せってんだ。
「な、何事だ?」
「キャー!」
廊下に居合わせた人たちが悲鳴を上げながら逃げていく。
申し訳ないがこうするしかなかったんでな。
「ブルーノさん、大丈夫ですか!」
さっきまで囲んでいたヤツらがドアに集まってきた。
グループのリーダー格が強力であるほど、ソイツが急にいなくなるとメンバーたちが不安に襲われやすくなる。
思った通りにコイツらをブルーノの方に誘い出せて嬉しいぜ。
それはいいがまた囲まれる前に起き上がらないと。
アチコチ痛いのを我慢して起き上がりヤツらを睨みつける。
状況はまだまだ不利なことに変わりはない。
この後は逃げながらヤツらを相手しなければならないのだ。
「タツロウじゃないか。営業中なのにサボって廊下で遊んでるのかい? やれやれ、フェルディナントの苦労が目に浮かぶようだ」
マクシミリアン、こんな時に来やがって。
今はお前の相手してる暇ねーんだよ!
「ここは危ねえから向こう行ってろよ!」
キョトンとしているマクシミリアンにヤツらの一人が突っかかっていく。
「ジャマだどけぇ! 殺されてーのか!」
ブウンッ!
ドサッ!
何が起きたんだ?
突っかかっていったヤツの身体が宙に浮かび、床に叩きつけられたのだ。
「……いきなり手を出してくるとは、タツロウよりも失敬なヤツだな」
「やりやがったな!? テメーから血祭りに上げてやるよ!」
「やれやれ、このボクに喧嘩を売るとはいい度胸じゃないか」
その後は一方的な展開となった。
掛かって行ったザコ敵どもは、マクシミリアンに謎の格闘術でことごとく投げ飛ばされてしまったのだ。
「ぐはぁッ!?」
「フッ、口ほどにもない奴らだ」
何か知らんがすげえなマクシミリアン。
結果的にだが助かったぜ。
お陰で、コイツを仕留めることにだけ集中できる。
「許さんぞタツロウ……テメーだけは必ずブチ殺してやる! ラクに死ねると思うなよ!?」
さっきまでヘラヘラした口調だったブルーノの雰囲気がガラッと変わった。
思わず背中がゾクッとしてしまったぜ。
どうやらここからがヤツの本気モードってことみたいだな。




