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名ばかり皇帝の跡継ぎに転生させられたけど、オレはこのまま終わるつもりはない  作者: ウエス 端
学園祭編

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57.クレーマー対応

「はぁ〜、食った食った!」


オレとフェルディナントは休憩で一緒に展示物や出店を見回っている。


 この日のために普段の出費を極力抑えて臨んだのだ。

 できる限り楽しまねば後悔するだけだ。


「ははは、それにしてもよくそんなにお腹に入るね」


「結構動き回ったからな。それにいい匂いがしてきたら食べてみたくなるのが人情だろう」


「確かに美味しそうな店が多いね。毎年店を出してる部やグループもあるから、レシピが引き継がれて改良され続けてるんだろうね」


「お前ももっと食えよ」


「いやー、タツロウが美味しそうに食べてるの見てたらぼくまでお腹いっぱいになっちゃったよ」


 オレってそんなに食いまくってたのか。

 じゃあそろそろ部室に戻って仕事でもやるか。


 そして戻る道で普段入ることのない部屋の前を通りかかると、何やらうめき声みたいなのが聞こえてきた。


 聞いたことある声だな……これってマクシミリアンじゃないのか?


「おい、お前の兄貴のうめき声みたいなのが聞こえるぞ。この中でぶっ倒れてるんじゃないのか? ドアを開けるぞ!」


「待ってタツロウ、そこは……」


 ドアをバンッと開けると、そこにはオモチャみたいな木馬の乗り物に跨っているマクシミリアンの姿があった。


「な……なぜキミがここに……」


「ククッ……フフフッ……ぶわっはっは! なんだよお前、こんなところで一人でオモチャの馬に乗って遊んでるのか?」


「タ、タツロウ、ここはね」


「それも学園祭やってる時に! お前よっぽど友だちいねぇんだな、まあイヤミばっか言ってたら当然だよな! ギャーハハハッ!」


「い、いい加減にしたまえ! 本当に失敬な奴だ。表に出ろ! 今ここで決着をつけてやる!」


「いいぜ、望むところだ!」


「いい加減にしなよ二人とも! タツロウはここのことを知らないだけだよ兄さん! タツロウもぼくの話を聞いて!」


 フェルディナントがすごい剣幕で間に割って入ったので仕方なく話を聞くことにした。


 でも遊んでいる以外にどんな理由があるってんだ?


「この部屋は馬術のトレーニングルームなんだよ。競技場に出向かなくてもちょっとしたイメージトレーニングができるようにね」


「なるほど……でも何で今そんなことやってんだよ」


「ボクは今日と明日の夕方に開催される馬術競技のエキシビジョンに出るんだ。学園祭で毎年恒例の行事なんでね」


「そんなのがあるのか。だったらオレも呼ばれないとおかしいじゃないか」


「キミみたいなマグレで勝ち上がった選手の演技など誰も望んじゃいないのさ」


「なんだとテメー!」


「出場者は学校側が一方的に推薦するから兄さんに文句言っても仕方がないよ。兄さんもそんな棘のある言い方しなくても」


 なんか納得がいかないんだよな。

 でもそろそろ部室に戻らないといけないし、これぐらいにしておいてやるよ。


 部室に向かい始めるとマクシミリアンがフェルディナントと話しながらついてくる。


 イメージトレーニングしてたんじゃないのかよ、と思うがもう面倒くさいので放っておくことにした。


 そしてもうすぐ部室に到着というところで、部室の前に人が集まって騒いでるのが目に入った。


 一瞬、客が順番待ちしてるのかと喜んだがどうもそんな雰囲気じゃない。


 心配になって早足で近づいてみると、部室の中から男の大きな怒鳴り声が聞こえてきた。


「なんだ、このヌルくて味が薄いお茶は? こんなもの飲めるか、すぐに入れ直せ!」


 サービスで出してるお茶に文句を言ってる奴がいるのかよ。

 それにこの声、聞き覚えが……。


 ドアの隙間から覗き込むと、見覚えのある顔だった。


 しばらく前にウチの部室に来て言いがかりをつけてきた、リュストゥングフットボール部の副主将だ。


 名前は確かおまる……じゃなくてオトマールだったかな。


 そして同じようにガタイのいい男が3人、同じテーブルに座っている。


 そこの応対はソフィアとクリスでやっているらしい。


 マヌエラはその後ろでどうしたらいいのかと少しうろたえているようだ。


 ノアはどこに行った?


 ええと……部屋の端の方で興奮しているのはヨハネスか、それを抑えるので精一杯みたいだ。


「お口に合わなかったのでしたら、それは失礼いたしました。これはサービスで提供している飲み物ですのでこのままお下げいたします」


 ソフィアの対応はソツがなく、相手の顔を立てつつ無理な要求には応じないようにしている。


 これなら相手もこれ以上は文句言えねーだろうと思ったが、これでは終わらなかった。


「あぁ〜!? 我々は入れ直せと言っているのだ。不味いものを飲ませておいてまともに詫びることもできないとは、我らを愚弄しているのか!」


「お口に合わなかったことはお詫びしております。お代を頂いているものではありませんし、お下げすることが最善かと」


「言い訳をするな! いいから我らが納得するまで何度でも入れ直して持ってくればよいのだ!」


 このやろう、ムチャクチャ言いやがって。

 あからさまに嫌がらせのクレームじゃねえか。


 くそ、こうなったら……!


「タツロウ、ちょっと待って。もう少し様子を見てからにしよう」


「そんなこと言ったってよ、このままじゃあ」


「ここはぼくに任せてほしい。タツロウはノアをそっと手助けに行ってもらいたいんだ」


 しかし相手は屈強な男が4人、フェルディナントだけに任せて大丈夫だろうか。


「いいからフェルディナントに任せておけばいい。キミとは違ってヘマをしたりしない。なにせボクの弟なんだから」


 マクシミリアンの言うことに思わず頷きそうになってしまった。

 コイツ、ドサクサ紛れにオレのことディスるんじゃねえよ。


 でも確かにフェルディナントならなんとかするだろう。


「わかったよ、それじゃあとはフェルディナントに任せるよ」


「ありがとう。そっちこそ頼んだよ」


 オレは目立たないように部屋に入ってコッソリとノアたちのいるところへ向かう。


 ヨハネスを更に刺激しないようにして早く興奮を鎮めるためだ。


 でもクレームの方も気になる。

 まだソフィアたちが対応しているようだけど。


「お茶の味につきましては改めてお詫び申し上げます。ところで実験の方は楽しんでいらっしゃいますか? わからないことがあればサポートします」


「おい、お茶の話を誤魔化すつもりか!」


「待て……その話はひとまず終わりにしておけ」


「オトマールさんがそう言うなら」


「で、その錬金術の実験とやらもサッパリではないか。いくらやっても一向に金にならん。最初から騙すつもりではないのか?」


「そうそう! こんなものは詐欺だ!」


「それは最初にご説明したとおり、何が生成されるかはわかりません。様々な組み合わせで何ができるのかを楽しんでいただきたいのです」


「ならば『錬金術』などという部の名称はおかしいではないか。看板に偽りありというわけだ!」


「錬金術は金を生成することを目的とした化学的な研究であり、まだその方法は確立しておりません。生成できなくてもそれは研究の過程でしかないのです」


「きさまあ、先程から屁理屈ばかり並べおって! どこまで我らを愚弄し続けるつもりか!」


 男4人が一斉に立ち上がり、椅子がガタガタと大きな音を立てる。


 もうヤバい、とんでもないことになる前に止めにいかないと!


「お客様方、もうお帰りでしょうか? 出口はこちらです、さあどうぞ」


 誰だよ……って、フェルディナントがいつの間にかソフィアたちの傍にいてアイツらに帰りを促していたのだ。


「わ、我らは帰るとは言っておらんぞ。何を勝手なことを!」


「では4人が一斉に立ち上がって一体何をなさるおつもりでしたか?」


「……こやつらが我らに何度も無礼な接客をする故、問い詰めようとしていただけだ」


「それは失礼いたしました。途中から見ていましたがお茶と実験結果にご不満があると?」


「そうだ。不味いお茶に金が生成されない実験、我らを愚弄するのも大概にせい!」


「失礼ながら、お茶はサービス品であり、実験して何が生成されるかは不明と最初に説明しております」


「そんなことはどうでもいい! 店員の態度が不遜であった。確かきさまが副部長であろう、下級貴族どもへの躾がなっておらんぞ!」


「見ていましたが、店員は何度も丁寧に説明させていただいております。これ以上対応が変わることはありません。あと、身分差はあれど今のご時世に先程のような発言は如何かと」


「くっ……だったらどうするというのだ?」


「ぼくにこれ以上は言わせないでください。問題を大きくすることはお互いの利益になりません」


「……もういい、あまりの無礼に呆れてものが言えん。きさまら、このままで済むと思うなよ」


「ご来店ありがとうございました。頂いたご意見は参考にいたします」


 4人は次々とフェルディナントを睨みつけながら部屋を出ていった。

 フェルディナントはお辞儀しながら挨拶し、敢えて睨み合いには応じない。


 すごい、つけいる隙を与えなかった。

 アイツらは結局ほとんど嫌がらせできずに引き下がったのだ。


 オレも無事ヨハネスを鎮めることができて一件落着だ。


「すげえなフェルディナント! 奴らに何もさせずに追い払うなんてよ!」


「いや、その前にソフィアとクリスが頑張って丁寧に対応してくれてたからだよ」


「ありがとうございます。でも助かりました、4人が立ち上がった時はとても怖かったです」


 オレたちがお互いの頑張りを讃えあっていると、それまで周りで眺めていた連中が次々と声をかけてきた。


「お前らやるじゃん。アイツら相手に一歩も引かねーなんてよ!」


「アイツら本当に偉そうよね! ウチもネチネチ文句言われて、でもあの体格だから怖くてマケさせられた! でもさっきのでスカッとしたよ!」


「何が伝統の名門クラブだよ、ざまぁだぜ!」


 オレたち以外にもアイツらに不満を持っている連中は結構いるんだな。

 まあ、そうだろうなとしか言えない振る舞いだもんな。


「またアイツらが嫌がらせに来たんですって? 性懲りもなく! 学園祭が終わったら今度こそ徹底的に抗議しますわ!」


 騒動を聞いて駆けつけたマグダレナも怒髪天の勢いでお怒りモードだ。

 頼りにしてますぜ部長。


 騒動はある意味宣伝になったのか客入りが良くなり結構忙しくなった。

 明日もこの調子が続けばいいのだが。


 気になるのはオトマールの捨て台詞だ。

 ただの負け惜しみなのか、それともまだ何か企んでいるのか。


 念の為に部屋の片隅にアレを置いておくか、いざというときのために。

 まあ、使わないで済んだらそれでいいんだけど。

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