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名ばかり皇帝の跡継ぎに転生させられたけど、オレはこのまま終わるつもりはない  作者: ウエス 端
学園祭編

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56.学園祭初日

 学園祭1日目を迎え、オレたちは午後からの開店に向けて準備を急いでいる。


 実験の材料はケースにほぼ入れ終わった。

 あとはそれぞれに名称と簡単な説明を書いたカードを差し挟む。


 客が座る室内のテーブルにはクロスをかけて実験用具を置いていく。


 用具は客が実験し終えたら交換するから予備もいくつか用意しておく。


 なお、用具の交換や洗浄、テーブルや椅子の掃除といったバックアップ作業はオレとヨハネスでやることになった。


 ヨハネスは接客が苦手なので自ら志願したのだが、オレはそうではない。


 接客をメインにやりたかったのだが、何故かみんなからはしきりにバックアップの方をメインに頼むと言われたのだ。


 どういうつもりなんだよ、オレは人当たりの良さには自信があるというのに。


 いや待てよ……みんなオレにばかり人気が集中するのを恐れているんだな。


 まあそれなら仕方がないな。

 でも接客する機会があれば存在感を見せつけてやるぜ、フフフ!


 それはともかくとして、統一しなかったので服装はみんなバラバラになってしまった。


 マグダレナは実行委員としてあちこち移動するからか、髪を後ろに束ねてスラックスを履いている。


 見た目キリッとした印象で、男装の麗人とまではいかないがなかなかカッコいい。


 マヌエラは制服の上に白衣と理系女子そのままの格好だ。


 驚いたのはフェルディナントで、燕尾服みたいな上着を着てまるで執事のコスプレみたいだ。


 まあこれが似合っているから問題ないし、ぜひ女子の集客に貢献してもらいたい。


 あとの3人はそれぞれ制服にちょっとした装飾を施してるだけで派手ではないが清潔感のある服装だ。


「もうすぐ開店時間ですわよ。皆さん準備はいいですか?」


「実験の材料と用具は問題ないッス!」


「いつお客さんが入室してもご案内できます」


「希望者にサービスで出すお茶の用意も万端です」


「では、開店いたしましょう!」


 マグダレナの合図とともにソフィアがドアを開ける。


 さあ、どれぐらいの客が入室してくれるのだろうかと期待感が高まる。


「……誰もいないですね」


 みんなから一斉に溜息が漏れてがっかり感が半端ない。


「皆さん、落ち込むのはまだ早い! 始まったばかりなのですから、いつでもお客さんを迎え入れられるように気を引き締めましょう」


 全員の士気が下がりそうになったが、マグダレナの一言でなんとか持ち直した。

 よく考えたら立ち上げたばかりの部がそんな簡単に呼び込めたら苦労はしないのだ。


 それなら呼び込みやればいいだろうって?


 残念だが店頭や部屋の前で直接の呼び込み行為は禁止されている。

 過去の学園祭でトラブルの元になることが多かったらしい。


 しばらくは手持ち無沙汰な状態で、他の部屋に次々と客が入っていくのを眺めるしかなかったが。


 部屋の前を通る足音と男女の話し声が聞こえてきた。


「あ、ここってもしかして、前夜祭でタツロウの奴が宣伝してた錬金術なんちゃらじゃねえの?」


「そうみたいだな。でもおれはタツロウの変なメイクしか記憶に残っとらんわ」


「ついでだから冷やかしでちょっと寄ってかない?」


 声は同じクラスの奴らだった。

 あの失敗したメイクも無駄ではなかったらしい。

 冷やかしでもいいからとにかく入ってくれ。


「いらっしゃいませ。さあどうぞお入りください」


 入口をそうっと覗く顔が見えそうなところで、ソフィアが機先を制するかのように声をかけた。


「ソフィアもここの部員なの? それなら安心して入れそうよね」


「お、おれも! ソフィアに接客してもらえるなら!」


「フフッ、ありがとうございます。さあどうぞ」


「いらっしゃいませ〜!」


 初めての客ということもあって全員での挨拶で出迎えた。


 このあとの評判に関わるので気合い入れてもてなすのだ。


「自分たちで実験するのか……何か面白い組み合わせはないの?」


「ああ、それならッスね〜」


 マヌエラが丁寧に解説しながらオススメをいくつか提示すると、客はトッピングを選ぶかのように材料を選択してそれぞれ容器に入れていく。


 そしてテーブルに案内したところでフェルディナントがすかさずお茶を勧めに行く。


「お茶をサービスしますよ、一杯どうですか?」


「あっ! 馬術大会に出てた人ですよね? 確かタツロウと戦って……」


「それは兄のマクシミリアンです。ぼくはフェルディナント、お見知りおきを」


「もちろんちゃんと覚えました! お茶をお願いしたいです」


「かしこまりました、お嬢さま」


 フェルディナントがエレガントにお茶を入れると女子の目はハートマークになっていた。

 これは想像以上に集客効果があるかもしれん。


 それからマヌエラとソフィアがサポートして談笑しながら和やかに実験が行われた。


 化学反応で化合物が生成されていくと、おぉ~と歓声も上がって結構楽しんでくれているようだ。


「思ったより面白かったぜ。暇になったらまた来るかもよ」


「ありがとうソフィア! クラスの女子にオススメしておくね」


 なんか良い反応が返ってきた。


 もちろん部員と同じクラスメイトだったというのもあるだろう。

 でもお世辞ではないことは嬉しそうな表情から確信できる。


 よし、ここはオレも挨拶して好印象を確実なものにしておこう。


「ご来店いただき誠にありがとうございました!」


 クラスメイトといえども今はお客、丁寧な挨拶と爽やかな笑顔でお見送りだ。


「タ、タツロウが丁寧な言葉使いで挨拶……」


「しかも笑顔……何かが起こる前兆なのか」


「さっきメイクのこと変だったって言ったのはコイツだから!」


 何を言ってるんだ、客相手に丁寧かつスマイルなのは当然だしメイクのことなんぞ何も気にしてないのに。


 そそくさと部屋から出た奴らの姿が見えなくなってからみんなに問いかけた。


「オレ、何かマズいことやっちゃいました?」


 しばしの沈黙、そしてクリスと顔を見合わせてからマグダレナが返答してくれた。


「いえ、マズいことは何も……でもタツロウはもっとフレンドリーに接したほうがお客さんの受けが良いと思いますわ。特にお知り合いなら尚更」


「そうですか。ちょっと堅苦しく思われたのかな」


「まあそんなところです。それにタツロウはここぞという時の秘密兵器ですから、普段はクリスたちに任せておけばよろしくてよ」


「秘密兵器……なるほど。それじゃあ普段は出しゃばらないで力を温存しておきます」


「その調子です。タツロウにはわたくしも期待してるんですのよ」


 なあんだ、それなら最初からそう言ってくれれば良かったのに。

 オレもいつの間にかマグダレナに気を使わせるほどの存在感を持ってたんだな。


 みんなもホッとした雰囲気だが、オレのことで余計な気を使わせてしまったかな。


 まあそれはいいとして、あいつらが評判を広めてくれたのかポツポツと客が入るようになった。


 オレもバックアップで少し忙しかったが、残念ながら出番はなかった。

 まあ、このオレに相応しい客が来なかったのだから仕方あるまい。


「客入りが落ち着いてきましたわね……すみませんがわたくしは実行委員の仕事でしばらくここを離れます。皆さんも交代で学園祭を楽しんでください」


「じゃあ、先にマヌエラとクリス、ソフィアで楽しんでおいでよ。その次にノアとヨハネス、最後にぼくとタツロウでいいかな?」


「私たちはそれでいいですよ」


「僕たちもOKさ」


「オレも」


「じゃあ決まりだね。もう行ってもらっていいよ」


「わーい! 初めての学園祭、楽しみで仕方がないです!」


 もっと苦戦するかと思っていたが、わりと順調な滑り出しでオレも心置きなく学園祭を満喫できそうだ。


 お店や展示物その他いろいろ、可能な限り見て回ってやるぞ。

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