55.前夜祭
「これだけ揃えば問題ないと思います。先輩方、ご協力いただいて感謝ッス!」
いよいよ明日に迫った学園祭。
ウチの部も準備は大詰めを迎えている。
当日の実験に必要な材料についてはマヌエラが最終チェックを行って問題はないみたいだ。
もちろん危険と思われる材料や組み合わせは本や文献で調べた物は全て排除済み。
調べるのは大変だったが、終わってみればあーだこーだ言いながら協力して作業をしたのは結構楽しかった。
「タツロウ、悪いけどそっちを持って運ぶの手伝って」
「いいぜ……って結構重いなこのケース。ノアはよく平気な顔してられるな」
「あははっ、これでも実家の農作業を手伝って慣れてるからね」
オレたちが運んでいるのはケーキ屋のショーケースみたいなケースで自作したものだ。
ここに材料を並べて名称と簡単な説明を貼り付けておき、お客さんに選んでもらう。
そう、オレたちの出し物は『セルフ錬金術実験室』の運営である。
お客さんが自分で選んだ材料で実験してもらって、どんな化合物が生成されるか楽しんでもらおうというわけだ。
そんなの危ないんじゃないかって?
実験には必ず部員が一人以上付き添って手助けするよ、もちろん。
接客するので部員の制服にはアレンジを加えて人目を引くデザインをそれぞれ考えてもらった。
でもやはりメイド服はダメだった……まあ来年の楽しみとしておく。
元々が地味な活動の部活なのでこれでも集客効果は未知数だが、こちらが淡々と実験する様子を披露するだけよりは可能性はあるだろう。
「皆さんお疲れさま! わたくしたちも準備を手伝います」
部長のマグダレナ、副部長のフェルディナントが手伝いに加わってくれた。
2人とも学園祭の実行委員も兼ねており多忙なので当てにはしてなかったが、合間を縫って来てくれるだけでもありがたい。
「このケース、なかなか可愛らしくていいデザインですわ。誰が考えた物ですの?」
「女子3人があれこれアイディアを出しながらデザインした物ですよ。実際に組み立てたのはオレたちだけど」
「素晴らしい! みんなが一致協力して作り上げていく……これぞ部活動の醍醐味ですわね」
「そうですね、あとは当日の集客が上手くいくか。ぼくも空き時間は極力ここで接客します」
「本当か? フェルディナントがいてくれれば女子の集客アップは確実だな」
フェルデュナントは顔立ちが整ってるだけでなく、振る舞いがどことなくエレガントなので間違いなく女子の人気は高いだろう。
「まあ集客効果はともかくとして、普段あまり協力できてないからね。頑張らせてもらうよ」
「いよいよ盛り上がってきましたわね。この調子で集客数トップ狙いますわよ!」
ええっ、それってオレたちにハッパかけるための方便じゃなくて本気で狙ってたのか……。
でも確かに狙うならトップだよな。
なんかオレまでやる気が満ちてきた。
マグダレナのリーダーシップがオレたちをもり立ててくれるのだ。
改めて、いい人に部長になってもらえたと思う。
「明日は午後から校内だけだから、合間を見てみんなもあちこち廻って楽しんでもらえばいいよ。本番は明後日の一般開放だからね」
フェルディナントから明日と明後日の行動について説明が入った。
学園祭は2日間に渡って開催されるのだ。
「明後日はどれぐらいの一般入場があるんだ?」
「この辺りの市民はいつも学園祭を楽しみにしてるし、学生の保護者も結構来るからね。数千人は確実に来場するよ」
「あ、そういえば去年の学園祭でトラブルがあったけど、今年は大丈夫かな?」
「トラブルって何があったんだよ」
「ああ、クリスが言ってるのは近隣の不良グループが入り込んで暴れたって話のことだよね。毎年のように発生してる困り事だよ」
オレが前世で通ってた学校でも、文化祭で近所の学校の奴らとモメたって話は聞いたな。
まさかこの世界でも似たようなことがあるとはね。
「それについては大丈夫。今年は入場門での警戒を強化して、そういった連中を通さないようにしているから」
「良かった! これで安心して接客できるよ」
「それと今日は前夜祭があるからみんな楽しんでね。あと、タツロウは宣伝活動よろしく」
前夜祭では短い時間ながら各グループ毎に宣伝活動をさせてもらえるのだ。
オレがそれを任されたわけだが、少しでも多く注目を集めねばならない。
ヤニクに協力してもらい、やれるだけはやってみるつもりだ。
◇
時間は夜となり、前夜祭が開幕した。
校舎の中庭に設けられたステージ上で様々なパフォーマンスと宣伝が繰り広げられる。
そしてオレたちの出番が近づいてきたのでステージ横へ向かう。
「タツロウっち、その顔何だよ……可笑しすぎじゃね?」
「うっせーな! 注目浴びれたら何でもいいんだよ」
ヤニクに大道芸を披露してもらい、その横で助手をやりながら宣伝するというのがオレたちのパフォーマンス内容だ。
そして宣伝にインパクトを付けるためにピエロのようなメイクをするつもりだったのだ。
しかし上手くできなくて傾奇者みたいになってしまった……でも直す時間もないしこのままいくしかない。
「錬金術! 錬金術研究会をどうぞヨロシクー!」
ヤニクが芸を一つ終わらせる度に、部名を書いたタスキを強調して叫ぶのを繰り返す。
ウチの場合、まずは名前と存在を認識してもらわないと話にならないのだ。
でもヤニクの芸は思いの外練度が高く拍手も結構もらっていたので、思っていたよりも宣伝効果に手応えを感じられた。
「すげえなヤニク! お前の芸かなり受けてたから宣伝もバッチリだ」
「タツロウっちの頼みだからな、おれっちも気合い入れてやったんだぜ」
「お礼に今度お前とギーゼラにスイーツ奢るよ」
「それならこの前の賭けの分と2回分よろしく頼むぜ〜」
うっ、やはり覚えていたか……今回の分だけでウヤムヤにする策は上手く行かなかった。
覚悟を決めて2回ちゃんと奢ろう。
パフォーマンスが一通り終わると、今度はキャンプファイヤーを囲んでのダンス大会が開かれた。
ダンスっていってもキチンとしたものではなく、それぞれが好きな相手や仲間と好きに踊ったり騒いだりするだけのものだ。
オレの仲間内で言えば、ヤニクはヤンチャ仲間と好きなように騒ぎ始めた。
一方、ノアとクリスは初々しくフォークダンスみたいなものを踊っている。
マルコとサンドラもいるな……というかあいつらかなりダンスが上手いな。
ワルツみたいなのだが、正直言って意外だった。
そしてもう一人、舞踏会みたいなダンスを見せていたのはソフィアだ。
ヨハネスをリードして踊っているが、ただドタドタしてるヨハネスと違ってキチンとしたステップを踏んでいる。
「タツロウ〜、踊るの代わってよ〜。もうクタクタだよ〜」
「いや、まだメイク落としてねーし」
「私は構いませんよ。タツロウ君、踊りましょう」
踊り始めると彼女のステップについていくのがやっとだった。
ヨハネスが疲れてしまうのも無理はないな。
「タツロウ君はとても上手ですね。驚きました」
「いやいや、ソフィアこそメチャメチャ踊り慣れてるじゃん。オレはついていくのが精一杯だよ」
「フフ……タツロウ君に初めて褒めてもらいました」
「そんなことないと思うけど。そういや、ソフィアってどこ出身だっけ? みんなダンスが上手い土地柄とか」
「出身地は帝国北方の公国ですが、みんな上手というわけではありません。私の両親はちょっと教育に厳しかったもので」
下級貴族と言ってもピンキリで、経済的に裕福な家が教育熱心というのはよくあることだ。
逆に言えば、爵位持ちだからといって裕福とは限らない。
「それはともかくとして、牧畜と酪農が中心の自然豊かな祖国が、私は大好きなんです」
そう誇らしげに出身地を語る彼女の表情は何故か寂しそうに見えた。
気のせいかとも思ったが、後でオレはその意味を知ることになるのだった。




