50.進級と転入生
夏休みが明けて今日からいよいよ新学期だ。
そして2年生への進級でもある。
夏休み中に毎日毎日、山ほど補習させられたお陰でパワーアップしたオレの姿をクラスメイトたちに見せつけてやんよ!
……と意気込んで登校したオレだが、出だしから早くも厳しい現実を突きつけられた。
オレの隣にはいつもの通りマルコがいる。
そしてその両隣には、これもいつも通りサンドラとマチルデがいるのだ。
マルコを挟み込むように接近しており、マチルデに至っては片腕をマルコの片腕に絡ませている。
サンドラはウチのクラスだから仕方ないが、マチルデはそもそも別のクラスじゃないか。
授業開始前とはいえ、いつまでもここにいないで自分のクラスに戻れよな。
だがこれだけではなかった。
ノアとクリスが楽しそうに喋りながら並んで廊下を歩いて行く姿を見てしまったのだ。
もちろん彼らが『お友達からのお付き合い』を始めたことに異論は無いし重々承知していることではあるが、朝からそんなに見せつける必要があるのかと苦言を呈したい。
これでは仲間内で男女のカラミが全くないのはオレだけではないか!
オレは激しい脱力感と疎外感に襲われたのだった。
「ういっすタツロウっち! ひっさしぶり〜」
そうだ、オレにはまだヤニクがいたのだ。
女っ気のカケラも無いコイツと傷を舐め合うことにしよう。
「ういっす。やはりお前だけだ、オレの気持ちをわかってくれるのは……!?」
オレは自分の眼を疑った。
ヤニクの斜め後ろに親しげな距離感で女子が一人立っているのだ。
「ん? ああ、コイツはおれっちと同じクラスのヤツ」
「アンタがタツロウ? ウチはギーゼラ、ヨロシク〜」
全体的にウエーブのかかった長い髪に日焼けしたような肌と胸元が開放的な制服姿、そして話し方となんだかギャルっぽい女子だ。
「おれっちとコイツ、クラスメイトでよく喋ってたんだけど、夏休み中に実家の近所でバッタリ会ってさあ」
「それで、ウチらの家が意外と近くにあったことがわかってから、しょっちゅうお互いんトコに遊びに行ったんだよね〜」
ちょ……待てよお前ら。
まさか……いや、お前たちただのクラスメイトなんだよね?
そうなんだろ? そうだと言ってくれ!
「夏休みも終わりになる頃に、お互いなんとなく盛り上がっちゃってさ」
「ウチら、晴れてカレシとカノジョの関係になりました〜!」
ぐはあっ!
絶対に聞きたくなかった言葉を神聖な教室内でよくもまあヌケヌケと!
オマケにオレの目の前で2人の手を合わせてハートマーク作りやがって!
絶対に許さん、許さんぞ!
「それじゃあなタツロウっち、おれらもう行くわ! そうそう、賭けの件は後日ヨロシク〜!」
散々見せつけたあとに奴らは自分たちの教室に戻っていった。
ちなみに賭けの件とは、だいぶ前に『先に彼女が出来た方が、もう一方に彼女の分も含めてスイーツを奢ってもらえる』と約束した話だ。
なんてこった、精神的ダメージを受けた上に出費も嵩むという最悪の出だしとなってしまった。
それはともかくとして、もうすぐ朝礼の時間だ。
マチルデも自分の教室に戻り、ひとまず落ち着いた雰囲気でアーベル先生が来るのを待つ。
元いた世界の日本では年度が変わればクラス替えをするのが普通だが、この世界では違う。
基本的にクラスメイトも担任の先生もそのまま持ち上がりとなる。
ずっと同じだとマンネリになりそうだが、どうせ授業になれば選択した科目毎に教室を移動するので意外とそうでもない。
そして朝の礼拝が始まる前に先生から新学期の挨拶があった。
「皆さんおはようございます。充実した夏休みを過ごすことが出来ましたか? もしダラダラした毎日を送っていたのであれば、今日から気持ちを入れ直して勉学に励みましょうね〜」
相変わらず小学生を相手に話しているようなアーベル先生の挨拶を聞くと、教室に戻ってきたんだと実感する。
「今日は礼拝の前に紹介したい人がいます。ヨハネス君、まずは入りなさい」
先生に呼ばれて入ってきたのは平民出身の特待生ヨハネスだった。
あれ、アイツはヨソのクラスなのにどうなっているんだ?
「皆さん、ウチのクラスがヨソよりも人数が少ないことはご存知だと思います。そこでクラス毎の人数を平均化するためにヨハネス君に移ってもらいました」
そうなのだ、ウチのクラスは前の学期中にトラブルがあって3人の退学者を出しているのだ。
「あの〜、ヨハネス・ゾンダーです……よろしく、お願いしま〜す」
いつも通りの中途半端に丁寧な挨拶ではあるが、話してみるとそれなりに気のいいヤツだ。
夏休み中は見かけるたびに話しかけたので少しは心を開いてもらったと思っている。
「今日はもう一人紹介します。こちらは外からの転入生です。さあ入りなさい」
教室の入り口から入ってきたのは女子だ。
プラチナブロンドの長い髪と透き通るような白い肌、鋭いというか凛とした目付きの美少女だ。
でも無愛想とか冷たいといった印象ではなく、常に微笑んでいる表情からは寧ろ温かみや優しさが感じられる。
あと、女子としては長身で全体的に細いというかスレンダーな身体つきだ。
そしてその人目を引く容姿で多くの男子から驚きと感嘆の声が上がっている。
「ソフィア・ヘルツシュプルングです。皆さんよろしくお願い致します」
「はい、皆さん仲良くしてあげてくださいね〜。決してイジメなんてしてはいけませんよ〜」
最初の反応からすると男子はイジメたりしないだろうけど、女子同士はどうなんだろうか。
朝の礼拝が終わったあと、気になって見ていたが意外な結果になった。
女子たちの方が積極的に彼女を囲みに行ってあれやこれやと質問攻めにしている。
凛とした雰囲気に興味や憧れを感じているのだろうか。
男子は寧ろ近づき難いと感じているようでほとんど近づかない、というか女子たちにブロックされて近づくこともできない。
オレか?
確かに興味は惹かれる存在だけどあんな状態で近づこうとは思わないなー。
その代わりといってはなんだが、オレの後ろの席に座ったのはヨハネスだ。
なんだかんだいって馴染みのあるオレやマルコの近くにいる方が気楽なんだろう。
「ヨハネス、こっちのクラスに来るんなら先に教えておいてほしかったなぁ」
「ああ、それが、先生たちから誰にも言わないようにって言われてたんだよね。それで黙ってた」
「なんだ、それなら仕方ないな……まあこれからはクラスメイトとしてもヨロシク。歓迎するぜ!」
「うん、こっちこそよろしく!」
よし、これでヨハネスも既にオレの仲間内みたいなもんだ。
ということはだ。
オレだけ疎外感を感じることも無くなるではないか!
神はまだオレを見捨ててはいなかったのだ。
こうして夏休み明け初日は、波乱というほどではないがクラスにいくつかの変化があったのだった。




