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05.特権

「陛下、横から失礼することをお許しください」


 ここで横やりが入った。


 落ち着いた口調だが、威圧感を感じる声だ。


「ベルメーン公……。どうぞご自由に」


 その名前の公爵となると、もしかしてビッグセブンでも最大の領地を誇るボトルスキー家か!


 その当主なのか……? その割には結構若い。まだ20代後半ってところか。背が高く顔は小さく鼻筋高く目元はパッチリ、口元もりりしく口角がキュッと上がってる。そして髪の毛はきれいな金髪オールバック……。どう見ても王子様だよ。


「陛下、ありがとうございます。ルドルフ殿下、私はハインリッヒ・ボトルスキー、お見知りおきを」


「は、はぁ……」


 不意を突かれたのと、なんだか気圧されてしまい、ヘタレな返答になってしまった。


 ベルメーン公は落ち着いた態度で、そして声量はそれほど大きくないのに室内に響き渡るしっかりした口調で発言した。それが却って威圧的に感じさせる。


「先程ルドルフ殿下は、我々の要求を帝国に対する裏切りだと仰せになりました。本来は帝国とは別個に独立している諸侯という存在に対して、いわば帝国と一体の存在でもあるということになります」


 なんか小難しい言い回しだな。話を理解するのが面倒そうだ。


「今回の遠征は陛下からの要請に応えて我々は兵を出しました。であれば、先程とは逆に、今回の各諸侯の行動は帝国と一体でもあるということになります」


 オレの発言が逆手に取られてる気がする。何か反論しないと……。しかし、ハインリッヒはそんな隙を与えず畳みかけてくる。


「然るに、反乱鎮圧のために諸侯が負担した費用が支払われないのであれば、それは即ち帝国への裏切りとなり、つまりは陛下への反逆とも言えます」


 なんだよ、陛下への反逆って、オレの言ってる通りじゃん。墓穴掘ったなと思ったが、それは甘かった。


「ところで陛下は憶えておられますか。我ら選帝侯が帝国にて持つ特権を」


 選帝侯とは、ビッグセブンの奴らの自称で、「皇帝を選ぶ権利を持つ諸侯」という意味だ。特権って何だ、聞いたことないぞ。


「勿論、ですとも」


 オヤジは少し声を震わせながら答えた。ビビってるのが声から伝わってくる。


「陛下への反逆は大逆罪となります。そして我ら選帝侯には、我々への反逆についても同じく大逆罪が適用される特権がございます。つまり帝国への裏切りは陛下のみならず選帝侯に対する反逆にもなります」


 え、何だよそれ。大逆罪って必ず死罪になる、帝国で最高に厳しい罪だし、普通は王や皇帝に対する反逆に適用されるものだろ。そんなのありかよ……。


「陛下が帝国を裏切るのであれば、それは我ら選帝侯に対する反逆の意志ありと受け取れます。我々は新たな皇帝の候補を立て、帝国が混乱することを避けるために陛下の領地に入ることになりましょう。それが意味することは陛下もよくご存じでしょうから、これ以上は申しませんが」


 ハインリッヒがこれまでより冷酷な口調で言った言葉の意味は、オレでもなんとなくわかる。ウチを攻める口実をビッグセブンに与えるってことだ。そうなったらウチなんてあっという間に滅亡だ。


 この一方的な発言の間、会議の場は誰一人言葉を、いや音すら出さず静まり返った。オヤジの顔を見ると、顔面蒼白なんてものじゃない、今にも死にそうな紫色までいっている。


「ベルメーン公、私にそのような意思は無い。費用の処理についてすぐに話し合いましょう」


 オヤジはやっとのことでそう返答した。オレはもう怖くて何も言えない。


 ハインリッヒはオヤジの言葉に少し頷いたあと、オレの方に顔を向けて、半ば呆れたように言い放った。


「そうそう、ルドルフ殿下。あなたはこの国と皇帝位についてよくご存じないのでしょう、あんなことを平気で発言できるということは。後でご自分の父上より、詳しく教えていただきなさいませ」


 そしてオレとオヤジは会議の終了時間まで、諸侯達からボコボコにされた。肉体的ではなく、言葉の暴力で。


 しかし補償を要求された費用の合計は、とてもウチが払える額じゃない。


 最終的に、ハインリッヒから支払いについて提案がなされた。というか、最初からそれが狙いだったんだろうな。


「陛下の領地内にて、有望な鉱山が開発されているとか。すぐにお支払いいただける分を除いた残り分については、そこの採掘の権利を各諸侯に分けていただきたい」


 あの鉱山は、ウチが新たな収入源にと苦労して開発したものだぞ?  投資額も半端じゃない。せっかく利益を回収できる段になって、そりゃないだろう。


 しかし、もうオレもオヤジもそれに逆らう気力すらなかった。


 かくして、採掘権は遠征に出兵した各諸侯で割合に応じて山分けにされた。しかも半永久的に。


 諸侯たちが主張する費用を補償し終わったら返還してもらえるようオヤジも最後まで粘ったが


「ルドルフ殿下のご発言、あれは我ら選帝侯の名誉を著しく傷つけるものでした。その償いもしていただかねばなりません」


 とハインリッヒに一蹴されてしまった。ああ、なんてこと言ったんだオレ。


 オレの会議デビューは散々なものとなった。それどころか、オレの皇帝即位も怪しくなってきた。


 ハインリッヒの言う通り、あとで、オヤジからこの国の皇帝位について本当の説明を聞こう。オレはあまりにも知らなさ過ぎたのだ。

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