47.トーナメント(男子)その4
突撃開始の合図とともにオレもマクシミリアンも開始位置から飛び出した。
オレは自分の中では最速と言っていいほどいいスタートを切れて勢いに乗れそうだ。
だが、真正面から見えるヤツのスタートダッシュはそれよりずっと速かった。
ヤツはそのスピードを維持しながらオレとの距離をみるみるうちに詰めてくる。
これは実際に相対すると焦ってしまうよな。
でもここは既に考えたプランを実行してくまでだ。
そして早くも間合いに入ってきたヤツは槍を構えたかと思うとほとんど予備動作無しで強烈な突きを繰り出してきた。
速い! とても躱すことは出来ずオレの盾に命中し観客席から歓声が上がる。
全身に衝撃が走る威力でとても堪え切れない。
落ちる! でもこれがオレの作戦なのだ。
オレは半分落ちそうな体勢から身体を持ち上げてヤツの盾に向かって突きを入れた!
ガキンと鈍い金属音が響く。ヤツの速さのために盾の端に掠っただけで終わってしまった。
くそう、せっかくのチャンスだったのに生かしきれなかった。
歓声にどよめきが混じり、ヤツも何が起こったのかわからないという表情で端まで駆けていった。
ヤツの槍が当たる瞬間にわざと身体を逆に引いて威力を逸らす作戦、一応は成功だ。
もちろん堪え切れずに落馬する危険もあるが見切るのも躱すのもできないしこれしかなかったのだ。
でも鎧が重いので予想以上に体力を使ったし、次はどうするかな。同じ手でいくか、でもヤツに通用するだろうか。
そして2度目の突撃開始となった。
わずかだがヤツのスタートダッシュが鈍っている。
心理的に揺さぶることが出来たのは間違いない。ここは小細工なしで正面突破とオレは全力で駆けていく。
あっという間に間合いに入りオレは突きの動作に入る。これで決めるぞ!
ガキーン!
ここで突きがクリーンヒットした金属音が響く。しかし出所はオレの盾だった。
ヤバい、マジで落ちそうだ! それを期待する歓声が次第に大きくなる。
だがオレは空振りした木刀を地面に突き立てて何とか落馬を免れた。
そのまま端まで行くとブーイングが一斉に飛んでくる。武器で身体を支えるのは反則ではないが見苦しい行為と受け取られるのだ。
次は同じことはできないな。それにしてもヤツは何をやってきたのか……もしかしてフェルディナントがやったようなカウンター攻撃か?
ヤツのしてやったり顔を見ると恐らくそうだろうな。くそ、これじゃうかつに攻めに転じることができない。
もう3回目の突撃開始だ。次はどうする?
これといった策が思いつかないうちに始まってしまった。今度はヤツのほうがスタートダッシュを決めてどんどん迫ってくる。
迷ってる暇はない。成功するかわからんがアレでいくか……覚悟を決めて突進を続ける。
そのまま間合いに入ると同時にヤツはキレのいい突きをオレの盾に迷いなく入れて来たのだ。
強い金属音が響くと同時にオレはまた身体を引いて威力を逃がそうとするが、ヤツは身を乗り出してきて強く押し込んできた。
このままでは押し出される。歓声が上がる中でオレはイチかバチかで木刀に風を纏わせて地面に向かって振り下ろした!
直後に地面から気流が跳ね返ってきたが、幸いにも上に向かって吹き上げる気流となりオレの身体を支えてくれたのだ。
下手をすれば乱気流で余計に苦しくなる可能性もあったがオレの賭けは吉と出たのだ。
すれ違いながら強引に盾から槍先を振り払い、前のめりにバランスを崩したヤツの盾に渾身の突きを入れた!
たまらず身体が落ちていくヤツだったが、槍先を地面に着いて更に炎を槍先から出すことで何とか体勢を立て直したのだった。
どよめきと怒号と歓声が入り混じった複雑な音が競技場内に響く中、お互いギリギリの状態で端までたどり着いた。
どちらも武器が折れていて交換となったが、交換中のヤツの顔は鬼の形相だった。
なにせ武器を地面に着いたことに加えて下級貴族相手の試合で魔法を使うという2つの屈辱を味あわされたのだから、自分自身やオレに対して怒り心頭だろう。
ここまで追い詰めてしまうと次のヤツの攻撃がちょっと怖いな。どちらも魔法は使えなくなったが、こちらがリーチで不利なことは変わらないんだし。
でもさすがに疲れてきたしそろそろ決着をつけたいがどうしたものか。
ここで微かだがオレの名を叫ぶ声が聞こえた。その方向を見るとクラスメイトたちが必死で声援を送ってくれているのが見えた。
今回はあいつらも約束通り最後まで応援しているのだからオレも諦めるわけにはいかない。
ヤツに下手な細工はもう効かないだろう。この状況ならオレが取るべきやり方は唯一つ、正面からヤツの攻撃を受け止めにいく。
但し何も考えないで挑むわけじゃない。今のヤツを相手にするなら……。
おっと、武器の交換が終わり、すぐに4回目の突撃開始となった。
オレもヤツもスタートダッシュは鈍くなってしまったがそれでもヤツはまだまだ十分速い。
その表情は相手を突き殺さんばかりの恐ろしい顔つきのままだ。ここで一気に決めにくるつもりに違いない。
オレは注意深くヤツの右手を見続ける。そして間合いに入ろうとした瞬間、僅かだが槍を突くための予備動作が見えたのだ。
冷静さを欠いて決めにかかった今のヤツなら余計な力が入ってしまう、読み通りの状況にオレは槍先を突いてくる瞬間を待つ。
突きと同時に盾で跳ね返しにかかる! 何とか返したがまだ威力があるのでオレの身体も浮かされる。
でもヤツもバランスを崩し隙だらけだ。このチャンスを逃したら同じ手は通用しないだろうからオレは必死に堪えて身体を揺り戻した。
そして全力を込めた一撃をヤツの盾にお見舞いしたあとは馬の背にしがみついて端まで走り抜いたのだ。
そこでやっと振り返るとヤツはまだ落ちるのを堪えながら端まで行こうとしていたのだが――、鎧の重量に負けたのか鞍からずり落ちる形で落馬してしまったのだった。
「そこまで! この試合の勝利者はタツロウ・タカツキー!」
ワグナー先生によりオレの勝利宣言が出されたのだ。
ようやく終わった。遂にマクシミリアンに勝つことが出来たのだ!
競技場全体は予想外、そしてあってはならない結果に怒号のような悲鳴のような憤りと落胆が混ぜ合わさった声で埋め尽くされ収拾がつかない状態となってしまった。
その中でオレは嬉しさの余り涙を浮かべてしまうほどの喜びに浸っていた。前世でもこの世界でも人生でこれほど迄に特定の相手に勝利を渇望したことはなかったのだ。
呆然と座り込むマクシミリアンの姿が目に映ったが、あえて近づいたり健闘を称えるといった行為は控えた。
ヤツの心情を思うと下手な慰めは返って屈辱を倍にしかねない。オレはそう判断してそっとしておくことにしたのだ。
決勝が始まるまで少し休憩が入るため、まだ騒然とした雰囲気の中で引き上げていく途中でフェルディナントが兄の元へ走っていく姿が目に入った。
あとはあいつに任せておこう、そう切り替えて歩きながら決勝のことを考え始めたのだった。




