46.トーナメント(男子)その3
オレは昨日いろいろ考えたことを思い出しながらあーでもないこーでもないとシュミレーションしていく。
この休憩時間中にある程度はどういう戦略でマクシミリアンに挑むのか考えをまとめておかないと。
「まさかキミが本当にこの場所まで来るとはね。マグレでもここまで続くのはすごいことだよ。でも、ボクにはキミがこれまでやった小細工は一切通用しないけどね、ハッハッハ」
唐突に背後からマクシミリアンが話しかけてきた。相変わらずイヤミ全開のセリフだが、反応している余裕はない。
「そうだな、お前の言う通りかもしれん。だから懸命に食らいついていくだけさ」
後ろを振り返らずに返すと、ヤツは捨て台詞を吐いてどこかへ行ってしまった。
「どうしたんだい、いつもみたいに返してこないのかい。これじゃあ、からかい甲斐がないじゃないか」
この野郎、やっぱりずっとからかってやがったんだな! でも今はそれどころじゃないんだよ。
続けざまに今度はフェルディナントが話しかけてきた。今はそっとしておいてほしいんだけどな。
「タツロウ君、キミは本当にすごいよ。木刀でここまで勝ち上がってくるだけでも大変なのに、2回戦も3回戦も強い相手を撃破してきてるんだから」
「え、3回戦の男爵ってそんなに強かったのか? 悪いけどそこまで思わなかったんだけど」
思わず聞き返してしまった。割と楽勝の部類に入ると思ってたんだけど違うのか?
「うん、馬術の授業を受けているぼくらの中でも乗馬技術は高いと評判の人だよ。まあ攻撃力は2回戦の人には及ばないけどね」
そうだったんだな。確かに最初の2連撃を普通に耐えてたし技術は高いのだろう。
2回戦のアンドレアスの攻撃がどれも苛烈なものだったから感覚がマヒしちゃってたのかもしれん。
フェルディナントが続けて言う。
「兄さんはあんなこと言ってたけど、キミのことはマグレじゃなくて本当に実力で勝ってきたと思ってるんじゃないかな。だから対戦前にからかって冷静さを無くさせようとしたのかも」
あれだけの実力を持ってるのになんだかセコいやり方だな。まあヤツの本命はヴィルヘルムとの再戦だろうから消耗を避ける戦術なのかもしれんが。
「それよりもお前の方が大変じゃないか。次の対戦相手はヴィルヘルムだろう」
「そうだね。でもぼくだってそれなりに戦略を立てて挑むし、もちろん勝つつもりでいるよ。ぼくの目標は兄弟で決勝を戦うことだからね」
ここであっと言いそうになったのを堪えたような表情でフェルディナントはセリフを続ける。
「いや、タツロウ君が負けることを織り込み済みってわけじゃないよ。あくまでぼくの夢の話さ」
「いいよ、そりゃ兄弟の勝利を願うのは当たり前なんだし。ただオレも簡単にはやられるつもりはない、というかお前には悪いけど勝つつもりだ」
オレたちはお互いの健闘を祈りつつ別れた。ここからは戦闘モードに入って集中あるのみだ。
交代で割り当てられた馬を受け取り、競技場へ戻ると大歓声が迎えてくれた。
だが聞こえてくるのはマクシミリアンとフェルディナントの名前のみ。やっぱり今回も完全アウエーの雰囲気で戦わないといけないのか。
ここで自分の馬の蹄の音も聞こえなくなるほどに更に歓声が大きくなった。
ヴィルヘルムの登場だ。ほぼ全身を覆う鎧を身に着けており、煌びやかなデザインが兜や胴体に施されている。おそらく家の紋章も入っているのだろう。
爵位持ち連中はみんな下級貴族が借りている鎧に比べて派手なものばかりだが、豪華さはヴィルヘルムが一番だ。
歓声がようやく静まる頃に準決勝開始が宣言された。
まずはヴィルヘルムとフェルディナントの対戦だ。純粋にどんな戦いになるのか気になってしょうがない。
2人とも突撃位置で構える。ヴィルヘルムは水平気味に、フェルディナントは左斜め前に槍を向けている。
合図とともにお互い突撃開始したがそれぞれ特徴がある走行だ。
ヴィルヘルムはスロースタートだが徐々に加速度が増していく重量感のある突進だ。
対するフェルディナントはそこそこのスタートダッシュでずっと同じ速度をキープしている。
ヴィルヘルムの加速が増すごとに加速度的に2人の距離が縮んでいくので間合いを見切るのが難しい。
そんな状況でもヴィルヘルムが間合いを見切って先に仕掛けてきた。予備動作があまり見えない強烈な突きを繰り出してきたのだ!
馬の加速度も相まって槍先が伸びるかのような勢いのある突きがフェルディナントの盾を捉え、大きくよろめかせた。
勝負あったか? と思ったがほんの少し遅れてヴィルヘルムもグラついた。
いつの間にかフェルディナントの槍先がヴィルヘルムの盾を捉えていたのだ。
ガシーン! とお互いの盾が金属音を響かせるとそのまますれ違いどちらも端まで到達した。
2人はターンして構え直すが、フェルディナントの表情には焦りの色は見えない。
一体何が起きたんだ? 状況からするとフェルディナントはカウンター攻撃をしたようだ。
最初から相手に槍先を向けておいて、相手が撃ってきたところを最速で打ち返す。
自分の攻撃の威力は落ちるが、その代わりに相手が自分の盾に当ててもそこから押し込みきれないようにしたんだろう。
それを繰り返してヴィルヘルムに隙ができカウンターが決まるのを待つという戦略じゃないかな。
言うは簡単だがこれを実行できるフェルディナントの実力も相当なものだ。
次も同じように突進していく2人だが今度もヴィルヘルムが先手を取る。
槍をまるで弾丸のような速さで突いてきたのだ!
が、槍はフェルディナントの盾の手前でビタッと止まりすぐに引き戻される。
反射的に防御しつつ突き返したフェルディナントの槍は威力不足でヴィルヘルムに盾で受け流されてしまった。
バランスを崩したところに再度ヴィルヘルムの強烈な突きが入り、フェルディナントはどうすることもできずに落馬したのだった。
あんなに強烈な突きでフェイントされたら引っかかるなと言っても反射的に反応してしまう。
乗馬技術も含めてヴィルヘルムが1枚も2枚も上手だった。
フェルディナントが戻って来たところでオレは声をかけた。
「残念だったな。相手が悪かったとしか言えん」
「そうだね、完敗だよ。でもあんなフェイント使ってくるなんて集めた情報にはなかったんだけどね。だから対策も何も考えてなかったよ」
どこから情報を仕入れているのか知らんが今まで実戦で使ったことがないワザを使わせたならそれもすごいことだ。
でも慰めにしかならないのであえて言わないでおこう。
それに人のことより自分のことまず考えないと。いよいよオレとマクシミリアンの対戦が始まるのだから。
馬に跨り突撃開始位置まで行こうとするとマクシミリアンが寄ってきて真剣な面持ちで呟いた。
「ボクはこんなところで立ち止まるわけにはいかないんだ。この試合さっさと勝たせてもらうよ」
一瞬ゾッとするようなプレッシャーを感じたが、こちらもハイそうですかと負けるわけにはいかない。
開始位置に着いて構える。もう一度やるべきことを頭の中で確認し、あとは合図を待つのみだ。




