45.トーナメント(男子)その2
爵位持ち5人は入場すると観客席の前を歩いて歓声に応えていた。オレの存在などは完全に無視されている。
でも今は自分と馬の疲労を少しでも回復するほうが先決だ。なのでこの状況はむしろありがたい。
そして突撃位置付近に奴らが戻って来ると3回戦の試合順が発表された。
1試合目にフェルディナント、2試合目にオレ、3試合目はマクシミリアンの名が呼ばれた。
もうしばらくは休憩できそうだ。ホッとしたというのが正直なところだがここは平静を装っておこう。
1試合目の準備が整い、まずはフェルディナントの登場だ。あいつがどんな試合をするのか見るのが楽しみだ。
合図とともに突撃が始まりフェルディナントは少し様子を見ながらのスタートだ。
お互いに間合いに入ったところで槍を突いていくが全力ではなく防御も考えてのジャブの打ち合いといった感じだ。
まあこれが通常のセオリー通りの戦い方だよな。
アンドレアスのように攻撃力で圧倒する戦い方はリスクを伴うので、よほど運動能力に自信がなければ難しい。
相手とすれ違ってから端でターンして構えるフェルディナントだが、先ほどとは表情が違う。
なんというか、すでに勝算ありといった自信に満ちた顔つきだ。
そして2回目の突撃が始まったが、相手が槍先に魔力を集中しようとした瞬間に待ってましたとばかりに突進速度を上げて攻撃態勢に入った。
相手は慌てて魔法を出そうとしたが、間合いに入りフェルディナントが躊躇なく全力で槍を突いていくと、相手は盾の中心を捉えられて呆気なく落馬と相成った。
論理的というか、クレバーな勝ち方だった。恐らく1回打ち合った際に相手の能力やクセなどのデータを頭に入れて出方を読み切ったのだろう。
派手さはないがやはりマクシミリアンの弟だけあって、かなりの実力を持っている。
おっと、人のこと気にかけてる場合じゃない、2試合目が始まる。オレは急いで乗馬して突撃位置に向かう。
途中で対戦相手と並んで歩いていると向こうから自己紹介してきた。
「やあ、僕はヨスト、エールリヒ男爵家長男で2年生だ」
「どうも、タツロウ・タカツキー、ドラゴベルク領出身の平貴族です」
「君、下級貴族の割にはやるじゃないか。さっきはなかなか見事な戦いぶりだったぞ」
「ありがとうございます」
言葉の端には見下し感があるが、悪気はないのだろう。ここは相手を立てておくとしよう。
「僕は家名に恥じないような戦い方をするつもりだ。君も全力でかかってくるがいい、胸を貸してやろう」
「はあ、それではよろしくお願いします」
突撃位置に着き合図とともに突進していくが、全力ではなく様子見しながらだ。
相手も同じように突進してくる。今のところ魔法を撃つ様子は無さそうなのでこのまま間合いに入り打ち合ってみることになりそうだ。
相手の槍が先にこちらの盾を捉えたが微妙に速度を落としつつ防御に全力を振っていたのでグラつきはしたが余裕で耐えられた。
逆にこちらの間合いに入って木刀で2連撃してみたが向こうも防御重視で少しバランスを崩した程度で耐えられてしまった。
端でターンしつつ2回目の戦略だが……そもそも相手は全てにオーソドックスというか、はっきり言えばアンドレアスに比べてスピードもパワーもまるで感じない。
様子見だったことを差し引いても次に強力な攻撃を受けるイメージが沸かないのだ。
まだ2回戦の疲れが完全に回復していないから長引かせたくないし、悪いけどこの辺で決めさせてもらう。
突撃開始とともに全力に近い速度で突進していく。相手も同じく突進してきて槍で勝負を決めようとしているようだ。
やはり男爵家が下級貴族相手に魔法攻撃などプライドが許さないのだろう。
オレもここは敬意を払い木刀での攻撃で倒しに行く。
相手が先に全力で槍を突いてきたが予備動作も含めて速くないので見切りやすい。
余裕をもって盾で受け止め左腕で振り払うように受け流し、間合いに入ると全力で突きを入れて落馬させた。
すると観客席からは歓声ではなく悲鳴交じりのどよめきが起きた。
爵位家が下級貴族にあっさり敗れたのだから今日の観客の構成だとこうなるよな。
さすがにオレも完全にアウエー感満載の状態であまり気持ちのいいものではない。
それはともかくまだ倒れたままの相手を起こしに行く。
「大丈夫ですか? さあオレの手に掴まって」
バシッ!
手が振り払われてしまった。
「一人で立ち上がれる。下級貴族の助けなど借りぬ」
さらに気まずい雰囲気となってしまった。もうここはとっとと退散しよう。
次の3試合目はマクシミリアンの登場で大歓声だ。やはり弟と同じような戦い方をするのだろうか、じっくり見ておきたい。
合図とともに突撃を開始したマクシミリアンだが、スタートダッシュが速い!
でも全力ではなくまだ余裕がありそうだ。悔しいがヤツはこれまで見た奴らの中でも乗馬技術が飛び抜けて上手い。
みるみるうちに互いの距離が詰まってきて相手は慌てて攻撃の準備を始めた……が遅かった。
間合いに入るかどうかというところでマクシミリアンのキレのいい槍攻撃が相手の盾の中心に見事決まった。
相手は何もやらせてもらえずに落馬し敗れ去った。圧倒的な力の差だった。
それにしてもヤツの槍攻撃は凄かった。攻撃前の予備動作が全くと言っていい程見えなかったのだ。
それなのに速くて威力がありコントロールまで正確なんだからとんでもない。
次は念願のヤツとの対戦なのに、今になって震えを感じるほど怖くなってきた。こんなヤツ相手に勝てるんだろうか?
準決勝の前に馬を交代するための休憩が入ったのでクラブハウスへ向かう。
その道でどうやったら勝てるか考えまくったがいい案が出てこない。弱ったな。
3回戦まで共に戦った馬に再度お礼を言って別れた。次の馬を受け取るまでの間に乾いた喉を水で潤し、一旦頭の中をリセットしようとオレは必死に努めたのだった。




