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名ばかり皇帝の跡継ぎに転生させられたけど、オレはこのまま終わるつもりはない  作者: ウエス 端
馬術競技大会編

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44.トーナメント(男子)その1

 さあて、待ちに待った男子のトーナメントがいよいよ開始される。


 まずはクラブハウスの更衣室で装備を装着する。これが結構大変なのだ。


 乗馬服とブーツを脱いでから鎧下の厚手の布服上下を着てフードをかぶる。


 この上に鎧を着けねばならない。胸甲及び首元から左胸の防御強化の追加プレート、肩当てとフルフェイスの兜に脛当ても必要だ。


 最後に手袋と上腕部分の腕当てを着けて左腕に盾を結びつければ完成だ。


 これでも動けないことはないが馬を用意してくれているので遠慮なく乗馬して競技場内に入る。


 予選突破の4人が連なって入ると観客席から歓声が上がった。うちのクラスメイトもさすがに今日は応援に力を入れてくれている。


 そうだ、張り出されてるトーナメント表を確認しておかないと。


 パターンは女子と全く同じで3回戦から爵位持ちたちが出てくるのだが、そこからどういう組み合わせになっているかが重要だ。


 オレが勝ち上がると3回戦は……全然知らない男爵家の奴だ。どうせならここでマクシミリアンと当たりたかったけど。


 準決勝では……よし、ヴィルヘルムは反対側の山から出てくるので決勝まで当たらない。


 これは本当に心底ほっとした。マクシミリアンと当たる前には絶対対戦したくなかったのだ。


 ちなみにヴィルヘルムと準決勝に当たる山にはフェルディナントが入っている。そういやアイツの技量はどれぐらいかちゃんと見たことないが、兄と同レベルだと面白いことになりそうだ。


 従ってオレとマクシミリアンが対戦することが出来るのは準決勝であることが確定した。


 確定と言っても勝ち上がればの話、まずは目の前の試合を勝たねばならない。


「まず予選1位と4位で、次は2位と3位で対戦します。突撃位置に着く用意をしてください」


 ワグナー先生の案内に従ってアンドレアスと2年生の男がそれぞれ突撃位置についた。果たしてどんな戦いぶりを見せてくれるのかお手並み拝見といくか。


 スタートの合図とともにアンドレアスが猛然と突撃してきた。対する2年生は少し様子を見ながら、すでに魔力を槍先に集中させながら駆け始めた。


 そして間合いに入る手前で水属性の魔法を発動し、アンドレアスの前方に濃い霧を発生させた。


 ただでさえ兜をかぶっているせいで視界が悪いのにこれはキツい。2年生はアンドレアスが突進速度を落として霧の中から出てきたところを槍で狙い撃ちするつもりだ。


 だが出てきたのは勢いよく突き出された槍と霧をものともせず突進するアンドレアスだった!


 不意をつかれた2年生はまともに槍を突けず、逆にアンドレアスはそのまま相手の盾を捉えて馬上から突き落としてしまった。


 この対戦は結局アンドレアスの圧勝で終わった。


 しかし視界が最悪だったのにどうやって相手の盾の位置が分かったんだろうか。それとも何も考えずに突進し続けて反射神経だけで攻撃を当てたのか。


 いずれにしてもかなり手強い相手だということだけはハッキリした。


 次はオレの順番だ。


 対戦相手は予選で2位の3年生だ。オレが木刀を持ってるのをジロッと見たあとに向こうから話しかけてきた。


「よぉ、お前しばらく前に決闘してたタツロウなんだろ? おれは見てないけど1年坊同士のじゃれ合いで勝ったからってチョーシこいてんじゃねぇぞ」


「そりゃご忠告どうも先輩。そっちこそ油断してると足元掬われますよ」


「テメェ、生意気言ってくれるじゃねぇか。先輩として教育的指導してやらんとなぁ!」


 オレの武器が木刀なのは自分をナメてるとでも受け取ったのか、いきなり威嚇してマウント取ろうとかいかにもなヤツだな。オレは槍を使ったことないから仕方なくだというのに。


 そうだ、決闘を見てないならアレを使おうかな。


 お互い突撃開始位置について……合図で猛烈に突進!


 いやそうしたのは3年生だけでオレはそこそこのスピードで駆けていく。


 オレは木刀の刀身に魔法で風を纏わせ、思いっ切り左斜め前に振り下ろした……が間合いに入る前だったので空振ってしまった。


「バカかコイツ、間合いも見切れんのか。火でも食らえや!」


 3年生は魔法で炎を出してきた!


 しかしオレの空振りから遅れて乱気流が発生してヤツは自分が出した炎をもろ被りしてしまったのだ。


「アチアチアチ、アヂーッ!」


 混乱してるところを落ち着いて盾を突いて落馬させた。思ったより簡単に引っ掛かってくれて呆気ない勝負となった。


 少し間を置いて引き続き2回戦開始だ。


 位置につく前にアンドレアスと並んで歩いているとまたもや向こうから話しかけてきた。


「さっきのアレ、ヒューゴがよく使ってたワザだったな。やっぱりアイツのことよく知ってるじゃないか」


「あれは便利なワザだから使っただけでそんなんじゃない。お前こそあの視界でよく攻撃を当てられたな」


「霧の中で僅かだが光るものが見えたんだ。たぶん太陽の光が相手の盾に反射したものだろうけどそこを目掛けて攻撃しにいった」


 そんなの見えたなんて視力2.0以上は間違いないな。身体能力が半端なさそうだ。


「ところでお前にいい忘れてたことがある」


「何だよ」


「俺は今でもお前がアイツに勝ったことが信じられない。アイツが本来の力を出せてなかったんじゃないかってな」


「今頃になって言いがかりかよ」


「そうじゃない。今日実際に戦ってみればお前のことがわかるんじゃないかと楽しみなんだ」


 それっていわゆる『拳と拳で語り合う』ってやつですかね。オレはそういうのは興味無いからそっちが一方的に語るだけになるかもよ。


 双方突撃開始位置に着いてあとは合図を待つだけだ。さて、かなりの難敵だがどうやって戦おうかな……。


 考えてるうちに合図がなってしまった。アンドレアスは今回も猛然と突進してくる。槍先はすでにオレの盾を捉えているかの如くこちらを向いている。


 オレは駆け出してすぐに木刀を斜め上段に構えた。1回戦と同じ戦法を取る……というわけではなく、何かやってくるのかと揺さぶりをかけたいのだ。


 振り上げた瞬間、アンドレアスの身体がビクッと反応したように見えたが突進の速度は変わらない。


 もうすぐ間合いに入ってくる。ギリギリまで木刀を振り上げていたがさすがに降ろして構えると、アンドレアスが槍を突く予備動作に入ったのが見えた。


 オレは速度を上げた。こうなったら相手の攻撃ポイントをずらして間合いの中に入るしかない。


 ヤツの鋭い突きがオレの盾目掛けてくる!


 左脇を締めて攻撃を受け止めると金属音を響かせてヤツの槍先は後ろに流れていったが、同時に身体に強い衝撃を受けてかなりよろめいた。


 ヤバい! しかし何とか堪えて更に速度を上げてすれ違った。


 続けて攻撃を受けたらとてももたないので攻撃するのは諦めた。観客席からはブーイングのような音が多数聞こえてきたがどうしようもない。


 端まで行くとターンして2回目の突撃だ。


 でもどうしようかな、全然打開策が思いつかない。とにかくシンプルにヤツのスピードとパワーが強力なのだ。


 次はさすがに攻撃しないで通り過ぎるわけにもいかない。こういう競技は騎士としての名誉と誇りが重んじられるので逃げてばかりだとペナルティを受ける恐れもある。


 それでもあれしかないと思いつつ突撃を開始してもう一度木刀を振り上げた。


 今度はヤツの身体はピクリとも反応しないで猛然と突進してくる。小細工は不要とばかりに仕留めにきたという感じだ。


 もうすぐヤツの間合いに入る、というところでオレは木刀を左斜め前に強く振り下ろした。


 当然空振りである。風も纏わせていないので乱気流は起こらない。


 ヤツはオレの動作をコケおどしと判断したのか躊躇なく槍を凄い勢いで突いてきて盾の中心を捉えてきた。


 よし、読みどおりの動きだ。オレは木刀の刃先を上に返して即座に振り上げた。


 ガシィッ! と木が衝突する音とともにヤツの槍をオレの木刀が跳ね上げた。ギリギリ盾を突かれる前に間に合った。


 馬上で片手なので跳ね上げたといっても攻撃を逸らしただけだが予想外のやり方に驚いたのかヤツの動きが止まってる。


 これは千載一遇のチャンス! 続けてヤツの盾を突きにいったが木刀が折れてしまいグラつかせただけで終わった。


 端まで行くとヤツも柄にヒビが入っていたのかお互い武器を交換する間が入った。


 さっきの攻撃が決まらなかったのは正直キツい。ヤツに同じ手は通じないだろう。


 あとここまでヤツは魔法を使っていない。次は使ってくるのかそれとも力押しでくるのか……予想が難しいな。


 そして3回目の突撃が始まった。今度は木刀を下に構えて突進していく。


 ヤツはこれまで通り猛然と突進してくる。槍先には魔力を集中している様子はない。


 もうすぐ間合いに入るところでオレは左手を手綱から離して手のひらをヤツに向けた。


 既に魔力は溜まってる。盾で隠していたのだ……と、ヤツも同じことをしているじゃないか!


 くそ、だがとにかく撃つしかない。風圧魔法をヤツ目掛けて撃つとヤツも水鉄砲の如く水属性魔法を撃ってきた。


 バッシャーン! と互いの魔法がぶつかると水蒸気が発生して霧が発生し視界が悪くなった。


 このパターンはヤバい、ヤツの方が有利だ。こちらの盾の僅かな反射光でも見逃さずに攻撃してくる……それを利用するか。


 注意深くヤツの居そうな方角を見てると何となく小さい影が見えてきた。槍先が高速で突かれてきた!


 オレは左手を離したままで盾の位置を固定していた。攻撃を誘導することに成功したのだ。


 両の脚を馬の胴に強く締め付け、槍先を流すようにして左手を振って勢いを削ぎなんとか耐えきった。


 木刀を持ったまま手綱を握っていた右手を離し、間合いに入って見えてきた盾を思いっ切り突くと既に重心を崩していたヤツはたまらず落馬した。


 オレもバランスを崩し危なかったが、木刀を捨てて馬の背に右手を置くことでなんとか端まで乗ったままたどり着くことができたのだ。


「そこまで! 勝者はタツロウ・タカツキー!」


 ワグナー先生の裁定が下り、オレの勝利が確定した。ほんっとうに苦しい試合だった。


 観客席の反応は大きくはないが、ウチのクラスの連中は大盛り上がりだ。力を入れて応援してくれてるのはやはり嬉しいものだ。


「完敗だ。アイツがお前に負けたのは実力だったと認めざるを得ない、良い戦いぶりだったよ」


 アンドレアスが声を掛けてきた。まあわかってくれればいいってことよ。


「約束通りもうアイツのことをお前に聞いたりしない。これで吹っ切ることにするさ」


 そっか、でもそんなに潔くされるとなんか悪い気もするなあ。


 オレは馬を撫でて頑張ってくれたお礼を言いながら独り言を呟いた。


「ヒューゴは実家の経済状況が悪化して学校に居られなくなりそうだったから苛ついていた」


 そこでフウと溜め息をつきながら続ける。


「そこに同じ領地出身のオレが転入してきて学校に居られるのは不公平だって、八つ当たりでオレに絡んできた。本当に迷惑なヤツだったなー」


 アンドレアスは神妙に聞いていたが納得した表情でオレに言った。


「ありがとう、それだけ聞けば十分だ。いろんなことが何となく理解できたよ」


 全ての事情を話してはいないが、アンドレアスに必要な情報だけまとめられたと思う。


 ここで観客席からワッと大きな歓声が上がった。ヴィルヘルム以外の爵位持ち連中が入場してきたのだ。


 3回戦はほとんど休憩無しで臨まなければならない。オレは馬の疲れが少しでも回復するように願いを込めて撫で続けた。

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