43.トーナメント(女子)
トーナメント開幕宣言の後、女子選手たちは一旦クラブハウスに戻って準備に取り掛かった。今日は女子側が先に実施されるのだ。
装着する装備が多くて時間がかかるのでその間に場内の準備も行われている。
対戦者が突撃し合う試合場に柵が設置され始めた。一定の間隔で地面に立てられた杭をロープで繋いだもので全長30メートル弱といったところか。
この競技は向かい合わせの2名が長く真っ直ぐな柵の左右に沿ってすれ違うように突撃するのだ。
この距離で互いがすれ違い打ち合うまで数秒程度しかないので的確に相手の盾か左胸を武器で突いて落馬させるのは簡単ではない。
あとは本日のトーナメント表が張り出されたのだが、なかなかあからさまな爵位持ち優遇の組み合わせになってる。
まず下級貴族の予選突破4名で1、2回戦を行い、残った1名とシードされた爵位持ち5名による3回戦となる。
さらに残った3名とスーパーシードされている辺境伯家の令嬢マグダレナを加えた4名で準決勝なのだ。
下級貴族が優勝するには5回勝たねばならず、つまりは最初からそういうつもりなのだろう。
男子も恐らく同じパターンだからオレがマクシミリアンに相対するには最低2回は勝たねばならない。
あとは組み合わせ次第だが、できれば準決勝までには当たってほしい。先にヴィルヘルムと当たらないように祈っておこう。
そんなことを考えてるうちに柵の設置が完了し、選手たちが馬に乗って場内に入ってきた。
全員胸甲、つまり袖の無い胴体部分だけの鎧の上に首元から左胸を強固にカバーするためのプレートも追加装着している。
盾は凪型で左腕に結び付けられているので左腕で手綱を操作できる。
あと頭部は兜で完全に覆われている。今のところは目と頬を覆う部分は頭上に跳ね上げて視界を保っているが対戦時はそれを下げるので視界がかなり悪くなってしまうのだ。
刃先のついていない武器とはいえケガの無いように十分な装備になってるのだが、金属製のものばかりで相当な重量だろうな。あれで歩いてくるのは大変なので馬に乗って登場ということだろう。
ちなみに馬も頭部に保護プレートが装着されており、更に首と胸部に布製のカバーが掛けられて安全に配慮されている。
いよいよ女子のトーナメントが開始される。まずはサンドラが予選3位の選手と対戦だ。
お互いに突撃開始の位置について待っているのだが、相手は槍を持っているのに対してサンドラは木刀だ。
この競技は正面からの突撃なので基本的にリーチが長い槍の方が有利だ。
木刀も通常のものよりは長いが、槍は2メートル以上あるのでサンドラは相手の攻撃をかわして間合いの中に入り込まないといけないのだ。
ただ槍も柄は木製だがそれでも長く重いので取り回しがしづらく、至近距離では木刀が有利になる。
果たしてサンドラはどのような戦い方を見せてくれるのだろうか。
ここでシャイナー先生がそれぞれの名前を観客に紹介すると拍手と歓声が起こり場が盛り上がってきた。
そして合図とともにお互い相手の方に向かって突撃していく。
ガシッ!
決着は一瞬だった。サンドラの勢いある突進からの木刀での一突きで相手があっさり落馬したのだ。
相手の方が槍でリーチが長いが、サンドラのスピードについていけずに突きが空振りして盾に触れられず、魔法を使う余裕も与えられなかった。
オレはとんでもないヤツと友人なのかもしれない。彼女が戻ってきて兜を脱いだところで勝利を祝う言葉をかけた。
「余裕の勝利だったなサンドラ。お前なら優勝できるんじゃないか?」
「うん、まあいけちゃうかもね。でもさっきのは相手が弱すぎて参考にならないわよ」
なかなか言ってくれるじゃないの。
で、次はマチルダの番で相手は予選4位。さすがに瞬殺が続いたりはしないだろうが、どんな技を見せてくれるのだろうか。
合図でお互いに突撃、と言いたいがマチルデは小脇に槍を抱えてゆっくり加速しながら突進していく。
互いに近づいて来てそろそろ間合いに入ると思ったら相手はドンと落馬していた。
お互いに槍を使用していたが、マチルデは先に間合いを見切って的確に相手の盾に槍を突き当てて重心を崩したのだ。
またもや魔法を使う間もなく決着がついてしまった。
次の2回戦で対戦する2人の圧倒的なパフォーマンスに場内はどよめいていた。
本当にこの2人のどちらかが爵位持ち連中まで蹴散らして優勝してしまうんじゃないか? そう思わせるくらいにお互い素晴らしい技量だ。
でも残念なことにどちらかは2回戦で敗退する。そしてどちらもこの対戦は負けられないのだ。
2人はマルコとの関係を巡ってこの大会で成績が劣る方が手を引くという賭けをしているのだ。
当のマルコはどう思っているのか、どうするつもりなのかは知らないが、2人の間ではこれで決着がついてしまうのだ。
少し間を置いてから2回戦開始のアナウンスがされた。サンドラとマチルデ2人が並んで突撃開始位置に向かっているが、何か話しているのかまではわからない。
◇
「賭けの約束、忘れていないでしょうね、サンドラ」
「言ったでしょう、あたしはマルコのことなんてどうでもいいって。でもアンタが負けてマルコから離れていくのは勝手だけどね」
「……私に勝つ前提で喋らないでちょうだい。大体そんな短い武器ではザコの相手以外には勝てなくてよ」
「あたしはそれを補うスピードと反射神経があるのよ。アンタこそあんなトロい動きじゃ話にならないわよ」
「今の発言はあらかじめ負け惜しみを言っていたと受け取っておきますわ」
◇
どちらも所定の位置についてそれぞれ盾の向きを微調整して武器を構える。あとは合図を待つだけだ。
そして合図とともにサンドラが飛び出すように猛烈に突撃してきた。マチルデは速度を抑え気味にして相手の様子を伺いながら進んでいく。
お互いの距離が縮まっていき先に間合いを見切ったマチルデが槍で突いていった!
が、サンドラのスピードを捉えきれずに相手の盾を掠っただけで鈍い金属音が響いた。
今度はサンドラが体勢を少し崩しながらもマチルデの間合いの中に入ってきて盾をめがけて木刀で突きを繰り出してきた。
が、この攻撃も体勢が悪い上にマチルデが速度を上げてすれ違ったためクリーンヒットせずまたもや金属音が響いただけに終わった。
両者とも端まで走ったあと直ぐに180度ターンして再度突進をかけてくる。
今度はよく見るとサンドラが剣先に魔力を集中している。1試合につき1回しか使用できない魔法をここで使うというのか。
だがマチルデは間合いに入ると構わず槍で突いてきた。この距離間だと下手に魔法を撃って隙を作るよりも馬の突進と武器による攻撃のほうが確実に速い。
槍がサンドラの盾を捉えようとしたその時、タイミングを計っていたのか偶然か、サンドラの火属性魔法が発動して炎が槍の下から吹き上げて押し上げてしまった!
槍は空振りしマチルデは隙だらけとなり、すれ違いで真横になる瞬間にサンドラが突きを相手の盾に向かって繰り出してきた。
しかしマチルデは何とか土属性魔法で地面の土を巻き上げて壁のようにすることでサンドラの攻撃を防いだのだ。
もう一度端でターンし攻撃準備に入る両者だが、既に肩で息をし始めている。あの鎧装備だと重いし暑いので何度も突撃するのはキツいだろうな。
ここで両者の武器が交換された。互いの魔法攻撃でどちらも折れてしまっていたのだ。
その間に少し息を整えてから位置に付き、3度目の突撃が始まった。
どちらも魔法は使用できないので正面からの攻撃となるが、やはり槍でリーチの長いマチルデが有利なのか。
いよいよ間合いに入ってきた。先にマチルデの突きがサンドラの左胸に入ってしまった!
……と思ったがサンドラは左手から手綱を離して左首元のプレートと左腕の盾で巧みに槍先を挟みこんでマチルデの方を向きながら槍先を外したのだ。
何という強引な防御方法だろうか! それにサンドラのバランス感覚がすごい、あれで落馬しないとは。
逆にバランスを崩したマチルデの盾をサンドラの木刀が捉えてマチルデを落馬させたのだ。
ようやくこれで決着だ!
……と思ったが、サンドラも両手を手綱から離して無理な体勢で攻撃したせいか、自分の攻撃の反動を吸収しきれずに背中から落ちてしまった。
両者落馬である。時間差はあったがこの場合の勝敗はどうなるのか……。
「大会ルールにより、両者が落馬した時間差は関係なく、端まで乗馬したまま辿り着けなければ同時に落馬したと見做されます。従って両者共に敗退となります」
シャイナー先生により裁定が下されてしまった。あの熱戦がまさかのダブルK.O.という結末で終わってしまったのだ。
そして2人ともこれでトーナメントは終了なのでまたもや決着は持ち越しとなったのだ。
観客席からは生徒たちのざわめきは起こったが、全体的には大きな反応は無かった。
残念だがやはり今日も下級貴族同士の対戦はあくまで前座扱いなのだろう。
2人はこの結果に悔しさを隠しきれない様子だがルール通りの裁定なのでさすがにどうしようもない。
後で2人に慰めの言葉を掛けに行くか……いや下手に声を掛けないほうがいいのか、どうしようかな。
まあ、これで一番喜んでるのはマルコかな。観客席のどこかでほっとしていることだろう。
女子のトーナメントは結局マグダレナの2連覇という結末で終わった。
そういえばマグダレナは2年生と紹介されていたな。ヴィルヘルムとは同格とはいえタメ口だったし迫力ある……いや貫禄のある振る舞いだったのでてっきり3年生だと思っていた。
マグダレナが多くの取り巻きに祝福されている様子はまるで全国大会で優勝したかのようなはしゃぎっぷりだ。そこにクリスも参加しているのが見えたが、クラス以外にも居場所ができたみたいだな。
こうしてトーナメントの前半は無事終了した。
しばしの休憩のあとに男子が始まる。オレも準備するためにすぐクラブハウスに戻らなくちゃな。




