42.大会2日目
大会2日目の朝が来た。今日は午前中から2人ずつ馬上で対戦する勝ち上がり戦の『トーナメント』が開催される。
戦い方とかいろいろ考えていたので寝不足気味だが疲れはもう感じない。むしろ早く始まらないかとウズウズしてる状態だ。
しかしまずは朝の礼拝に出るために登校しなければならないのでいつも通りに教室に入ると、クラスメイトたちが一斉にこちらへ顔を向けた。
「タツロウ凄えじゃん3位に入るなんてよ」
「おれたちは最初からお前ならやってくれると信じてたぞ!」
「『今日も』おれたちは目一杯応援するからな、こうなったら目指すは優勝だ!」
えぇ〜、昨日の観客席のお前らからは、そんな熱量の応援を受けた覚えはないけどな。もしかしてアレか、結果出したからって手のひらクルクルーって回すやつか。
でもまあいいや、勝ち上がってマクシミリアンと対戦することになったら応援がオレに力を与えてくれるだろう。だから今日はよろしく頼むよ。
と、ここでサンドラが教室に入ってきた。するとみんなはオレのことはそっちのけでサンドラの方に注目を集めたのだ。
「昨日は凄くいい演技だったよサンドラ!」
「流石よね、実力通りの結果出すなんて」
「1位取ったんだから3位のタツロウなんて目じゃないよな!」
もういいわコイツら。
それはともかくとして、いつもの席に着くとマルコから祝いの言葉をもらった。そういえばしばらく忙しくてあまり会話してなかったな。
「予選突破おめでとう。あとはマクシミリアン先輩だっけ? 雪辱したいって言ってたのは」
「そうだよ。アイツには今まで何も勝ててないからさ。今度は勝ってギャフンと言わせたい」
「そっか……でもかなり難しそうだよ。去年の男子決勝はヴィルヘルム先輩と1年ながら圧倒的な戦いぶりで勝ち上がったマクシミリアン先輩との対戦で接戦だったらしい」
今年3連覇を狙うヴィルヘルムと接戦とは、やっぱアイツ凄えんだな……。
でもあとに引くわけにはいかないしオレだってノープランで臨むわけじゃない。対戦したら全力で挑んでいくだけだよ。
礼拝が終わるとすぐに競技場へ向かいクラブハウスで着替えた。逸る気持ちを抑えられないのだ。
それから適当な日陰で休憩していると、男が一人こっちに向かってきた。体格は中肉中背だがガッチリと筋肉質な身体で浅黒い肌に短い頭髪といかにもスポーツマンといった出で立ちだ。
あれ、こいつもしかして……。
「お前がタツロウなんだろう? 俺はアンドレアス・ハーゼ、マチルデと同じクラスの代表だ」
やっぱりか、昨日の予選を一位通過した男だ。
「確かにオレがタツロウだけど、いきなり何の用だ? 今までオレたち会話したこともないよな」
「そんなに警戒するなよ、同じく1年生で予選突破した者同士、挨拶しておこうと思ってな」
そうかな……なんとなくだけど別の目的があるような気がしてならない。
「それに俺たち実は共通点があるんだぜ。前からそれについて聞いてみたいと思ってたんだよ」
「さっきも言ったけどオレたち初めて会話するのにそんなものあるわけ無いじゃん」
「あるよ……ある男のことをどちらもよく知ってる」
「誰のことだよ、もったいぶらずに教えろよ」
「『ヒューゴ』こう言えばわかってくれるよな? 俺とアイツはお互いにライバルと認め合う仲だったのさ」
ヒューゴ! オレとヤツはいろいろイザコザがあってしばらく前に『決闘裁判』で決着をつけたのだ。そしてヤツは自主退学を選んだ。
「もちろんわかるに決まってる……で、今さら何の用だ? オレが決闘で勝ってヤツが退学したからその仕返しをしようってのか?」
「違うよ、落ち着けって。俺はアイツが荒れ始めた頃に何度も元の姿に戻るように働きかけたんだが、結局は悪い連中との関係を断ち切れなかった」
「……」
「だけど自主退学することになった日、アイツが俺の部屋まで別れの挨拶に来たんだ。その時のアイツの顔つきが荒れる前の状態に戻ってたんだ」
「ふ〜ん、オレには挨拶ナシだったからそんなの知らないな」
「そうか。お前がアイツに何かしたのか、何を言ったのか聞きたかったんだけどな。ほら、決闘後に何か話してただろう」
「いや、オレは負けるわけにはいかない決闘を必死に戦っただけだ。話してたのはアイツがオレに絡んできた理由だよ」
「その理由は何だったんだ?」
「大した事じゃねーよ。お前には関係ないことだ」
話してもいいがウチの領内のややこしい事情が絡んでるからなぁ。ちょっと話しづらいんだわ。
「そうか……でも俺はそれを知りたいんだ。それじゃあ、俺がお前にトーナメントで勝ったら話してもらうぞ」
「一方的な要求出されてもな……まあいいぜ、その代わりオレが勝ったら2度とヒューゴ絡みで話しかけてくるんじゃねえぞ」
「いいだろう、これで賭けは成立だ。でもお前はまず1回戦に勝てよな、オレたちが戦うのは恐らく2回戦だ」
いろいろ一方的に言ってさっさと向こうへ行ってしまった。厄介なことになったがどの道避けて通れる相手じゃないし仕方あるまい。
それから少しすると観客席に人が入り始めた。昨日とは違いどんどん席が埋まっていく。観客は貴族の保護者や関係者が中心で生徒は出場者のクラスメイト以外はあまりいない。
そしてドンと広い一画を占有するグループがいくつか現れた。有力な貴族たちだろうか。
特に一番でかい区画を占有してるのはカイゼル髭を蓄えた男が中心のグループだ。確かヴィルヘルムのオーエンツォレアン家当主が伝統的にしている髭と聞いたことがある。ということはあれが現選帝侯の一人というわけか。
席がほぼ埋まったタイミングでトーナメントの開幕が宣言されるようだ。観客席の前に台が置かれてその周りに何人か集まってきた。
あれは……神学校の理事たちか。観客の面子を考えると理事が出ないと失礼だと思われかねないもんな。
台にシーラッハ理事が登り、いよいよその時がやってきた。
「これより大会2日目、トーナメントを開幕することを宣言する」




