04.オレのターン
さて、まずはバンデリア侯爵に普通の意見を言ってみるか。
「それでは申し上げます。まずは、先ほど陛下がおっしゃっていた通り、皆様の費用が異様に高すぎます」
「実際にそれだけかかってしまったのですから仕様がありません、そう申し上げたはずですが」
話し合う気は無さそうだな。でも何とか議論に引っ張り込むために吹っかけてみるか。
「では、何にどれだけ費用が掛かったのか、細かくご説明願います」
「我の言うことが信用できぬと申すのか!」
ちょっと怒らせてしまった。が、この方がこちらのペースにしやすいぜ。
「そうは申しておりません。ですが、おカネを請求されれば、実際の費用の内訳をお伺いするのはこの世の中で当然のことでしょう」
「だから、それが無礼だと申しておるのだ! 我が侯爵家を市井の商人か職人の如く扱うと申すか!」
さすがに当たりがキツくなってきた。しかしここで怯んだら向こうの思うツボだ。ちょっと論点をずらそう。
「誰もそのようなことは申しておりません。私は、おカネのことは丁寧に扱うべきだと申し上げたいのです」
侯爵の頭が少し右に傾げた。何を言っているのだ、といった表情だ。
いいぞ、相手に考えさせて発言を止めることができた。こっちのペースになってきてる。
「おカネは大事です。その支払いを適当に行うということは、我がドラゴブルグ家にとって損失となるだけでなく、家臣、領民に対して無責任となるのです。ひいては、我が帝国に対する裏切りともなります」
前世で読んだ漫画やアニメとかのセリフの知識を総動員して屁理屈を並べ立てる。自分でもハチャメチャだと思うが、とにかく押しまくって論破した方が勝ちだ。日頃SNSでマウント取り合い煽りあいやって鍛えてる現代っ子なめんなよ!
「ここで問題にしておるのは、我々諸侯が支援した遠征の費用を支払っていただきたいということだ。領民だの帝国だの、何が関係あると申されるか」
さすがに簡単には引き下がってくれないなぁ。しかしこの反論は想定内だ。
「その遠征は、帝国に対する反乱の鎮圧であり、教皇様の身の安全と教皇領の治安回復が目的でしたよね? つまりは帝国と、それに所属する諸侯、家臣、領民達すべてに関係することではありませぬか」
無理矢理関連付けてやった。こんな時代の貴族様には国民と政府みたいな概念は無いだろうから、侯爵は何言ってるのか理解出来ないといった表情をしている。このまま押しまくるぜ!
「ですので、陛下に対して費用の支払いを望むのであれば、その内容を事細かく報告するのが筋というものでしょう。どんぶり勘定の請求を認めるわけにはまいりませぬ」
まだ的確な反論が思い浮かばないようで、その悔しさが態度に出てきた。テーブル上に置いた両腕の拳を固く握り、口元がワナワナと震えてる。もう一押しだ。
「あと何が理不尽なのかということですが……。そもそも帝国として行った遠征の軍事費用を皇帝陛下のみに負担させようとしている。理不尽ではありませんか?」
「何をいまさら! それが帝国の習わしとなっております! それに我々諸侯は陛下をお助けしたのですから、その費用を国庫より全てお支払いになるのが当然ではないか!」
なんだよそりゃ、アンタの言ってること無茶苦茶じゃないか。皇帝の権威もだいぶ落ちてるな。オヤジも含めて代々弱腰の対応をしてきたんだろうな。
「ルドルフ、いい加減にせぬか! これ以上はやめるのだ!」
ここでオヤジが止めに入ってきたが、当然無視だ。オレは皇帝の権威を取り戻すべく頑張ってんだ、引っ込んでてくれよ。
構わず侯爵に向かって反論を続ける。
「やはりおかしいですね。帝国の一大事なのですから、諸侯も帝国に進んで協力すべきです。自分たちの帝国のことは自分たちで守る。当然でしょう」
本音を言えばいっぱいいっぱい、もはや自分が何言ってるのかもよくわからないし、爆発しそうなくらいに脳ミソを回転させまくってる。
けど、とにかく帝国のことはみんなで分担しようという正論を盾にすることでうまく論破できるハズ。あとひと踏ん張りだ。
「もちろん1番多く出すべきは国庫からですが、皆様の軍において直接かかった経費はご自分たちで負担すべきです。そして結局は皆様に税を支払っている帝国臣民たちも等しく負担していることになるわけです。これこそ帝国のあるべき姿なのではありませんか?」
いよいよ顔面紅潮し我慢の限界といった侯爵がなんか叫ぼうとしている。いいぜ、感情的になったところでトドメを刺してやる。さあこいや!
しかしオレのターンはここで終わってしまったのだった。