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名ばかり皇帝の跡継ぎに転生させられたけど、オレはこのまま終わるつもりはない  作者: ウエス 端
馬術競技大会編

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35.ライバル? 登場

 今日の朝は今までで一番キツい朝だった。


 前日の疲れと筋肉痛が残っている中、いつもよりかなり早く起きて洗濯と干場の屋上への移動から始まり、食堂に一番に入って朝食を急いで詰め込むと、厩舎へ移動して作業と目が回る忙しさだ。


 幸いなのは、今朝の作業内容が馬房掃除の準備作業だけだったことだ。新しい藁と飲み水、飼料を馬房の近くに運ぶのはしんどかったが、昨日の夕方のように掃除の手伝いは無かったので身体に臭いが付かなくて済んだ。


 ようやく作業を終え、一旦寮に戻る道で途中までクリスと一緒に歩いていたら、相談があると話しかけられた。


「タツロウ、お馬さんと仲良くするにはどうしたらいいかな」


「う〜ん、オレはあまり意識したことないな。手順通りに乗れば、訓練された馬ならちゃんと言うこと聞いてくれるし」


「それはそうなんだけど、わたしはもっとお馬さんと気持ちを一つにしたいっていうか。昨日の練習でもイマイチ乗りこなせた気がしなくて」


 オレにはアドバイスが無理なことだな。これは馬の扱いに慣れてるであろうアイツらに聞いてみるか。


「サンドラ、馬と仲良くするのってどうしたらいいか教えてもらえないかな」


「そんなの、とにかく馬に乗ってるうちに自然と気持ちが通じ合うってものよ」


 残念ながら論外だった。


「マチルデに聞きたいんだけどさ、馬と仲良くするのってどうやってるの?」


「私、馬はあくまで乗るものだと考えていますの。乗るために必要なスキンシップ以外知りませんし、仮に知ってたとしても、どうして私が他のクラスの代表にアドバイスしなければいけませんの?」


 マルコ以外の相手には塩対応でした。


 あと誰か教えてくれそうなヤツは……そうだ、アイツなら教えてもらえるかも。今日はこれから同じ授業を受講するので、とにかく聞いてみよう。


「やあノア。ちょっと教えてほしいんだけどさ。馬と仲良くする方法って何かあるのかな」


「そうだね、あるにはあるけど、ウチの実家にいるのは農作業用の馬ばっかりで馬術用に訓練されたのはいないよ」


「それでもいいから教えてほしい。頼むよ」


「いいけど、タツロウにはそんなアドバイス必要ないと思うんだけどな。僕が聞いた噂では、タツロウの手綱さばきは実は神レベルなんだって」


 誰なんだよ、そんな噂流したやつは。まあ、どうせ同じクラスのヤツが面白がって大袈裟な話をしたんだろう。


「それはウソ。何が神レベルだよ馬鹿馬鹿しい。それに、教えてほしいのはオレじゃなくて、昨日から一緒に練習してるクリスなんだ」


「クリス……? ああ、クリスティーネさんのことか、ウチのクラスの女子代表の」


 人当たりの良いノアにすらこの扱いとは、クリスは自分のクラス内での存在感が薄いんだな。


「別にいいよ。それにウチのクラスの代表だからサポートしてあげないとね。ところで、あそこにいるのはクリスティーネさんじゃない?」


 確かにクリスだ、今まで気がつかなかった。オレも人の事言えないな。それはともかく、早速クリスを呼んでこちらの席の隣に来てもらう。


「あの、ノア君、こんにちは。ノア君に教えてもらえるなんて、とても有り難いです」


「ノアでいいよ、クラスメイトなんだし。それに僕はそんなに大した者ではないよ」


「いいえ、そんなことないです。あ、あと、わたしもクリスで、いいです」


 クラスメイトだというのに、なんだか酷くぎこちないやりとりだな。でもむやみに踏み込むのはやめておくか。


 そうだ、ついでにオレも教えてもらおう。そうすればクリスも不安なく教えてもらえるだろう。


「それじゃ、僕の家でやってるやり方でいくね。まず、馬は温厚だけどかなり臆病な動物なので、むやみに触ったり耳元で大きな音を立てないように注意が必要だよ」


 へえ、そうなんだ。これまで特に問題無かったけど、これからは注意しよう。


「近づくときは、キチンと姿が見えるように左前側からゆっくりと、動きは大きくならないようにすると馬が安心するよ」


 クリスは熱心にメモを取りながら時折質問を出してくる。


「声はかけたほうがいいんですか?」


「そうだね、落ち着いて優しく声をかけながら近づいていくといいよ。で、いきなり触ったりせず、ゆっくりと優しく撫でること。最初に鼻の近くに手を伸ばして匂いを嗅がせるのも有効だよ」


「頭やおでこを撫でたら喜んでくれますか?」


「いや、馬は目線よりも高い位置は警戒するから、慣れないうちはやめたほうがいい。頬から首筋あたりを優しく撫でたり、褒めるときは首筋から肩のあたりを軽くポンポンと叩くと大体の馬は喜ぶと思うよ」


「やってはいけないことってありますか?」


「後ろに立つのは絶対ダメ。死角だから馬が不安になるし、下手したら蹴られちゃうよ。あと耳を後ろに伏せている時は機嫌が悪いから近づかないほうがいい」


 こうやって聞くと、オレもスキンシップなんてあまりとってなかったし、ちゃんと出来てないことが多い。


 こんな状態でも問題なかったのは、地元で乗ってたときでも昨日でも、少しくらいのことでは動じないくらいよく訓練された馬だったからだな。実は全部お膳立てされてたのに自分だけで出来たと勘違いしていたわけだ。


 あとはブラッシングや餌やりなどで触れ合うのも有効みたいだが、オレたちには許可されてないのでそれは諦めるしかない。


 クリスは納得したのか笑顔でノアにお礼を言っていた。オレもあちこち聞いてまわった甲斐があったというものだ。



 放課後になったので今日も練習に来ているオレたちは、早速ノアに教わったことを試してみた。


 挨拶というか掛け声というか自分でも微妙だが、とにかく声をかけながら近づいて少し首筋を触りながら乗ると、確かに馬の態度が昨日よりも柔かくなった……気がする。1日じゃ違いがよくわからん。


 一方、クリスは今日の馬と既に親しげな雰囲気で乗っている。こういうのは彼女の方が得意なようだ。


 オレの今日の課題は、まずは速歩と出来れば駈歩が出来るようにすること。あとは馬術のいろんな歩行を思い出して試していきたい。


 そうして練習に励んでいると、クリスがいる方向から話し声が聞こえてくる。見ると、下馬しているクリスと、馬に乗ったままの男子が言い合っているようだ。


 オレは馬を速歩で少し走らせてクリスたちのところへ行く。どちらもオレに気づいてこちらを見てくるので、間に割って入るように近づく。


「クリス、どうしたの? 何かトラブルかい?」


「それがね、この人たちも練習したいからこの場所を譲るように言われてるの」


 この人たち……あ、確かに2人だ。馬に乗ってるヤツは顔立ちは整ってるがいかにもキザな感じの顔つきと髪型だ。もう一人は馬から降りていて、顔はよく似ているが顔つきはもっと穏やかだ。


「そうか、わかった。オイ、練習なら空いてるスペースがあるんだから、オレたちが立ち退かなくてもいいだろ」


「キミも、昨日からここで練習している下級貴族なんだろう? 失敬な奴だな、まずは下馬してから話したまえ」


「自分だって乗ったままじゃないか。何でこっちだけ降りなきゃいけないんだ」


「そんなのは当たり前じゃないか。爵位を持つ家柄の人間を目の前にして、キミたち下級貴族が礼節ある態度をとるのはね」


「そんなの、学校の中じゃ関係ないだろうが!」


 オレとこの傲岸不遜な男の言い合いが激しくなりそうになったところで、もう一人の男子が話に割って入ってきた。


「落ち着きなよキミ、大声出すと馬が驚いてしまうよ。兄さんも、今どきそんな厳格な身分関係なんて流行らないよ。さあ、どちらも降りて話そう」


 コイツら兄弟なのか。兄は傲岸不遜でいけ好かないが、弟は人間が良く出来ているな。ともかくオレは下馬し、兄の方も渋々降りてきた。


「失敬なキミ、まずは名を名乗りたまえ。それぐらいの礼儀も弁えてないのか?」


 いちいちカチンとくる言い方するやつだな。いい返そうとしたが、これ以上揉めるとクリスにも迷惑が掛かりそうなのでグッとこらえて名乗ることにした。


「オレはタツロウ・タカツキー、アーベル先生のクラス所属の1年だ。今度はそっちが名乗れよ」


「ボクの名はマクシミリアン。イーガルブルク子爵家の長男さ。ちなみに2年、キミより先輩だ」


「ぼくは弟のフェルディナント、1年だよ。あとは、キミも名前を教えてくれるかな」


「わ、わたしは、聖職者クラス所属の1年、クリスティーネ・ベルリナ、です」


 どちらも名乗り合ってオレも少し落ち着いた。とはいえ、この件はアイツらに譲るわけにはいかない。


「で、さっきも言ったけど、オレたちが立ち退く必要はないだろう。大会まであまり余裕ないし、一日でも練習を多くしたいんだ」


「ボクはこの競技場を目一杯使って練習したいんだ。だからキミたちがいると邪魔なんだよ。それにキミたちが練習したところで大会ではボクたちが優勝するんだから無駄だと思うよ」


「そんなのやってみなきゃわかんないだろう。それにオレたちだって、ちゃんと許可を得て練習してるんだから、お前にとやかく言われる筋合いはない」


「やれやれ、キミも諦めが悪いな。そうだ、それじゃこういうのはどうだろうか。キミとボクとで今から簡単な勝負をして勝ったほうが今日この場所を使えるというのは。負けた方はもちろん退場してもらうがね」


 ここでオレは少し返答を躊躇してしまった。何の勝負かわからないし、クリスもいるんだから一方的に不利なものを受けるわけにはいかない。だがヤツは見透かしたかのように挑発してきた。


「どうしたんだい。本当に簡単な勝負だよ、キミでもすぐ出来るくらいの。それとも、怖気づいたのならさっさと帰ることだね、ハッハッハ」


 さすがにアタマにきてしまったオレはまんまと挑発に乗せられてしまった。


「上等じゃねえか、その勝負受けてやるよ。そっちこそ後で吠えづらかくなよ!」


「だ、だめだよタツロウ、わたしはいいからもう帰ろうよ」


 クリスには悪いが、ここまでコケにされて黙ってられないんだよ。絶対勝ってお前の鼻を明かしてやるからな!

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