31.賭けるものは
あちら側は、今のところ、マルコとマチルデが一緒にメニューを見て話をしており、サンドラは1人で黙々とメニューを眺めている。一見問題なさそうだが、やはりなんとなく不穏な空気を感じてしまう。
「ねえマルコ、今日はこのお店で一番人気のフルーツタルトをいただくのだけれど、どの紅茶が合うかわかるかしら」
マチルデがメニューを見せながらマルコに近づいていく。
「さあ、俺は紅茶のことはよく知らないから、さっぱりわからないな」
「これなんて如何かしら。花のような香りと、少し渋みのあるお味がフルーツに良く合いますのよ」
マチルデは左手でメニューを指差しつつ、右腕をマルコの左腕に絡ませ気味にしてさらに接近する。もうすぐ胸のあたりがマルコの左腕に当たってしまいそうだ。
サンドラはもうたまらないといった様子で立ち上がり、話に割って入ってきた。
「ちょっと何してんのよ! そんなにくっつくなんて破廉恥だと思わないの! マルコも鼻の下伸ばしちゃって、バッカじゃないの!」
そう言われたマチルデも立ち上がり、強く反論するが、サンドラも引き下がらずに言い続ける。
「私とマルコは、ただ一緒にメニューを見ているだけですのよ。そうしてお互いに品物を選んでいたら、多少距離が縮まるのは当然のこと。それを破廉恥呼ばわりとは、一体どういうおつもりかしら?」
「どう見ても胸がマルコの腕に当たりそうだったじゃない! それが破廉恥じゃないだなんて、そっちこそどういう神経してるの?」
もうやめてくれよ、みんな見てるじゃない!
「お客様……」
店員までやってきた。もうだめだ、スイーツどころじゃねえ。
「すみません、お騒がせしちゃって。この子たち、お腹が空きすぎて気が立ってるんですよ。もう終わりにさせますから」
とうとう、マルコが強引に終わらせにかかった。2人は赤面して大人しく座った。というかそうするしかなかったってところだな。
しかし、2人はヒソヒソと更に話を続ける。
「あなたのおかげで、とんだ恥をかいてしまいましたわ。こうなったら、決着をつけるよりほかありませんわね」
「上等じゃない。で、どうやって決着つけようってのよ?」
「今年の馬術競技大会、確かどちらのクラスも女子の代表は未定でしたわね。そこでより優秀な結果を収めた方が、正式にマルコとお付き合いするということでいかがかしら」
「あたしは、マルコみたいな女たらしなんてどうでもいいけど、アンタに勝負から逃げたと思われるのはシャクだから、受けて立つわよ」
「……まあ、理由は何でもいいでしょう。負けた方は、マルコのことは諦める、いいわね?」
「望むところよ!」
「ええ〜、俺の意見は聞いてくれないんだね……」
マルコも大変だなあ。でも、とばっちり食うのは嫌なので、オレたち男子3人はこの件については口をつぐむことにした。すまない。
そんな話をしていると、そろそろいいかという感じで店員が注文を取りに来た。
「注文はお決まりですか?」
「そうだね、まずは飲み物から。この紅茶を3つ。タツロウたちはコーヒーでいいかい? それを3つね。あとは、このお店で一番人気のフルーツタルトを6人分、頼めるかな」
マルコが手際よく注文してくれた。とにかく気を取り直してスイーツを楽しむことにしよう。
まずは飲み物がやってきた。特に何の変哲もないコーヒーだが、適度に苦味と酸味があって飲みやすい。スイーツに合うように考えられてるのかな。
続けて、いよいよメインイベント! フルーツタルトが運ばれてきた。タルト生地の上に乗せられたカスタードクリームと、更にその上に敷き詰められたたっぷりのフルーツ、見てるだけで美味しそうだ。
フルーツはイチゴをメインとしてバナナ、キウイ、ブルーベリーに、少しピンク色のグレープフルーツと盛り沢山だ。
それだけを食べても美味しいが、フルーツ毎に生地を切り分けて一緒に食べると、クリームの程よい甘さと、ほのかにアーモンド風味がするサクサクの生地が相まって、えもいわれぬ美味しさだ。
途中でふとマルコたちの方を見ると、女子2人は、まるで何事もなかったかのように仲良くタルトを食していた。
「このタルト、もう最高〜! さすがマチルデ、オススメはどれも外したことないわね」
「でしょ〜、私のスイーツを見る目に間違いはなくてよ」
すごいな、あれだけ煽りあった直後なのに……女子怖い。
それはそうとして、美味しさのあまりあっという間に食べてしまったよ、ふう。もうこれだけでも満足だが、しかしまだイベントは残っている。追加注文したザッハトルテを賭けて、ノアとヤニク2人と勝負だ。
「さて、それじゃ今日は新ネタで勝負させてもらうよ〜」
そう言ってヤニクは上着からコップ3つとコイン1つを取り出した。ああ〜、これってテレビで見たことあるな、確か、スリーシェルゲーム、だったっけ? この世界では何と呼ばれているのかは知らんけど。
「僕が見たことないゲームが始まりそうだね。それをどうするのさ?」
「まずは、コップを3つとも伏せて並べます。そしてそのうちの1つにコインを入れます」
ヤニクは真ん中のコップにコインを入れて再度伏せた。
「さて、それじゃコップの位置をシェイクするよ〜」
そう言うと、3つのコップの位置を入れ替え始めた。最初はゆっくりだったが、徐々にスピードが上がっていく。思ってたより速いな、ついていくのが大変だ。
「ハイ! どのコップにコインが入ってるか当ててみてよ! 言い当てたらそいつの勝ち、2人とも外したらおれっちの勝ちね」
う〜ん、途中までは目で追えてたんだが、最後の方はちょっと自信ないな。ええい、ここは直感で勝負だ!
「オレはヤニクの右手側を選ぶ」
「それじゃあ僕は……真ん中だ」
「それじゃあ、開けていくよ……まずは右! 残念、ハズレ〜」
ああ、オレのザッハトルテが! 今日の敗北は精神的ダメージがでかすぎる!
「それじゃあ次は真ん中……これもハズレ〜」
「え〜、結構自信あったんだけどな。でも、面白かった!」
「というわけで、おれっちの勝ちね! それじゃ早速、いっただきま〜す!」
ヤニクは左手側のコップにコインが入っているのを見せると、即座にザッハトルテを食べ始め、あっという間に平らげてしまった。
「チキショ〜、次はぜってー勝つぞ!」
「いやいや、次もおれっちがいただきだよ〜」
最後にいつものパターンの煽りあいをやって、このイベントは終了だ。マルコとノアは笑ってくれたが、サンドラとマチルデからは呆れたような視線を頂戴した。
さて、そうこうしてるうちにみんな食事を終えたので、支払いを済ませ、オレたちは帰路についた。みんな疲れたのか、あまり会話もなく歩いていく。オレはあのスイーツの美味しさを思い出しては余韻に浸っていた。
いろいろあったが、今日はとても楽しかった。しばらくは無駄遣いせずにお金を貯めて、いつかはこの店のザッハトルテを食べるとオレは誓ったのだった。
あと、馬術競技大会の女子代表が決まったな。オレは同じクラスのサンドラの応援に専念するよ。お前は出ないのかって? この前何度も断っただろう、しつこいんだよ!




