30.やれやれ
商店街の入口に到着したが、ここで一旦解散し、それぞれ用事を済ませてから、再度集合することになった。集合場所はケイン大聖堂の辺り、その近くに目的のカフェがあるらしい。
オレとヤニクは、それぞれ自分の買い出しを済ませてくることにした。ノアは買い出し不要なので、そこらへんを観光気分で見てまわるとのことだ。
で、問題はマルコと女子2人だが、相変わらずマチルデが距離を詰めた状態なのに対し、サンドラは2人と向き合った形で、何やら言い争いをしている。
「……俺は食料とか買い出しに行くけど、そこまで付き合わなくてもいいよ、マチルデ」
「あら、この雑踏の中に女の子を一人置いていくつもりなの?」
「う〜ん、それはそうだね……。じゃあ俺と一緒に行こうか」
「ちょっとマチルデ、昼間の商店街くらいアンタ一人でも歩けるでしょ! コドモじゃないんだから!」
「私は、マルコにエスコートをお願いしているんですの。サンドラ、あなたに口出しされる筋合いはありませんわ」
サンドラとマチルデの間合いが徐々に詰まってきて、口調がヒートアップしてきてる。その間にいるマルコは両方に目を動かしているが、口出しは控えている。
「……もう行きましょうよマルコ、私たち2人だけで。サンドラのワケがわからない話に付き合ってられませんわ」
マチルデがマルコの左腕の袖を持って引っ張る仕草を見せると、サンドラの眉間に皺が刻まれ始めた。
「待ちなさいよ! あたしも一緒に行く。このまま2人で行かせて、マチルデが何か変なことしないか見張っとかないとね」
「……変なことって何ですの? 場合によっては、私のみならず、我が家名をも侮辱することになりましてよ、アレクサンドラ!!」
おいおいやめろって、周りのみんながこっち見始めたぞ。これ以上続くようなら、無理矢理割って入るしかないか?
「落ち着いて、2人とも。こんなところで言い争うのはさすがにどうかな」
マルコが仲裁に入った。少し様子を見るか。
「……マルコの言うことでも、こればかりは引き下がれませんわ」
「それについては、まず俺が謝るからさ。俺が優柔不断な態度取ったのがそもそもの原因だし、本当にすまない。サンドラも、さすがにあれは言い過ぎだよ」
「……わ、悪かったわよ」
「まあ、今回はマルコに免じて不問にしますわ」
「それじゃあ、3人で行こうか。タツロウ、またあとでね」
ふう、なんとか収まったか。まだぎこちない距離感で3人が歩いていくのを見届けてから、オレは自分の買い出しを始めた。
オレの買い出しはほぼルーティンワーク化していて、決まった店でほぼ同じ商品を同じ数量だけ買い込む。
結局はこのやり方が最も労力とコストを抑えられるのだ。目当ての品が急に値上がりしてたら、その時になってから別の店を探索すればいい。それに一日我慢すれば、また食堂で美味しい食事にありつけるのだから。
一通り買い揃えて今日のノルマは達成したので、ボチボチとケイン大聖堂に歩いていく。この街で一番大きい建造物であり、どこからでも見えるのでランドマークとしては申し分ない。
それにしても、この商店街はいつも凄い人数が集まってくるな。ここは帝国各地から河川を通じて物資が集まる場所だから当然だが、ウチの帝都の商店街を同じように繁栄させるのはなかなか難しい。
けど、何か参考になるものはないか見て回るのも楽しみの一つだ。
さて、待ち合わせ場所に着いたが、まだ誰も来ていないな。改めて近くからみる大聖堂は、なんというか大迫力かつ威厳で圧倒される。
150メートルあるといわれる2つの塔だけでも凄いが、その後ろにあるドームのような聖堂はちょっとした野球場並みの広さと大きさだ。
もしオレが皇帝を継いだとしても、この世界において桁外れな建造物を建てられるような大諸侯相手に、果たして立ち向かえるのだろうか。
「タツロウ、お待たせ。すぐ近くでノアとヤニクにバッタリ会ったから、一緒に来たんだ。これでもうみんな揃ったね」
背後からマルコに声をかけられたので振り返ると、確かに全員揃ってる。サンドラとマチルデは、相変わらず微妙な雰囲気と距離感でマルコの傍にいる。ノアとヤニクは少し離れて2人で話してる。
「行こうか、スイーツを食べに! って、目当ての店はどこだっけ」
場を仕切ろうとしたオレだったが、よく考えたら店の名前も聞いてないんだった。
「カフェ ヴィッテ&リットですわ。ほら、すぐそこに見えてますわよ」
「ホントだ。わりとおしゃれで、俺はいい店構えだと思うな。さあ、みんな店に入ろうよ」
結局、マチルデとマルコに仕切られてしまった。まあ、別にいいんだけどね。
店の建物は、石造りで少し重厚感があるが、壁は落ち着いた白で統一されていて、半円形みたいな窓が地面近くまで広く大きくとられてるのと、木の枠とガラスで出来たドアが開放感を感じさせる。
ドアの取っ手を引いて店内に入ると、すぐ目の前に小さなカウンターがあり、その付近に女性の店員が一人立っている。
「やあ、こんにちは! 6名で食事したいんだけど、席はあるかな」
「こんにちは。あ、丁度大きなテーブルが一つ空いてますよ。こちらへどうぞ」
マルコがまず挨拶した後にテーブルまで案内してもらった。オレの前世、つまり日本でこういう店舗に入るときは、店員に挨拶することはなかったので最初は驚いたが、この世界ではまず挨拶するのがマナーらしい。現代でもヨーロッパとかではそれが普通だって? 住んだことないから知らんよ。
案内されたのは大きめの丸いテーブルで、6人だと余裕で座ることができた。そこにマルコと両脇にサンドラとマチルデ、反対側にオレとノア、ヤニク3人のグループに別れて座り、メニューを眺める。
「タツロウっち、賭けるスイーツは何にする?」
そうだな、流石にお目当てのヤツが食えないのは悲しいから、それとは別に一つ注文するか。
どれがいいかな……おっ、この世界でもザッハトルテがあるんだな。実はオレはチョコレート大好きなのだ。ちょっと値段が高いが、負けたら来週の買い出しの量を少なくすればいい。
「それじゃあ、こいつでいこうか」
「おお、いいじゃんいいじゃん。ますます勝負に力が入るぜ」
と、ここまで話を聞いていたノアが割り込んできた。
「面白そうだね。この賭け、僕も混ぜてもらえるかな?」
「ノアちんもやる気になったか! もちろん歓迎だよな、タツロウっち」
「もちろんだとも。でもオレがいただくことに変わりはないがな」
こちらはもう話がまとまってるが、あちら側はそうもいかないようだ。もうこれ以上は揉めないでいてほしいのだが、やれやれ、どうなることやら。




