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03.会議デビュー

「明日、主要な諸侯達との非公式の会合がある。お前もそこに出席するのだ、ルドルフ」


 昼食の席でオヤジ……父上から急に話を振られた。主要な、ということは皇帝を選ぶ7家の大諸侯も出席するのだろうか。ちなみにオレの心の中ではコイツらのことを勝手に「ビッグセブン」と呼んでる。


 いよいよ将来の皇帝候補としてお目見えといったところか、望むところだ。


「かしこまりました、父上。何か私に出来ることはございますか?」


この世界での一人称は「私」がメインだが、いまだにむず痒い。親しい家来ぐらいにしか気軽に「オレ」と言えないのが目下の悩みだ。


「お前はただ同席すればよい。初めて会う諸侯がほとんどだ、まずは顔を知ってもらわねばな」


 顔見世だけか。ま、仕方ない。あまり肩ひじ張らずにいこう。


 でも少し不満がたまってきてる。これまでも中堅クラスの諸侯がオヤジに謁見しにきたところに同席させてもらったが、今のところは挨拶と、向こうから話しかけられた際に当たり障りない会話をする程度だ。


 毎回同じなのも飽きてきた、そろそろ何か発言をしたいな、なんて思ってるんだけど。


 あと、オヤジの諸侯に対する態度が気に食わない。諸侯としては確かに小さいが、でもこの国の皇帝なんだ。もっと威厳を持って偉そうにすればいいのに、オヤジの性格なんだろうか、諸侯達に対する態度は腰が低いといってもいいくらいだ。


 有力な諸侯はビッグセブンのどこかの傘下に入っていることが多いので、気を遣うこともあるのかもしれんが、それにしてもである。


 あと、普段からケチ臭い……、いや質素倹約に励んでる。


 領内は大繁栄してるとは言えないが、帝都は交通の要衝にあって多くの商人が出入りし市場はにぎわってるから、貧乏国でもないはずだが、必要以上に支出を削ってる。


 オレ達一家の食事だって、普段は一汁三菜程度で、ちっとも皇帝らしくない。


 きっと貧乏性なんだろうな。オレが即位した暁には、オヤジを反面教師として参考にさせてもらうよ。もっと威厳を持って、絢爛豪華な振る舞いを諸侯達に見せつけてやらねば、ナメられちまうぜ。



 さて、今日はビッグセブン達との(オレにとっての)初お目見えの日だ。いよいよここから、オレの偉大な皇帝伝説が始まるのだ!


 開始時刻となり、オレはオヤジ……皇帝陛下と会議室へ入った。


 会議室といっても、大広間といってもいいくらいの部屋だ。部屋のあちこちに銅像だの甲冑だの壺だの、色々陳列してある。中央に長方形の大きなテーブルが置いてある。長い辺の長さは、10メートルくらいはあるかな。


 テーブルの両側には、既に諸侯たちがずらりと並んで席についている。オレたちが入室すると皆立ち上がり、敬礼をしながらオヤジが席に着くのを待っている。


 オヤジがテーブルの上席に座り、オレもその隣りの席に着いた。


「会議の前に、既にご存じの方もおられると思うが、我が息子ルドルフを紹介したい。当家の嫡男であり、いずれ家督を譲ることになるだろう」


 ここでオヤジが目配せしてきた。


 内心はかなりドキドキしているが、それを顔に出さないように気を付けつつ、自己紹介を行った。


「ルドルフ・ドラゴベルクです。15歳となりました。まだまだ若輩者ではありますが、一日でも早く一人前のドラゴベルク家当主となるべく努力していく所存です。皆様ご指導のほどよろしくお願いいたします」


 何とか詰まらずに言い終えることができた。諸侯達からは大きくはないが拍手をもらうことができた。


 第一印象としてはまずまずいい。


 拍手が鳴り止むや、早速諸侯の一人から議題が挙げられた。


「陛下、先日からの教皇領周辺都市の反乱鎮圧の件ですが、よろしいかな」


 教皇とは、古代の大帝国で皇帝として君臨した一族の末裔である。ウチの帝国はその後継国家なので、今でも影響力を持っているのだ。


 皇帝即位の際には、教皇からの戴冠の儀式が必須であり、受けられなければ内外から皇帝とは認められない。


 そういえば、帝国から教皇領の間にある都市国家どもが同盟組んで反乱起こしたから、遠征軍を出して鎮圧に行ってたんだっけ。


 教皇領は古代帝国のかつての帝都であり、ウチからは南の都市国家群のさらに向こう側にある。都市国家は帝国領には入ってないが、税金を納める代わりに帝国が安全保障してやってるのだ。なのに反乱起こしやがってウザい連中だ。


「既に反乱は鎮圧されたと報告を受けていますが、戦費の話ですかな、バンデリア侯爵殿」


 バンデリア侯爵、確かビッグセブンの一人だな。髪は耳の下まで伸ばしてちょっとカールさせ、鼻の下左右に髭を蓄えた、典型的な貴族スタイルのオッサンだ。


 オヤジが恐縮しながら尋ねると、強い調子で話を続けてくる。


「鎮圧まで3ヶ月近くかかった上、撤退するための退路確保、教皇領の治安回復及び教皇様の保護などにも兵力を割き、予想以上に費用がかさんでおります。私どもが負担した5000万ジェニを補償してもらいたい」


 5000万! 帝国の年間予算が約10億ジェニだから、すごい費用かかってるじゃないか。


「我らは4000万!」

「我らも」


 他の諸侯達も次々言ってくる。


「そんなに……? しかし帝国軍が遠征に要した費用は2000万程度ですぞ」


 オヤジが反論するも、バンデリア侯爵が食い下がってくる。


「しかし実際にかかっておるのです。そもそも、帝国軍のみでは鎮圧出来ず、我らに増援要請なされたのをお忘れか」


 いやいや、オレが聞いた話じゃ、確かに有力な諸侯達に増援要請したけど、主力はあくまで帝国軍……というか実態はほとんどがウチの領内の兵で構成された軍で、増援軍は全部合わせても帝国軍と同じくらいの兵数だったハズ。


 コイツら、滅茶苦茶ボッてねえか? こんなの払えるわけないしおかしい。なのに、オヤジは相変わらず弱腰対応だ。


 このままじゃあ理不尽なカネを払わされかねない。こうなったら、オレが不甲斐ないオヤジに代わってビシッと言ってやるしかねえな!


「侯爵殿、それはおかしいでしょう!」


 一瞬、場が静まり、全員の目がこちらを向く。ちょっと怯みそうになったが、ええい、ここは突き進むのみ。


「そのような理不尽な要求、応じることは出来ません」


「何を口出ししておるのだ!黙らぬか!」


 オヤジから静止が入りオレと一触即発の雰囲気となるが、侯爵がそこに割って入ってくる。


「よいではないですか陛下。いい機会ですからここはひとつ、ルドルフ殿下のご意見をうかがってみては」


 オヤジは苦虫を噛んだような表情でオレを睨みつけていたが、渋々引き下がる。


 続けて侯爵がオレに問いかけてきた。


「ところで殿下、我らのどこがおかしくて理不尽なのか、ご教示いただけますかな?」


 なんか余裕シャクシャクって感じでちょっとムカつくが、まあいい。あとで吠え面をかくなよ!

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