28.絶対に断る
授業に入ったが、何となく馬術競技大会とやらが気になってしまい、どこか上の空で授業を聞いていた。
馬術自体に興味は無いが、イラチな性格のせいか、話が途中になったのが気になってしまったのだ。
そんな様子を見透かされたのか、いきなり先生に当てられてしまった。ちなみに授業内容は座学の戦術論だ。
「これについてどう思うかね、タツロウ君?」
これって言われても、どれなんだかさっぱりわからないでシドロモドロになってたら、マルコがこっそりとテキストの中身を指さしてくれた。
なになに、『突撃してくる騎兵部隊に対して、どうやって魔法で迎撃するか』だって? いきなり言われてもよくわからんが、とにかく思いついたことを言うしかない。
「そうですね、とにかく魔法を相手に撃ちまくって動きを止めるしかないと思います」
ありきたりだなとは思うが、これが一番リスクが小さいでしょ。
「そうだね、騎兵がまだ遠い場所から突撃し始めの状況なら有効だけど、すぐ近くまで来てる場合はどうかな」
「何とか相手に直接当てるとか……は駄目ですか?」
自信のなさがモロに出た答えになってしまった。実際今までそんな場面に直面したことないし、どうすりゃいいんだろうか。
「駄目じゃないけど、動いてる的に的確に当てるのって結構難しいよ。それに、騎兵側は突撃の勢いがあるし、魔法だって使うだろうから、生半可な魔法の反撃じゃ威力不足でそのまま突破されかねない。かといって強い魔法は準備に時間がかかるものが多い」
オレはどうしたらいいか全然思い浮かばないにで答えに詰まってると、先生からフォローが入った。
「……まあ、この問題は実戦の場でもなかなか対処は難しい。正解が1つじゃない問題だけど、普段から考えたり仲間で議論したりしておくことが大切だよ」
そうだな……、特に下級貴族は国や領地で争いになると前線に立たされるわけだから、実際ありそうなシチュエーションだ。
「そろそろ時間だな。今日はここまでにしよう。タツロウ君、もう座ってもいいよ。あと、授業中に考え事はやめた方がいいかな」
やっぱりわかってたのか。さすがに反省します。
ここで午前中の授業が終わり、オレとマルコは寮の食堂で昼食をとりながら、例の馬術競技大会を説明してもらうことにした。
が、その前にやるべきことをやっておこう。
「さっきはサンキューな。おかげで助かったよ」
オレはそう言いながら、昼食のサンドイッチを1つお礼に譲るために、皿をマルコの方に動かした。
「いいのかい! それじゃあ遠慮なくご馳走になるよ」
そういうが早いか、皿に残っていたサンドイッチを順番に手づかみして全て平らげてしまった。
そういや、懐具合が厳しいんだったな。まあ、いつもお世話になってるから別にいいよ。
「それじゃ、そろそろ説明しようかな……。ところで、タツロウは馬に乗ったことはあるの?」
「ウチで乗ったことあるよ。なんか馬をリズムよく歩かせたりとか、ちょっと障害物飛ばせたりとかくらいは」
ここまで言ったところで、しまったと心の中で叫んでしまったが、時すでに遅しだった。
「え、それだけやったことがあるなら十分じゃないか! ぜひ、クラスの代表に立候補してくれよ」
やっぱりこうなったか。でもオレは、ちょっと齧っただけだしゼッタイに嫌だと言い続けて、なんとか諦めさせることができた。
「残念だなあ。誰も立候補しなさそうだから、出てくれると非常に助かるんだけどなあ〜」
横目でジロッと見られたが、そんな圧力には屈しないぞ。
「それじゃ説明を始めようか……、いや待てよ、確かタツロウの家は平貴族だよね? 爵位持ちでも騎士でもないのに、何でそんな馬術の稽古みたいなことができるんだい?」
ギクッ! やっちまった! なぜならホントは皇帝家だから、とは言えないし、困ったな。
「いやそのナンだ、ウチは分家で、本家は男爵なんだよ。それで、親戚の誼で練習させてもらったことがあるだけなんだよ、はっはっは」
「ふ〜ん、分家の息子に便宜を図ってくれるなんて、よほど仲のいい親戚付き合いなんだね」
まだ怪しまれてる気もするが、とにかく誤魔化しきるしかない。
「まあいいや、今度こそ説明するね。大会は毎年夏休みに入る前の時期に恒例で開催されている。で、優勝した選手と所属クラスにはトロフィーが授与されるんだ」
つまり、昇級と卒業前の最後の行事というわけか。それにしてはあまり盛り上がってないな。
「大会は2日間に渡って行われる。1日目は週末前日の午後から馬術の技能審査だよ。さっき君が言ってたような馬の歩行や障害物越えを審査員が点数つける競技さ」
え、それだけじゃないの? 何を2日間もやるってのさ。
「2日目は週末の午前中に、『トーナメント』が行われるんだよ」
なんだそれ、トーナメント形式でまた競技するの? 滅茶苦茶に手間かかるじゃないか。
「いや、そういうのじゃないよ。1日目の審査で点数上位者、何人だったか忘れたけど、それらが騎乗でお互いに突撃して闘い、勝ち進んでいくんだ」
また決闘かよ! それじゃますます出場は断る。
「詳細はわからないけど、この前の決闘みたいな激しいものじゃなくて、要するに馬上から突き落とされた方が負けになるルールさ。規定ではちゃんと防具もつけるし、それ以外のところを攻撃するのは反則だよ」
そうなのか、ちゃんとした試合なんだな。でも出ないよ。
「で、ここからが問題なんだけどさ。この大会、過去の優勝者は必ず爵位持ち、それも大半が伯爵家出身者なんだよね」
なんか嫌な予感がしてきた。もうこの話やめにしない?
「俺が聞いた話じゃ、爵位持ちたちは、1日目の競技は出る必要はなく、出てもエキシビション扱いで採点されない。言わば予選免除だね。そして2日目もシード扱いで、下級貴族たちが潰しあって疲弊した後に登場なんだよ」
えぇ〜、つまり下級貴族は最初から、かませ要員ってことか?
「まあ、身も蓋もない言い方をすればその通り。だから、騎士階級の連中は誰も出たがらないんだよ。やっぱり、騎乗しての闘いにはプライド持ってるからね」
そういう事情ですか。でもトーナメントで余力残して勝ち抜ける強力な騎士も中にはいるんじゃないの?
「だから、先に技能審査するんだよ。脅威になりそうなヤツは、そこで姿勢の美しさとかいろいろ難癖つけられて予選落ちさせられるらしい」
はぁ、もういいよ、こんな大会出る価値もないじゃん。オレたちには関係ないということでシカト決め込もうぜマルコ君。
「だからさ、やっぱり君に出てほしいな。そしたら全て丸く収まるのに」
やだ、絶対に断る。




