27.新たな出会い
早いもので、あれから1ヶ月ほど経った。
マルコやサンドラ、そしてクラスメイトたちに助けられて、オレは授業に何とかついていけるようになってきた。
魔法の実習はまだ基礎をやらされているけど、最近は少しずつ練習もさせてもらえてる。魔力の集中にムラがなくなってきたし、最大課題の飛行魔法の高度やスピードは格段にアップした。でもまだみんなに追いつけてはいないけどね。
剣技の実習は、3人が退学した影響でまたメンバーが奇数となり、オレは度々ロレンツ先生の相手をさせられてる。避けようとしても先生の方から来るのでどうしようもないのだ。
先生の多彩な剣さばきが間近で見れるのは楽しいが、防具の上からの手加減された攻撃ですら、当てられるとかなり痛いので結構つらい。でもオレも先生から一本取ろうとついムキになって、気づいたら終了時間になってしまうのだ。
そして今は休憩時間。オレはクラスメイトたちと他愛ない話で盛り上がっている。
「ねえねえ、モエマルクトに新しく出来たカフェなんだけど、スイーツが美味しいって評判なの。今度の週末、一緒に行きましょうよ、マルコ」
「えぇ〜、どうしようかな。俺、今ちょっと懐具合が苦しくてさ……」
「それだったら、私が足りない分出してあげるから、ね? そうだ、タツロウも一緒に来るでしょ?」
「オレは、女子からのお誘いはいつでもウエルカムさ」
「それなら行ってみようかな……。いいかい、サンドラ?」
「い、いいんじゃない? あ、あたしに、いちいち許可取らなくても」
「それじゃあ、決まりね! 週末の昼食後に正門前で待ち合わせでいいかしら? あ、サンドラも一緒に行くわよね」
「……行くわよ、もちろん」
マルコをお誘いしていた女子はマチルデだ。栗毛気味のミディアムヘアで、サンドラより幾分か背が高く、スリムで穏和なお嬢さんといった雰囲気だ。親は騎士身分だが剣技は不得意で、土属性の魔法の方が得意らしい。
入学当初は多くの女子から言い寄られたらしいマルコだが、オレはそんな場面を見かけたことはない。もちろんマルコに話しかけてくる女子は沢山いるのだが、やはりみんなサンドラに遠慮しているのだろうか。
しかし、ここ最近はマチルデの積極的なアプローチがやたら目につくのだ。その度にサンドラは苛つくのだが、普段の彼女たちは結構仲良さげに喋ってるんだよな。女子同士の関係性はよくわからん。
まあ、前世でモテな……出会いがなかったオレとしては、例えそれがマルコを誘う為の手段であっても、女子から話しかけられお茶に誘われるだけでもシアワセだ。
サンドラも女子じゃないかって? いや何ていうか、彼女はオレの中では男友達とあまり感覚が変わらないんで……。
「おれもおれも! その話、おれも混ぜてくれよ! なあ、頼むよ〜、マチルデ」
「まあ……よろしくってよ」
「やった! サンキュ〜、おれもそのスイーツ食べてみたかったんだ。もう、週末まで待ちきれねぇ」
この騒がしくてちょっとヤンチャっぽいヤツは、ヤニクだ。オレとは何となく波長が合うので、よく2人でバカ話で盛り上がってはサンドラにツッコミを受けるというのがいつものお約束だ。
さて、話が一段落したところで、マチルデとヤニクは別の教室へと移動していった。マルコはふうと一息つき、全身から解放感が伝わってくる。サンドラはひとまずピリピリ感が収まったかな。
ここで2人と入れ替わりで、一人の男子が入ってきた。背はオレより5センチ以上は低く、一見細身の身体付きだが、よく見ると割りとがっしりしている。顔つきはまだ少年ぽいあどけなさが残っているが、日焼けしたのか頬や鼻の頭に赤みが見える。
「やあ、ノアじゃないか! 久しぶりだね。1ヶ月くらい会ってない気がするんだけど、どうしてたんだい? 病気にでもかかってるんじゃないかと心配してたんだよ」
「やあマルコ、お久しぶりだね。何だか心配かけてゴメン。実は、先月の月初に父さんがギックリ腰をやっちゃってね。1ヶ月ほど休学の許可をもらって実家の農園の手伝いに行ってたんだよ」
マルコの知り合いだったのか。実家の手伝いで休学とは大変だな。ん? でもなんか違和感あるな。
「タツロウ、紹介するね。彼はノア。俺たちと同い年で、聖職者クラス所属だよ。教室で会うことは少ないんだけど、俺とは寮の部屋を時々行き来する仲なのさ」
そうなのか、マルコにとってはかなり親しい友人なんだな。じゃあオレにとっても、これから付き合いが多くなるかもしれないというわけだ。
「オレはタツロウ・タカツキー、タツロウでいいよ。ウチはドラゴベルク領内の貧乏貴族だけど、良かったらこれから仲良くしてほしいな」
「ノア・バウアーだよ。出身はバンデリア侯爵領だけど、ウチの周りは農園と放牧地ぐらいしかない田舎なんだけどね」
選帝侯の領地出身か……。一瞬、バンデリア侯爵のオッサンの顔を思い浮かべてしまったが、ノアには関係ないのだから、この場では忘れよう。
「そうだ、家格で言えば、ウチは先代のじいちゃんの晩年に自営農民から地主になって領主認定された成り上がり貴族なんだ。だから僕が上から目線で話すとかないし、むしろ僕の方から付き合いをお願いするよ」
なるほど、やっとさっきの違和感の正体がわかった。貴族は普通は領地経営はしても、自分たちで農作業なんてしない。でも自営農民から成り上がったばかりなら、まだ自分たちでやってる作業があるのは、おかしなことでもない。
それにしても、ノアは謙虚で人当たりも良く、それでいてしっかりとした受け答えをするいいヤツだ。
「もちろん、今日から友だちさ。よろしくな」
そう言ってオレは右手を前に出した。ノアも右手を出して来て握手を交わす。
「よろしく。ところで、君があのタツロウ君だね? 決闘ですごい勝負して勝ったって聞いてるよ。僕も見たかったな〜」
なんだ、あのことを知ってるのか。いまだに校内で話題にする奴らがいるんだな。でも褒められて悪い気はしない。
「いやあ〜、ギリギリの勝負だったし、見せる程のことでは……」
「そうそう、剣の腕前なんてまだまだだったし、あたしの方が見ごたえのある試合ができたかもね」
「はは、サンドラも久しぶり。相変わらず元気そうで何よりだよ」
話に割り込まれてしまったが、実際人に自慢できるほどの戦いぶりじゃなかったし、話をウヤムヤにできたのでまあいいか。
「ところでマルコ、君のクラスはもう代表を決めてるのかい?」
「ああ〜、あれね。実は、みんなその話題に関心が薄くて、何も決まってないんだよ」
「でもそろそろ決めとかないと準備が間に合わなくなるよ」
一体なんの話をしてるんだ? まさかこの前みたいな決闘をクラス対抗でやるのか? オレはゴメンだよ。
「違う違う、もっと優雅で、みんなで楽しめるものだよ。俺たちは初めてだけど、この学校で毎年恒例の行事、『神学校杯 馬術競技大会』が3週間後に開催されるのさ」
馬術って、馬に乗ってコース内を歩き回ったり、障害物を飛び越えたりしてる、あの競技か。やる気は無いが、どんなことをやるのかは気になるな。
おや、いつの間にか時間休憩は終わっていたようだ。先生が入ってきて、みんな席に着こうとしている。ひとまず話を中断し、オレたちも授業をきちんと受けることにした。




