26.期待と不安の再登校
朝が来て、いよいよ再登校日となった。ここまでの3日間はとても長く感じた。
決闘直後は寮内で持て囃されたが、昨日の夕食時には寄ってくる奴はほとんどいなくなり、今日の朝食は以前と変わらないくらい静かに食事できた。
校内での勝負事に勝って出た人気なんてこんなもんだな。オレはもう鬱陶しく感じてたので今の方がいいんだけど、気がかりなのはマルコが声をかけてくれることも無いってことだ。姿も見かけないし、避けられてるのかな。
でも無理はない。覗き事件の疑いは晴れたとはいえ、転入して1週間で悪目立ちするような男とは距離を置きたいと考えても仕方のないことだ。そもそも自分の立場からすれば、友達なんて作らない方がお互いのためかもしれん。
それはともかくとして、そろそろ校舎に行くか。今日の登校はいつもより早い時間なので、校舎まで歩く道で会ったのは数人だ。そのせいか、教室内に入る時にどんな雰囲気になるのか、楽しみな反面、怖さも感じてる。
校舎に入るとすぐに生徒指導室に向かった。正確には先日に先生たちから事情聴取された部屋だが、勝手にそう呼んでる。今日は必ず早めに来るように言われているのだ。
ドアの前に立ち素早く3回ノックしてから挨拶して名乗ると、アーベル先生の、どうぞお入りなさい、という声が聞こえてきた。
「失礼します」
そう言いながらドアを開けて入ると、アーベル先生とゲルツ先生が奥の椅子に座って待っていた。
「おはようございます、タツロウ君。先日の決闘、改めて勝利おめでとう。疑いが晴れて私たちも嬉しいよ。まあ、そこに座り給え」
オレは手前側の席に座り、この前の理事会で尽力してもらったことに礼を言った。
「いや、こちらこそ決闘裁判までしか持っていけなくて申し訳ないと思っていたんですが、本当に素晴らしい闘いぶりでした」
アーベル先生に続いてゲルツ先生からも評価してもらった。
「正直、魔法の基礎が出来ていないタツロウ君の勝ち目は薄いと思っていた。あとは何とか停学の期間を可能な限り短く出来ればと考えていたんだ。でも立ち回りの上手さと投げ技で勝つとは、驚かされたぞ」
「はい、とにかく死にものぐるいで闘って、ようやく勝てました。決闘裁判という仕組み自体は、今でもよくわからないですけど、潔白は証明できました」
オレは個人的には決闘裁判なんて非合理的な決め方はどうかと思ってる。何より、実際に体験して大変なんてもんじゃなかった。負けられない一発勝負は心身ともに受けるプレッシャーが半端ない。
もしオレが皇帝に即位できることがあったら、真っ先にこの制度を帝国から抹消してやりたい。が、今は出来もしないことを言うのはやめておこう。
先生たちは少し苦笑いしたあと、アーベル先生から本題を話してきた。
「再登校初日でいろいろ不安もあるでしょう。教室の雰囲気ですが、昨日辺りからやっと落ち着き始めました。クラスメイトには改めて君が無実であることを説明してますから、以前と同じように過ごしてもたぶん問題ないとは思いますが」
ここまで言ったあとに先生は一息ついてから話を続ける。
「事件のことで謂れのない事を言われたりしたら、先生にすぐ相談してくださいね」
先生の気遣いはとても嬉しい。お陰でだいぶ不安が無くなってきた。続けてゲルツ先生から質問を受ける。
「決闘で見せたステップだが、あれも風烈弾のように地元の先生に習ったのかな?」
「あれは、自分の飛行魔法ではとても通用しないので、前日に自分で思いついてやってみました。だから移動距離やスピードを上手くコントロール出来なかったです」
前世でやったゲームから思いついたと言ったところで信じてもらえないだろうし、これで誤魔化すしかないな。
「自分でか……。君は天才なのかそうでないのかよくわからないな。ああいうのは学校では教えてないが、実戦で似た動きを身につける者はたまにいる」
技自体はそれほど難しくないし、飛行中にサッと回避したい場合に自然と出来る奴もいるんだろうな。
「ただ、あの動きに慣れると飛行魔法の習得に支障があるので、悪いが使用禁止にさせてもらう。あと、他の学生に教えるのも駄目だ」
え、何人かにはちょっと教えちゃったけどな……。それを素直に言うと、残念な表情で
「そうか、仕方ないな……。実習で見かけたらこちらから注意するから、これ以上は教えないように。しつこくせがまれたら、私の名前を出しても構わないから」
と指示を受けた。基礎の前に応用技を中途半端にやってほしくないということだな。学校だからそういう考えなのもしょうがないか。
「タツロウ君、ゲルツ先生はこんなこと言ってるが、君には期待してるんだよ。指示をよく聞いて頑張ってくれ給え。さて、それじゃ教室に行きましょうか」
オレとアーベル先生は一緒に部屋を出て教室に向かった。他の学生も既に登校してきている。時々、通りすがりにオレの顔をじっと見る奴もいるが、気にするのはやめておこう。いざとなれば先生に相談するだけだ。
いよいよ教室に到着し、先生と一緒に入ると、教室内のざわめきが止まった。やっぱりなんか気まずいなあ。
「皆さん、おはようございます。早速ですが、タツロウ君が教室に戻ってきました。以前のように仲良くしてあげてくださいね」
先生に促されてオレも挨拶する。
「タツロウです。無事、この教室に戻ってこれました。改めて、これからもよろしくお願いします」
一瞬間を置いたあとで、教室内で拍手が起き、お帰りとか待ってたぞといった声も聞こえてくる。これほど嬉しいことは今までの人生で無かったかもしれない。
それはいいとして、どこの席に座ろうか。いつもの席にマルコとサンドラが並んで座っているのが見える。が、オレは何となく、最前列の周りに誰もいない席に座ってしまい、ここで礼拝の祈りを捧げた。
礼拝が終わって授業の用意をしてると、後ろから近づく2人分の足音が聞こえてきた。
「おはよう、タツロウ。どうしちゃったんだい、3日間でもう俺たちのこと忘れちゃったのかな〜?」
「まさか、まだ事件の事を気にしてるワケ? あたしを含めて女子全員、もうアンタのことは疑ってないわよ!」
聞き慣れた声で強烈に問い詰められた。だって、やっぱり隣に行きづらかったんだよ。
「いや、マルコは寮内でも全然声かけてくれなかったし、距離を置かれたかな〜、って……」
オレはオドオドした口調で言い訳してしまった。
「ああ〜、それはゴメン。だって、前も言ったけど、俺はヒューゴと仲良かったからね。どっちかだけ応援するなんて出来なかったし、決着後はアイツがすぐ退学しちゃったから、やっぱり心苦しくなって、自分の部屋で塞ぎ込んでてさ。でも誤解させちゃったね」
それはオレの方こそ気づかずにゴメン。
「そんなこと気にしてたの? もう〜、オトコのくせにウジウジしてんじゃないわよ!」
サンドラさん、それはハラスメントですよ……と言ってもこの時代の人には通じないか。
オレは2人に謝り、一緒にいつもの席に移動した。
「俺は見てないんだけど、凄い闘いだったんだって? ヒューゴに勝つなんて、ここの教室内でもほとんどの奴が難しいのに、尊敬するよ」
いや、まあその、照れるぜ。やっぱりアイツは同級生の中じゃ、かなりの強者だったんだな。
「当日に見てたけど、タツロウの剣の腕前はまだまだね。あたしだったら、ヒューゴなんて剣技でボコボコにしてやったのに!」
「ハハ、サンドラの家は騎士身分だからね。ヒューゴに勝てたかはともかく、彼女の腕前は相当なものだよ。そこらの男子じゃ、まず敵わないだろうね」
へぇ〜、そうなんだ。華奢に見える身体だけど、やっぱり騎士としてのDNAを受け継いでるってことなのか。
「そういうアンタだって、強かったじゃない?」
マルコもなのか。それならオレに技とか教えてほしいぜ。
「いやそれは、子供の頃の話だろ? よく相手させられたけど、その頃は俺の方が上手かったんだよ。でもウチは平貴族だし、その時が俺のピークさ。対称的にサンドラはグンと腕を上げて、今じゃ全然敵わないよ」
「まあね、あたしの伸びしろスゴイでしょ?」
なんだ、子供の頃の話か。でもこうやって2人の漫才を聞かされてると、ようやく完全に戻れたと安心出来たのだ。




