24.決着
睨み合っている間に考えたが、あれだけ息を切らしてるということは、ヒューゴはもう飛行魔法をまともに使えないんじゃないか?
飛び続けるのはかなりの集中力が必要だし、空中で攻撃魔法まで連発したら、体力を相当消耗してるはず。地上戦ならさっきよりも反撃のチャンスは増える。
とはいえ、オレも走り回って疲れてるし、先週痛めた左足の動きが鈍ってきた。これ以上長引かせたくない。こちらから仕掛けるしかないな。
構えを解いて、ヤツを中心に時計回りにゆっくり歩いて距離を詰めていく。今のところヤツは動かず構えを崩さないが、こっちはすぐにステップで避けられるように準備はしている。
そろそろ、お互いの間合いに近づいてきたな。歩くのをやめて構え直す……フリをして半身で右手だけで木刀を打ち込む! やり方がセコいって? 自分の命運がかかってるのに、そんなこと気にしてられんのだよ。
カシーンと木刀同士がぶつかる音が響く。アッサリと見切られて受け止められた。でもそれ以上の反撃はない。やっぱり、魔力と体力の回復を狙ってやがるな。
すぐに間合いを取って、今度は横ステップで回り込みながら隙を見て打ち込み続ける。ヤツはこっちの動きについてきて防御するが、これで回復を遅らせられる。
しばらくガシッガシッと打ち合う音が続いたが、オレのステップが大きすぎて間合いが少し開くと、ヒューゴが少し振りかぶって反撃してきた。
「うっとーしぃんだよ、ボケが!」
ヤツは叫びながら、刀身に風を纏わせた木刀を横気味に振り下ろす。だがこの程度の攻撃、少しバックステップすれば簡単に避けられるぜ。
だが、サッと攻撃を避けて反撃、というところで、ワンテンポ遅れて乱れた気流が襲ってきた。それほど強い攻撃ではないが、不意を突かれて息が詰まり、思わず顔をそむけてしまった。
「バカが、ひっかかりやがった! これで終わりだ!」
ヤツは得意げな顔をしながら、踏み込んでオレの頭めがけて打ち込んできた。
ガッ!
鈍い打撃音とともに、地面に血しぶきが飛んだ。オレの左側の顔面に血が滴り落ちてくる。野次馬たちの方から、キャーッ! と女子の悲鳴が上がる……いや、ちょっと男子の声も混ざってたな。ヒューゴは勝利を確信したのか、追撃をしてこなかった。
「タツロウ・タカツキー! まだ闘えるか?」
審判のロレンツ先生から確認が入る。オレは先生に顔を向けて片手を上げながら答えた。
「はい、頭に掠っただけです。全然いけます」
実際、何とか直撃は逃れたが、それでも痛いし、血がなかなか止まらない。でも動けなくなるまでは諦める訳にはいかない。さっきより間合いを離して構え直す。
「……うむ、続けられそうだな。では、試合再開!」
ヒューゴから、チッと舌打ちが聞こえてきた。向こうもここで仕留め切れなかったのは悔しいだろうな。
さて、続けるのはいいがどうしたものか。オレにはヤツを一撃で仕留められそうな技がない。近距離でかく乱して隙を窺う戦法も、さっきみたいに強引に間合いを離されて反撃される。
それに、グズグズしてると魔力と体力を回復されて、今度こそどうしようもなくなる。オレは懸命に、ありったけの知識を動員して知恵を絞った。
よし、これでいこう。オレはある戦法を思いついた。これでだめならどうしようもない。幸い、ヒューゴはまだ回復優先で構えを崩さず、オレの出方待ちだ。今しかない、これがオレの最後の攻撃だ。
オレは自分の木刀に風を纏わせ始めた。ヤツはそれを見て、オイオイ真似すんなよ〜、と嘲笑気味に挑発してきた。うっせー、黙って見てやがれ。
纏わせたところで、左足を踏み込んで木刀を振り下ろす。左足に少し痛みが走るが、我慢だ。
振り下ろしたあと、少し遅れて乱れた気流がヤツに向かっていく。が、さっき攻撃したときより間合いが離れてる上に、はっきり言って威力が弱々しい。
「なんだこれ、そよ風だぜ。丁度涼しくって気持ちいいや」
なかなか腹立つ言い方だが、調子乗って隙だらけだ。オレは飛行魔法を少し使って2メートル程飛び上がって、木刀に縦回転を加えながら、ヤツの方に思いっ切り投げつけた!
風を纏わせたままの木刀は地面に当たると、思ったより不規則なバウンドをしてヤツに向かって飛んでいく。1度目は高く跳ねたが、2度目は丁度顔付近に少し鋭角に跳ねていった。
ヒューゴのヤツ、予想外の攻撃で焦った表情になった。だがヤツも持ち前の反射神経で反応してくる。咄嗟に左に回避しつつ、左手で顔面をガードしながら、跳ねてきた木刀を右へ払い除けた。
そのタイミングでオレはヤツの左横に着地した。イチかバチか、空中でフロントステップしてみたのだ。うまく狙った場所に素早く移動できるか不安だったが、ドンピシャの場所だ!
が、フロントステップで身体が後ろから強く押されたので、一瞬気が遠くなってしまい、まだボーッとしてる。
「テ……テメェー! どうやってここに!」
ヤツが驚いて上げた大声で、ハッと意識を取り戻した。気力を振り絞って最後の勝負をしかける。ヤツが振り向きざまに攻撃してきたタイミングで、その左腕を右腕で巻き取りつつ、半回転しながら屈んで腋の下に首を潜り込ませて、両膝を着いた姿勢のまま相手の片足を左腕で抱え込む。
相手の身体が肩に乗り、重心が前に移動したことを感じたところで右手を引いて両膝立ちとなり、左手で足を持ち上げると、ヤツの身体は前に回転しながら宙に浮き、背中から地面に叩きつけられた!
「あだ! 痛ってーな、クソ! よくもやりやがったな……」
ヒューゴは痛がって文句を言いつつ立ち上がってこようとしてる。そして顔を上に向けたところで、木刀の剣先が喉元に突きつけられた。その木刀を持っているのは、当然オレである。
「そこまで! 勝利者は、タツロウ・タカツキー!」
ロレンツ先生により、勝利者がオレだと宣言された。野次馬たちからも大歓声が起こり、まるでスポーツのスタジアムのような騒がしい雰囲気となった。ただ、よく聞くと『なんだよ、つまんねー終わり方だな』という声も聞こえてくる。
すごい必殺技とか期待してた連中には、地味な投げ技で決着というのはツマランだろうな。だが、何度も言うが、オレとドラゴベルク家の命運がかかった決闘だったのだ。反則でなければ、どんな手をつかおうが、最終的に勝てばよかろうなのだ。
オレは木刀を引っ込めて、ヒューゴの横に置いた。これはヤツが投げられた時に手から離してしまったものだ。オレは自分の木刀を囮に使うしかなく、もし固く握られたままだったら、決着はどうなってたかわからない。
ヒューゴは悔しさと情けなさが入り混じったような表情で俯いたまま、微動だにしない。
オレは、勝利した喜びよりも、安堵感で一杯だった。




