20.濡れ衣
オレは懸命に、覗きなんてやってないと先生たちに訴えた。やってないものはやってないんだ。
「まあまあ落ち着いてくれ給え、タツロウ君。本音を言えば、私もゲルツ先生も、君がそのようなことをする人ではないと思っているんだけどね」
じゃあどうして疑いがかかってるんだよ?
「一つ目に、女子生徒たちの目撃情報が、犯人の人数が3人か4人かで分かれていること」
混乱した状況では見間違いもあるだろう。現行犯が3人捕まってるなら、それで話は終わってるじゃないか。
「もう一つなんだが、ヒューゴ君たちの証言なんだけどね。『自分たちはタツロウにそそのかされただけだ。アイツはバレそうになると、自分たちを置いて一目散に逃げていった』と主張してるんだよ」
そんなバカな話があるもんか! オレは3人とはつるんじゃいないし、犯行時間帯は屋上に洗濯物を取りに行ってたんだから、苦し紛れのデタラメだ。オレを主犯にして罪を擦り付けようとしている、濡れ衣もいいところだ!
「君の気持ちもわかるんだけどね、これも学生の証言になるわけだから、私たちも無視することはできない。それで、君の当時の行動を聞かせてもらったんだよね」
それじゃあ、疑いは晴れたんですよね? アリバイだってあるんだし。
「う〜ん、状況証拠的には、必ずしも君に有利なことばかりじゃないねぇ。特に、屋上に行ったことを証言できる第三者がいないのがね」
「アーベル先生、あとはこちらで説明します。タツロウ君が食堂を出て階段に向かった時間帯が、丁度ヒューゴ君たちが玄関から外に出た時間帯と一致するんだ」
うわぁ、最悪のタイミングで一致している。これじゃオレが階段に合流しに行ったみたいに思われるじゃないか。
「彼らは1階と2階の中間の踊り場に隠れて、管理人室の監視窓から、管理人が席を外す瞬間を狙って外に出たらしい。だから管理人のキンケルさんは、何人が外に出たか見ていない」
この世界には監視カメラなんてない。つまり、オレがアイツらとつるんで一緒に覗きに行ったという疑いを晴らす手段がないのだ。
「あとは、君がキンケルさんと衝突したときの状況だ。支援要請を受けてキンケルさんが出ようとしたタイミングで、丁度君が通りがかったこと。そして、衝突後に急いで部屋に入ったこと。この状況から、君がこの時に女子寮から戻ってきて部屋に逃げ込んだんじゃないかという疑いが持たれている」
いや、オレは玄関から入ったんじゃなくて屋上から降りてきて、管理人室の前を通ったんですよ! と強く説明した。でも先生たちは、わかってるけど、どっちから来て管理人室の前を通ったかは証明するのが難しい、と返された。
これでは本当に無実の罪を着せられかねない。潔白を証明したくても、状況はことごとくオレに不利になってる。オレにできるのは、とにかく無実だと訴え続けることだけだ。
最後に、実家へは連絡しておこうか? と聞かれた。こんなことでオヤジに迷惑と心配をかけたくない。オレは即座に断わった。先生たちは残念そうな表情になったが、こっちにはそうはいかない事情があるんだ。
事情聴取が終わったあと、今日はもう寮に帰っていいよ、とアーベル先生に言い渡された。事実上の謹慎処分だ。だがそれも仕方がない。教室に戻っても、呼び出された時点で、みんなは既にオレも犯人の一味かと疑ってるだろうし、混乱させるだけだ。
部屋を出ようとしたところで、先生たちには『状況は良くないが、手は尽くしてみる』と言ってもらえた。今はそれで好転することを願うしかない。お願いします、と頭を下げてからドアを閉め、寮に帰った。
寮の玄関から管理人室の監視窓の前に行き、グーテンベルクに声をかけた。寮についたらまず管理人に声をかけるように先生から指示があったのだ。
「大変でしたね。疑いが晴れるまでは、自室で大人しく過ごしてください。食事は我々が食堂から持ってきます。トイレに行く際は、必ず先に管理人室に来てください」
トイレに行くのも監視付きというわけだ。わかりましたと言ってすぐに部屋に入ってしまった。落ち着いて会話できそうにないからだ。
入ってすぐに制服を脱ぎ捨てて着替えたあと、ベッドに寝転んで塞ぎ込んでしまった。せっかく楽しくなってきたところなのに、もう教室には戻れないかもしれない。いや戻れても、マルコもサンドラも、もう友達ではなくなってしまうだろうな。
管理人から差し入れられた昼食も、とても食べる気になれない。残すのはもったいないので無理矢理口の中に押し込んだが、吐き気が酷くて困った。
それから夕方まで鬱々として過ごしていたが、ドアをノックする音が聞こえたので、なんとか立ち上がってドアを開けに行く。ドアの前には、グーテンベルクが立っていた。
「タツロウ殿、学校側からお話があります。応接室に来ていただけますか」
ようやく処分が決まったか。オレは当然無実なのだが、結果を聞くまでは不安しかない。だがとにかく行かないと始まらない。
グーテンベルクの後について歩き、同じ1階の奥にある応接室の前に立つ。彼は少し咳払いをしてからコン、コン、コンとゆっくり目の丁寧なノックをしている。
「寮の管理人でございます。本人を連れてまいりました」
口調もいつもより更に丁寧だ。かなり偉い人が来てるんだろうか。
入りなさい、と渋めの男の声が聞こえると、グーテンベルクは失礼いたしますと返答し、ドアノブを慎重に回してドアが開けられた。中には司教の服装をした4〜50代くらいの男がソファに腰を下ろしていた。
「タツロウ殿、挨拶をお願いします」
緊張のあまり、それすら忘れていた。
「タツロウ・タカツキーです。本日はよろしくお願いします」
なんかもっといい挨拶はないのかと思いつつ、咄嗟に出せたのは何の変哲もない挨拶文だった。
「わたしは、当神学校の理事を務める、シーラッハである。まあそこに座りなさい。そんなに緊張せずとも良い」
理事にまで話があがってるのかよ! かなり大事になってるじゃないか。でもこんな破廉恥な事件、キチンと処理しないと貴族の親たちが煩いだろうから、これで当然か。
ありがとうございますと返答し、失礼のないように慎重にソファに座った。最初の当たりはあまり厳しくなかったし、これはオレの無実が認められたんじゃないかな。
しかし、オレのそんな期待とは全然違う結果が、このあと理事から説明されることになるのだ。




