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02.皇帝家の跡継ぎだ

 マサオに腹を刺されてそのまま気を失ったオレだが、その後に意識を取り戻すことが出来た。ただし、マサオんちや病院の中ではなく、転生した異世界で、だ。


 正確には意識を取り戻したのではなく、転生後の人生で10歳だった時に「前世の記憶を取り戻した」のだ。


 記憶を取り戻した当初は、前世と今がごっちゃになってわけわからん状態が続いて、まともに生活できなかった。


 でも幸いというべきか、オレは階段を踏み外して頭を強打していた(多分そのせいで記憶を取り戻した)のでしばらく安静となり、人にいろいろ前世の話を言ってもまともに受け取られずにすんだ。


 そのうち記憶と現状を徐々に整理したオレは、普段の生活に問題なく戻ることができ、それから5年が経過したのが現在だ。


 前世で異世界転生モノをいくつか読んどいてよかった……。でなければ、この状況が「異世界転生」だと気づかず、ただの狂人扱いされて人生終わってたかもしれない。


 さて、まず、オレの現世だが……、何と皇帝家の嫡男様、つまり跡継ぎだ!


 どうせ嘘だろう、ホントはショボい国の王様か辺境の貧乏貴族だろうって? いや違うね。この国は、この世界の古代に繁栄した帝国の後継国家であり、300近い諸侯、江戸幕府で例えれば大名みたいなもんを従えている、大陸有数の強国の皇帝なのだ!


 ちなみに国の名前は無い。古代帝国の栄光を受け継ぐ国だから、単に「帝国」と呼ばれているのだ。


 ところで、この国で皇帝位に就くには、300の諸侯たちの中から、最も有力な7家の大諸侯たちにて皇帝に推挙され、その7家による選挙で選ばれなければならない。


 そして、オレんちの家系は3代前、つまり曾祖父ちゃんの代に初めて皇帝に選ばれた。力ずくじゃなく、皆に認められて皇帝位を獲得したってわけだ。しかも2代目からは対抗馬もいない無風選挙で選ばれ続けている。


 オレはその後継ぎであり、いずれはこの国の諸侯や国民どもに大号令を掛けることになるのだ。


 神様ありがとう、転生先でこんな好待遇してくれるなんて。とは言っても、実は転生する前に神様に会ったわけじゃないんだけどね。


 オレが前世で読んだラノベみたいに神様と直接話したり、転生する理由とかその世界の説明とかは無かったなあ。薄らボンヤリとした記憶では、無限の暗闇の中で光を放つ何かから


「オマエハベツセカイニテンセイサセル」


 とか言われた気がするが、あれが神様だったのだろうか。ともあれ、オレは前世と違って幸福感に満ち溢れた毎日を送っているのだ。


 そして前世の記憶、これは俺が死ぬ直前に記憶してたことは大体思い出せている。そう、マサオに刺されたこともな……。


 確かに、オレはマサオんちのちょっとお高いジュースを勝手に飲もうとした挙げ句に瓶を割って台無しにしてしまった、それは悪かったと思う。でも、だからって腹を刺して殺すことはないだろう! あれは本当に、痛いなんてものじゃなかったんだぞ。


 でも、新しい世界に転生した今となっては、もはやお互い謝ることも、許し合うことも出来ない。出来ないことにこだわるのはやめておこう。


 オレには、皇帝となる未来が待っているのだ。


「ルドルフ様、講義のお時間となりました。先生がお部屋でお待ちしております」


 ルドルフ、それが現世でのオレの名前だ。この名前の由来は狼を意味する言葉だそうだ。前世と少しつながりを感じる名前を、オレはとても気に入っている。


「わかった、すぐ行く」


 時間を知らせに来た使用人に返答し、オレは先生が待つ部屋に向かった。オレの代で皇帝に選ばれないなんて末代までの恥だからな、勉強しておかないと。


 今日の講義は魔法の座学だ。オレは実技の方が好きなのだが、仕方ない。


 そう、この世界には魔法があるのだ! 実際に目の当たりにすると、スゲー便利だがちょっと怖い。


 この世界の魔法は、大まかに分けると火・水・土・風の4大元素で構成されている。シンプルでわかりやすいので助かる。


 ちなみにオレの属性は「風」だ。火属性のほうが物語の主人公感があって憧れもあるが、オレは皇帝になる男、勇者とかじゃないからそれほどこだわりはない。魔法は自分の身を守る程度に使いこなせればよいのだ。


 それに実際使ってみると、風を操って攻撃したり、空を飛んだり、応用範囲は広い。中でもオレが得意でこだわりを持ってるのが「風烈弾」だ。


 単純に言えば空気弾みたいなもんだ。指先に風を収束させてバンと撃つ感じ。飛び道具だから相手と距離をおいて攻撃できるし鍛えれば連射も可能。何より、玉座から座ったまま見下ろして撃ったりできるので「王が使う技」ぽくていい。


「ルドルフ様、今の話、聞いておられましたか?」


 おっと、自分語りについ気を取られてしまった。


「すまぬ、少し気がそれてしまった」


「そうですか…。貴方はドラゴベルク家のご嫡男、公の場では片時も気を抜くことがあってはなりません。この講義を公会議の場だと思い、気を引き締めて臨んでください」


 言い忘れてたが、「ドラゴベルク家」というのが我が家名だ。「ドラゴ」は「ドラゴン」の意味ではない言葉なのだが、それでも同じような響きのある家名、名前と合わせてお気に入りだ。


 ルドルフ・ドラゴベルク、順番は逆だが、オレの前世の名「龍狼」を常に思い出させてくれるから。


 ちなみにドラゴベルク家は皇帝家であると同時に自分たちの領地を持つ、いち諸侯でもあるのだが、皇帝を選挙で選ぶ権限を持つ7家の大諸侯は滅茶苦茶広大な領地を持っている。


 7家に比べたらウチの領地なんて猫の額ほどだけどな……。たぶん曾祖父ちゃんには選ばれるだけの人徳があったんだろう。


「申し訳ない。今後は気を付ける」


「そうですか、では講義の続きを……」


 学校で先生に言われると腹立つが、この世界での小言や注意は素直に従える。大いなる目標を目指していると、こうも気持ちが違うものなのだ。


 魔法だけでなく、一般教養に軍事、剣技など、学ぶ範囲は広いが、どれもソコソコにやってる。全部マジメにやってたらシンドいし、オレは皇帝になるのだから、それぞれのことは専門の家臣に任せればいい。


 社交の礼儀作法はどうしたって? あんな面倒くさいことまともにやってられるか。皇帝は偉そうにふんぞり返るもんだろう。他のこともそうだが、そんな一生懸命勉強しなくても誰からも怒られないし、皇帝としてはそれで十分なんだろう。


 最近は、オヤジ……いや皇帝陛下たる父上の公務に同席したり、書類にハンコ押す雑用みたいな仕事を手伝ったりすることが増えてきた。


 オレも15歳、前世なら中学を卒業する年齢だ。一人前となるべく徐々に準備が進められているのだろう。


 こうして忙しい日々を送るオレだが、自分が何も知らずに調子に乗っていたことをあとで思い知らされる事になるのだ。

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