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名ばかり皇帝の跡継ぎに転生させられたけど、オレはこのまま終わるつもりはない  作者: ウエス 端
神学校転入編

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17.街へお出掛け

 寮に帰ってから服を着替える時に改めて全身の傷を確認した。あちこち擦り傷、切り傷だらけだ。特に左太腿の内出血が酷く、まだズキズキする。まずは洗面所でキズ周りの汚れを拭き取り、横になってしばらく休む。


 そうやって休んでる間に下級貴族側の入浴時間が来た。いや、正確には入浴時間が分けられているのではないのだが、子爵・男爵階級の連中がいなくなる目安の時間を教えてもらったので、それまで待っていたのだ。


 足を少し引き摺りながら風呂場に行き、着替えて中に入ると、体を洗っているマルコの姿が見えたので横に座った。


「どうしたんだ、傷だらけじゃないか。それにその足、ちょっと酷いね。実習で?」


 この状態を見たら誰でもそう聞くだろうな。


 オレは周りを見渡してから答えた。風呂場で余計なトラブルは避けたいからな。


「そう、ヒューゴの奴にさ。アイツちょっとヒドくないか? 昨日通路でぶつかったことをいつまで根に持ってんだよ」


 ちょっと愚痴が入ってしまった。今日はさすがに言わずにいられなかったのだ。


「んー、根に持ってるというか……、まあ、最近ちょっと変になってるというか」


 意外な答えが返ってきた。最初からああいうDQNなんじゃないのか?


「いや、俺たちが入学した当初は、気が短い所はあったけど、よく冗談言ってみんなを笑わせてくれる、愉快な男だったんだけどね。だけど2、3ヶ月前くらいから、段々言動が荒っぽくなって、人に威嚇したりするようになったんだよね。だから最近は、多くのクラスメイトがアイツとは距離をおいてる」


 ふーん、入学してから少し遅れてデビューしたってことか。まあよくある話だ。前世のオレのことを考えるとあまり偉そうなことは言えないが、苛立ってるからって他人に当たらないでほしいな。オレはとにかく面倒な騒ぎを起こすわけにはいかないのだ。


「どうしても困ったら、俺に相談してくれよ。アイツとは仲がいい方だから、少しは力になれるかも」


 マルコの申し出はありがたいが、しばらくは大人しくしてるだろ。みんなの前で一本取ってやったからな。


 あちこちの傷に沁みるのを我慢して体を一通り洗い終わり、マルコと別れて先に風呂場を出た。この状態じゃ、とても浴槽に浸かれない。


 さっさと夕食を済ませて部屋に戻り、薬を取り出して全身の傷に塗りまくった。


 もう疲れてクタクタだ、早く寝よう。



 それから週末までは、取り立てて話すほどのことは起こらず、穏やかに授業を受けて過ごすことができた。傷もだいぶ癒えてきて、左足にまだ少し痛みが残ってるだけだ。あ、魔法実習は相変わらずゲルツ先生に基礎ばかりやらされたけど。


 そして明日はようやく週一回の休息日だ。前日、つまり今日の授業は午前中で終了なので、一日半ゆっくりゴロゴロしてやる……と言いたいところだが、そんな余裕はなさそうだ。


 オレに限らず使用人のいない学生は、溜まった洗濯物や部屋の掃除、井戸から洗面用の水汲みとやるべきことは多い。その中でも真っ先にやらねばならない用事は買い出しだ。


 なぜなら、寮の食堂は、今日の夕食から明日の昼食までは休業となるのだ。なので、その間の食料や日用品を今日中に確保しておく必要がある。


 明日の昼間に買うなり、外食すればいいだろうって? 残念ながらこの世界の休息日は市場や商店のほとんどが休みだ。


 で、行くのはいいが、街への道筋や商店街の場所がよくわからないな……。今は昼食時、マルコが来たら聞いてみるか。と考えていたら丁度食堂にやってきた。


「午後から街に買い出しに行きたいんだけど、道とか場所を教えてくれないかな」


「それなら俺も行くから、今日は一緒に行こうよ。人数が多い方が楽しいし」


 いつもありがとうマルコ、恩に着るぜ。そのうち何かお礼しないとな。


 食堂から出て一旦部屋に戻り、玄関前で合流して学校の正門に向かう。さっきのセリフからすると、他にも一緒に行く奴がいるんだろう。『アイツら』以外は誰でも歓迎だ。


 正門に近づくと、その傍らで待ってる人影が見えた。なんだ、一人だけか……んっ? あれは女子じゃないのか? それもなんとなく見慣れたシルエットだ。頭の両側に肩まで垂らした髪の毛が見える……。


「待たせてごめん、サンドラ!」


 ああやっぱりだ。まだ少し距離があるところでマルコが大きな声で呼びかけると、俯いて待ってたサンドラがこっちを見て


「ううん、ぜんぜ……」


 と嬉しそうに否定の返事を言おうとしたところで怪訝な表情を浮かべて絶句してしまった。


 あちゃー、これはマズいところにきてしまった! しかしマルコは構わず近づいてさらに言ってしまう。


「今日はタツロウを街に案内しようと思ってね。一緒でもいいだろ?」


 今度は眉間に皺が寄りだした。もう帰ろうかな、オレ。


「ど、どうぞ、い、い、いいわよ。あらタツロウ、こんにちわ」


 歓迎の言葉とは裏腹に、顔には多数の引きつりが確認できる。今さら断るのも怖いのでこのまま行くけど、次回からはマルコとは一緒に街に行かないことにしよう。


 このあとサンドラはマルコの足を強く踏みつけてから街の方角へ歩き出したのだった。


 ちなみに、この神学校は男女交際そのものは問題ない。互いの部屋に行き来しないのはもちろん、門限厳守や外泊禁止など守るべきところを弁えていれば咎められることはない。


 普段は放課後の外出は事実上出来ないので、下級貴族の連中は街への買い出しをデート代わりにしてるようだ。爵位持ち家の連中は、むしろ外出する用事がない(用事は基本的に使用人がやる)ので、こういうことは逆に窮屈だろうな。


 ま、それはそれとして、このケイン大司教領は大河川沿いで大きな港も押さえており、帝国内の物流の中心拠点の一つだから、街は当然活気に溢れて大繁栄している。早く街に着かないかな、楽しみでしょうがない。

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