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名ばかり皇帝の跡継ぎに転生させられたけど、オレはこのまま終わるつもりはない  作者: ウエス 端
神学校転入編

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16.ざまぁ

 さて、対峙したはいいものの、ヒューゴの奴はどれぐらいの強さなんだろうか。親が騎士階級だから剣技はそれなりに自信持ってるんだろうけど。でなきゃ、自分から絡んできたりはしないだろう。


 あ、先に言っとくが、この世界での「騎士」は前世のオレ、つまり現代人が思い浮かべるような「ナイト」みたいな感じとは違う。


 わかりやすく言えば、戦場で実際に前線に出て戦う戦士たち、つまり下級貴族の中で馬に騎乗して戦う騎兵たちが騎士階級なのだ。


 ナイトっぽいのは爵位持ちのエリートで剣技に優れた奴らがそれに当てはまる。具体的には諸侯の親衛隊とか近衛師団の連中だな。


 ウチにも当然いるんだろうって? いやいないよ、もちろんオヤジの護衛はいるが、隊とか師団なんて大げさなものじゃない。ちなみにケイン大司教たち選帝侯はスゴいの揃えてるらしい、知らんけど。


「それでは稽古始め!」


 しまった、ロレンツ先生の掛け声だ。慌てて木刀を構える。とりあえず向こうの出方を窺おう。


 ヒューゴも木刀を構えた。と思ったら、鋭い踏み込みで一気に間合いを詰めてきた! 少しメタボ体型のくせに結構スピードが速い。ヤバい、油断した。


「おらあああああ!」


 うわっ、オレの頭に向かって思いっ切り振り下ろしてきた! オレは無我夢中で木刀を頭上に構えて受け止めた。


 バシィィィッ!


 まるで木のバットでボールを芯で捉えたみたいな強い音がした。オレは両手でなんとか木刀を支えているが、ギシギシと音を立てながらヒューゴが押し込んでくる。こんなのまともに当たったら、ひどいケガしてたかもな。


 防具はしてないのかって? もちろんしてるよ。でも剣道みたいなのではなく、頭や胸、肩と手首などの要所をカバーするだけの革製パッドみたいな物だ。多少は衝撃を和らげてくれるが、思いっ切り打ち込まれたら防ぎきれない。


「よく受け止めたな。でもマグレは何度も続かねぇ。うらっうらああ!」


 ヒューゴは続けて激しく打ち込んできた。上段だけでなく袈裟斬りや胴切りも混ぜてきたが、オレは何とか全て防ぐことができた。


 自分でも驚いてるが、そういや、まだウチで剣技の先生に教えてもらってた時にやらされた、ひたすら単調な型の稽古の中に、さっきやった受け技が入ってた。知らないうちに防御の基本が出来てたんだな。


 なかなか攻撃が当たらないので、ヒューゴの奴、顔にイライラが出始めてきた。このまま防御し続ければ反撃のチャンスが出てくるかも……と思った矢先、後ろからドンと体を突かれて前につんのめりそうになった。


「おっと、当たっちまった、すまんな。へっへっへ」


 チラッと後ろを見ると、朝ヒューゴの隣にいた取り巻き2人だ。こいつら、稽古の振りして邪魔しにきやがったな。


 と、しまった、隙を見せてしまった。そう思った瞬間、前から攻撃が来る気配を感じた。


「おらあああああああああっ!!」


雄叫びと同時に思いっ切り上段から振り下ろされた木刀が迫ってきた。受けきれる状況じゃない、オレはとっさに右に避けたが、避けきれずに左太腿に強烈な一撃を食らった。


 鈍いゴツッという音とともに凄い痛みが左足に広がる。


「痛ってええええ!」


 思わず叫んでしまった、なんせ防具無いとこだからな。ズボンで患部の状況は見えないが、たぶん酷く内出血してるだろうな。


「大丈夫か。お互い熱くなったのかもしれんが、防具の無いところに打ち込むのは稽古になっていないぞ」


 先生が様子を見に来て注意を受けた。そうは言われても、オレは一方的に打ち込まれてるんだけどな。それに……


「後ろの2人に押されたところを打ち込まれたんです!」


 と状況を先生に伝えた。さすがに我慢できなかったのだ。


「いや、稽古に夢中で後ろにいるのに気が付かなかったんですよぉ」


「僕が振り下ろし始めてからソイツが後ろとぶつかってよろけたので、途中で止められませんでした」


 こいつら、いけしゃあしゃあと見え透いた言い訳しやがって。だがワザとという証拠はない。それにしても、ヒューゴの奴、先生の前では一人称が「僕」だし大人しい口調で話すんだな。相手によって態度変わり過ぎ。


「そうか、でも安全に注意して稽古するように。タツロウ君はこの後続けられますか?」


 左足はまだズキズキするし、もう休ませてもらおうかとも思ったが、先生の後ろでニヤついているヒューゴの顔を見て考えが変わった。


「はい、まだいけます」


 そう言いながら構えを取り、ヒューゴを睨んだ。


 ヒューゴはまた苛立った表情をしたが、今度はあまり積極的に打ち込んでこない。その代わり、取り巻きの2人に巧妙に邪魔させて、隙を見て防具の無いところを打ってきた。


 さっきみたいに思いっ切りではないが、当たればそれなりに痛い。やられっ放しはさすがに悔しいので時折反撃するが、余裕で受けられてしまう。反射神経もかなりいい。


 くそ、このまま終わってしまうのか。何か手はないか……。


 そうだ、ウチで習ってた時の先生が一度見せてくれたあの技、いけるかもしれない。


 そしてオレは取り巻きが邪魔してくるのを待った。早速後ろからこずいてきたが、ここは痛いのを何とかこらえる。


 その後すぐ、ヒューゴが間合いを詰めてきた。今だ!


 オレは振りかぶってザンッ! と思いっ切り木刀を打ち下ろした。


 しかし、ヒューゴはすぐ反応して詰めてくるのをやめてしまい、おっと、と言いながらあっさりかわした。


 万事休す……いや、実はこれが狙いだったのだ。


 すかさず剣を返して右足を踏み込み、手首を狙って思いっ切り振り上げた。


 バシッと小気味いい打撃音で技が決まると、ヒューゴは大きな声で


「痛っ!」


 と叫んで、木刀を手から放してしまった。


 そしてオレはヤツの顔の前に剣先を突き付けてやったのだ! その思いっ切り悔しそうな表情がたまらない!


「そこまで! タツロウ君は木刀を引きなさい」


 ロレンツ先生の待ったがかかった。仕方ない、だけど一矢報いてやったぜ。


「タツロウ君、今の技は最初に見せてくれなかったけど、隠していたのではあるまいね?」


 ちょっとキツ目の質問が来た。なんか昨日と同じパターンだな。ここは素直に答えておこう。


「いや、前に一度見せてもらっただけで、見様見真似でやっただけですよ」


「そうなんですか、シュヴァル・リターンをね……。タツロウ君、君はなかなか筋がいい。今からでも遅くない、魔法の実習なんかやめて、全て剣技に変えたらどうだい?」


 え、そんなすごかったのか、今の技。でもやっぱりオレは魔法の方が好きなので


「か、考えときます」


 と遠回しに断りを入れた。先生のガッカリした顔には、心の中で申し訳ありませんと何度も詫びた。


 ところで、シュヴァルはこの世界に生息している鳥で燕に似ている。リターンは返ってくるとかの意味だから……。


 燕返しか! 名前だけ知ってたが、あれがそうだったとは。知らないで夢中でやったから出来たマグレだよ、さすがに。


 ここで丁度授業が終わった。体中痛いよ。寮に帰って、ウチから持ってきた塗り薬を塗っておこう。


 この世界には保健室という便利なものはない。治癒魔法もあるが、使い手は多くない。さすがに重症だと先生が応急処置くらいはしてくれるだろうけど、基本は薬を塗るか、街中に行って医者に診てもらうかだ。もちろん診療代はかなり高い。


 ヒューゴの方をもう一度見ると、さすがに落ち込んだ様子で、取り巻きの奴らに八つ当たりしていた。


 ざまぁみさらせ! これに懲りて、しばらくは大人しくしてるだろう。というか、2度と絡んでくるんじゃねぇ。


 ようやく、今日はスッキリした気分で帰ることができる。明日からもこの調子でいきたいものだ。

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