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名ばかり皇帝の跡継ぎに転生させられたけど、オレはこのまま終わるつもりはない  作者: ウエス 端
演劇大会編

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124.メッセージ

「皆さん、作業中にすみません。少しの間だけ手を止めて、私たちの話を聞いていただけないでしょうか」


 大道具係の作業室で今日の作業をこなしていたオレの耳に、ソフィアの声が届いた。


 入院しているアンジェリカとドミニクへのメッセージの件だろう。


 先に話を聞いていたオレとレオナは、率先して作業の手を止め、ソフィアがいる方へ向いた。


 だけど来ていたのはソフィアだけではなかった。


 ハンナ先輩はまあわかるとして、驚いたことにイェルクまで一緒だったのだ。


 なんでアイツがメッセージを集めて回るなんて役目を手伝ってるんだ?


 まあ、たまたま稽古に出席していて、気まぐれでやってるだけかもしれんが。


 なんにせよイェルクという男は、名門侯爵家の長男という地位に胡座をかいてふんぞり返ってるようなチンケな奴ではないことだけは確かだ。


 で、オレが驚いてる間に説明は始まっていた。


 メインはソフィアで、ところどころハンナ先輩がフォローするといった具合に進められ、無事に賛同を得ることができた。


 但しドミニクへのメッセージは、あくまで任意での書き込みということだった。


 例の事件での裏切り行為が許せない人は書かなくていい、そういう判断となったらしい。


 説明が終わると、こちらから作業場を回っていくので作業を再開しても大丈夫です、とソフィアから伝えられた。


 それじゃあ続きをやりながら待つとしよう。


 ただ、問題は骨折した人差し指を添え木と包帯で固めている右手で上手く書けるのかってことだ。


 せめて読めるくらいの字を書かねーと。


「タツロウ! こっちに回ってきたよ!」


 レオナの声だ。


 余計なことを考えている間に、もう回ってきたのか。


 やれやれ、それじゃあ書きますか……顔を上げてソフィアに声をかけようとした時だった。


「俺はドミニク君へ贈る色紙を持ってきたのだが。タツロウ君はどうする?」


「うわああっ!」


 目の前で色紙とペンを差し出していたのは、なんとイェルクだった。


 ビックリした……。

 そういや、イェルクとこうやって面と向かって話すのは初めてだよな。


 間近で見ると、本当に爽やかな長身イケメンで、それだけでなく全身がキラキラと輝いて見える。


 なんか、男のオレでもクラクラと惹き込まれそうな雰囲気の持ち主だぜ……。


 ソフィアとハンナ先輩は……別の箇所で色紙を持ってるから、どうやら2手に別れて回っているようだ。


「タツロウ君? どうした、俺の話を聞いているのか?」


「えーと、すみません。作業に集中していたので」


「それはすまなかった。思っていたよりも仕事熱心じゃないか」


 それどーゆー意味だよ?


 と『演劇部の王子様』を相手に詰め寄るのは、さすがにやめておく。


 名門侯爵家の長男ともなれば、本人には悪気がなくてもついつい上から目線になってしまうのは致し方のないことだ。


「ハハッ、それはどうも。で、こちらがドミニクへ贈る方でしたっけ?」


「ああ、その通り。どうする? 君も被害者ではあるし、無理しなくてもいいのだが」


「……いや、書きます。最初からそのつもりでメッセージを考えてきたんで」


「わかった。スペースには若干余裕がありそうだから、少しくらい長くても問題ないよ」


 イェルクは右手でペンを渡しつつ、暗にドミニクへのメッセージが少ないことを示した。


 まあ仕方ないよな。

 下手したら退学処分になるかもしれない奴なんだから。


 オレは人差し指を使わずにペンを走らせる……というか1文字ずつゆっくりと書いていく。


 それでも途中でちょっと文字が暴れたみたいになってしまった。


「……イェルクさん、この字でも読めますかね」


「うーん。まあ、読み取ることはできるから問題ないと思うよ」


「ありがとうございます」


「こちらこそ君にはお礼を言わなければならない。ソフィアのことを……いや、あの事件に巻き込まれた女子たちを身体を張って守り通してくれた」


「あの時は、もうとにかく無我夢中の必死だったんで」


「……あの日、俺が稽古に出席できていれば、違う結果になっていたかもしれないな。タツロウ君が脳震盪で危険な状態になることも、あちらこちら怪我だらけになることも無かったかもしれん」


「どうですかね」


「タツロウ君とは一度じっくり話でもしたいものだ。その時は何かご馳走するよ、それじゃ」


 んー。


 感謝してくれているのは嬉しいんだけど……なんか、何かが引っかかる気がするんだよなぁ。


 いや、オレが勝手にイェルクに対してモヤモヤしたものを抱えているから、何でもそんな風に受け取ってしまうのかもしれん。


「タツロウ君。今度はアンジェにメッセージを書いてください」


 ソフィアの声。

 いつの間にかこっちも回ってきてた。


 もちろんアンジェリカへ伝える言葉は、既に決めている。


「それじゃあ書くぜ……でも既にみんなのメッセージで一杯だから書きにくい」


「ゆっくりでいいですから、気持ちを込めて書いてほしいです」


 オレはできるだけ文字が崩れないように気を配りながら丁寧に書いた。


「……短いけど、こんな感じでどうだろうか?」


「いいですね。とても喜んでくれると思います」


「あらあら。アンジェちゃんがこれを見たら、すぐに回復しちゃうかもね〜。なんだか面白い展開になりそう」


 ハンナ先輩が何を面白がっているのかよくわからんが、できるだけ早く復帰できればそれに越したことはない。


 で、結局、何を書いたんだって?


 オレが彼女とやりたいことを書いただけだよ。


「また一緒に踊ろうぜ!」


 まあさすがに今回の発表会には間に合わないだろうけど、またいつかダンスを踊る機会があればいいな。

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