122.2人で登校
うーん。
朝だが……よく眠れなくてダルい。
オレは、演劇部に留まるべきか、錬金術研究会に戻るべきか悩んでいるのだ。
両方掛け持ちすればいいじゃないかって?
演劇部の活動は忙しくて、別の活動をする余裕はほとんどない。
籍だけ置いても幽霊部員になるのがオチだ。
さて、まだ早めの時間だけど、目が冴えてしまったから登校しよう。
そしてゆっくりと歩きながら悩んでいたオレの背後から、突然声がかけられた。
「タツロウ君。おはようございます」
「わぁっ! なんだソフィアか」
「……何ですか、その大げさな反応は。まさか、私に対してやましい隠し事でも?」
「いや、そうじゃない」
彼女は真偽を確認するかのようにオレの顔をしばらくジッと見続けた。
別にいいんだけど、朝から見詰められるのはさすがに気恥ずかしくなってくる。
「……どうやら嘘ではないようです。もしかして悩みでもあるのですか?」
「……何でわかったんだ?」
「昨日の帰り道、私と話していてもどこか上の空といいますか。何か考え事をしているような感じがしたので」
「それだけのことでよく気付くな。女子って、みんなそんなに勘が鋭いもんなのか」
「……どうでしょう。少なくとも、誰に対してもいつも勘が働くというわけではないと思います」
「じゃあどんな相手になんだよ」
「……親しい相手、といいますか……」
ソフィアは何かを言いかけたのだが、それ以上は口をつぐんでしまった。
まあでも、彼女には少なくとも『親しいクラスメート、或いは部活仲間』とは思われているということだ。
ちょっと嬉しくなって顔が綻んできたのが自分でもわかる。
彼女にはそれがバレないようにして歩を進めたつもりだったが、結局はそれを見抜かれてしまった。
「……急に顔が綻んできたのは気になりますが、どのようなことで悩んでいるのですか? 私でよければ相談に乗りますよ?」
「いや、オレが自分で決めなきゃいけないことだから。気持ちだけ貰っとくよ」
「……そうですか。貴方が出した結論が、私にとっても良いものであることを祈っています」
うーん、部活を選ぶってだけなんだけどな。
でもソフィアが昨日言ってた不安を解消するには、結論は1つしかない。
いや、でもそれを基準に決めるというのもなんだかなあ。
そんなことでまた頭を悩ませているオレに付き合いきれなくなったのか、彼女は話題を別に変えてきた。
「ところで、タツロウ君にお願いがあるのですが」
「何だよ藪から棒に」
「実は、役者グループの女子たちの間で、アンジェにメッセージを渡そうって話が盛り上がっていまして。それで、今日は演劇部員全員に呼びかけるつもりなのです」
「……つまり、オレにもメッセージを書けと」
「まあ、単刀直入に言えばそういうことです」
「もちろん喜んで協力するよ。でもどうやって渡すのさ」
「明日、オリヴィア部長がアンジェに面会に行く予定ですので、メッセージを託そうと考えています」
「なるほど。みんなのメッセージを読んで、アンジェリカが少しでも体調が良くなればいいんだが」
「……貴方からのメッセージは特に喜ぶと思いますよ」
「どうだろうな」
オレは思わずトボけるというか、わからないフリをする言葉を返してしまった。
アンジェリカが喜んでくれるのは、実はもうわかっていることだ。
でもソフィアを目の前にして、それをそのまま認めることが何となく憚られた。
いや、なんか彼女のせいにしてるがそうじゃない。
オレはそう認めることを躊躇したのだ。
オレって、こんなに優柔不断な性格だったっけ?
前世でよく読んでいた少年マンガ雑誌に掲載されていたラブコメ作品で、延々と優柔不断な振る舞いをする主人公を、ダセェー奴だとオレはいつもバカにしてた。
でも今は笑えねえな……。
しばらく会話がないまま歩いていると、もう校舎が目の前の位置にまで来てしまった。
「オレは先に教室に行ってるから」
「……待ってください。何を慌てているのですか?」
「このまま校舎の中に入って他の演劇部員に見られたら、また不文律のことでオリヴィア部長に怒られるじゃねーか」
「それなら心配しなくて大丈夫です。昨日部長から、タツロウ君は不文律の対象外にすると言われましたので。それについて問題を起こしたりしないと信頼している、そう仰っていました」
「ああ、だからオレを見かけてすぐに声をかけてきたってわけだ。そういえば今更だが今日はレオナと一緒じゃないんだな」
「……ここ最近、彼女とは登下校でずっと行動を共にしていましたが、私も一人で登校したい日があるのです」
急にちょっと不機嫌気味になって、ぶっきらぼうな返答だったけど、何か変なことを言ってしまったか?
でも不機嫌はすぐに治まったので、そんなに深く考えなくてもいいだろう。
「それにしても、部長にそこまで認めてもらえたのは素直に嬉しい」
「ふふっ、この前の事件で貴方は頑張りましたからね。当然かと思います」
部長の言葉もだが、自分の事のように喜んでくれる彼女を見て、オレは余計に嬉しくなった。
そうして、今朝はかなり久し振りに、ソフィアと2人で他愛のない会話をしながら校舎の中を歩いて教室に向かったのだ。




