117.撃破で決着
左手の人差し指の先に魔力を集中して圧縮した空気弾の発射準備が完了した。
「食らいやがれぇ!」
空気弾を銃弾の如く、バスティアンの身体めがけてズキューンと撃った。
だが。
銃弾はバスティアンの手前で、ヤツが土属性の魔力で地面から出した土の壁3枚にバシィッ! と止められてしまった。
厄介な魔法を使いやがるぜ全く。
そしてヤツはその壁を自分で壊しながら急接近してきた。
「こうなったらタツロウ、お前だけでもぶっ殺す! 左手は撃った直後、右手は人差し指が折れていてもう撃てまい!」
「残念だったな。オレは右手の親指でも魔力を溜められるんだ」
右腕を振りかぶったバスティアンに、今度は右手親指に溜めた魔力で弾を撃つ。
「そんなもん弾き飛ばしてくれるわ!」
魔力が不十分で圧縮できていない空気弾は、ヤツの右フックであっさり弾かれた。
だけど、それは囮だよ。
オレの身体は、飛行魔法を応用した高速接近でバスティアンの右脇を通り過ぎていく。
そしてフックを打ったあとでガラ空きの右脇腹、急所のレバーのあたりに、すれ違いざまに左拳を当てた。
その一瞬のうちに、拳から5発連続で風圧魔法を衝撃波の如く打ち込んでやったのだ!
そのまま通り過ぎたオレの背後から聞こえたのは。
「ゲフッ……ぐおおおお!」
バスティアンが吐血しながら上げた断末魔だった。
ズゥーンとヤツの巨体が地面に倒れていき、その後はピクリとも動かなくなった。
その代償として、左拳まで血だらけになってしまい、少なくとも今は使い物にならない。
「そ、そんな。バスティアンさんがやられちまうなんて」
「ひええっ! もうダメだ、逃げるぞ!」
「うわあー!」
女子たちを拘束していた3人の雑魚どもが我先にと逃げ出した。
逃がすかよ!
しかし反対側からオスヴァルトの声が耳に入った。
「おいこら、お前ら! ぼ、僕を守れ、でないとカネは払わんぞ! それにしてもバスティアンの奴、こんな役立たずだったとはな!」
そうだ、先に首謀者のコイツを捕まえねーと。
オレはオスヴァルトがいる方へ向いてギロッと睨みつける。
「クソがっ! タ、タツロウ、覚えとけよ! パパに言いつけてお前をこの学校にいられなくしてやるから! それじゃあな!」
野郎! 捨て台詞を吐きつつ、飛行魔法でしれっと逃げ出しやがった。
ヤツの所有するクラブハウスに逃げこまれたらお終いだ、また罪を問えなくなりかねない。
だから残った魔力を振り絞って最大出力の飛行魔法で追う。
オスヴァルトはヘロヘロの速度で飛んでいく。
魔法実習の授業をキチンと受けてねーんだろうな。
オレはあっと言う間に追いつき止まるように呼びかける。
「待てやコラアッ! オレから逃げ切れると思うなよ!」
「そんなことを言われて誰が止まるか! 食らえ!」
振り向きざまに風圧魔法を出してきやがった。
抵抗するなら容赦しねえぜ。
オレはヤツの攻撃を上に飛んで躱しつつ、ヤツに向かって急速に降下していく。
そして左腕のラリアットを思いっきり首元に叩きつけ、ヤツの悲鳴などお構いなしにそのまま地面に背中から叩きつける!
「ウッ……!」
ヤツは小さなやられ声だけ出すと、完全失神KOで何も言わなくなった。
やり過ぎたか……?
いやいや、アンジェリカはコイツに途轍もなく深い精神的ダメージを受けたのだ。
それに比べれば、こんなダメージなんぞたかが知れている。
「おーーーい! アンジェリカ! みんな! 無事なのかー!?」
オリヴィア部長の声だ!
ヘルムートたちも一緒に駆けつけてくれているのが見えた。
ようやく、安心できる。
オレは両手の激痛を我慢しながらオスヴァルトの身体を引きずっていく。
そしてヘルムートとウルバンに手伝ってもらって、失神しているオスヴァルト、次いでバスティアンを縄で順番に捕縛した。
「タツロウ君〜。ちょっとこっちに来てくれるかしら〜?」
ハンナ先輩の声だ。
いつの間にか縄と猿轡を解いてもらったらしい。
振り向くと、地面に座った先輩と、その胸に抱かれているアンジェリカの姿があった。
そうだ、彼女は無事なのか?
「先輩、アンジェリカの具合は」
「落ち着いて。とりあえず身体的には無事よ。それより、この子さっきからずっとタツロウ君の名前をうわ言のように言ってるの。だから話しかけてあげて?」
「わかりました。……アンジェリカ、聞こえるか? オレだ、タツロウだよ」
「タツロウ、くん……? わたしを救けてくれたんだ……!」
「ああ。でもすまない、遅くなっちまって」
「ううん。救けてくれただけで、嬉しい……」
「アンジェリカ、おい」
「安心して眠っちゃったみたい。あとは私に任せて、2人にも声をかけてあげて?」
そういえばソフィアとレオナは……部長と3人で何かを取り囲んで座っている。
そっと覗き込んでみると……その中心には横たわったドミニクが!
「ドミニク! おい、生きてるのか?」
「タツロウ、大きな声を出さないで! ドミニクはまだ息があったから、今はソフィアに治癒魔法で応急処置してもらってるの」
「すまん、レオナ。そういえばソフィアは土と水の2属性持ちだったな」
この世界では治癒や回復系の魔法は水属性であり、基本的にはその属性でなければ扱えない。
それにしてもドミニク、生きてて良かったぜ。
「……ありがとうねタツロウ。救けてもらって」
「いや、オレこそ助けられたよ。レオナが部長たちに合図を送っていなかったら今頃どうなってたか」
「いやあ、そんな大したことしてないけど、なんか照れるな。あはは」
レオナにもやっといつもの明るい表情が戻ってきた。
「……とりあえず、やれるだけのことはやってみました。でも私、治癒魔法はあまり得意ではないので、早くお医者様に見せないと」
「お疲れさんソフィア。そのあたりのことはアタシがなんとかするから休んでいていいよ」
「ありがとうございます、部長」
「おーい! 一体何があったんだー!?」
向こうから守衛たちと男子寮管理人のグーテンベルクの姿が見えた。
レオナが送った合図が向こうにも見えてたんだろう。
これでオスヴァルトたちの身柄引き渡しと、ドミニクを病院に運ぶことに目処が立ちそうだ。
オレは、疲れが見えていて座ったままのソフィアに声をかけた。
「ソフィア、お疲れ様。自分も酷い目にあったのにドミニクの救護まで、大変だったろう? 立てないなら手ェ貸すよ」
「……来ないでください」
ええっ!?
いきなりの拒否反応……どうしてだよ?
救けるのに時間がかかったから?
ボコボコに殴られて顔が怖いから?
それとも、先にアンジェリカとレオナに声をかけて後回しにしたから?
オレの様子を見て頭の中が混乱しているのを察したのか、ソフィアの方から説明された。
「……ごめんなさい、怒ったりしているわけではありません」
「じゃあどうして」
「……私をずっと拘束していた男のことを覚えていますか?」
「え? ああ」
「途中、貴方からの攻撃……空気弾が男の右頬をかすめた後ですが。彼は……その、失禁をしていたのです」
「そういえば、ヤツはズボンが濡れていたな」
「その状態での拘束が長かったので……あの、その臭いが私の衣服に染み付いているのではと。それで恥ずかしくて」
「なあんだ……そんなことオレは気にしない」
「……貴方は気にしなくても、私が気になるのですっ!」
ソフィアは途中から顔が赤くなってきて、最後はちょっと怒らせてしまった。
でもまあ、何にしても嫌われたのではなくて良かった……。
あれ、安心したら頭が急にフラフラとしてきた。
とても立ってられない。
それに意識が朦朧としてわけがわからなくなってきた。
最後にソフィアが何か叫ぶ声が聞こえたあとのことは何も覚えていない。




